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現代建設が先進的なBIMとCDEの活用でパナマメトロ3号線の軌道を維持

パナマシティの深刻な交通問題の緩和に役立つとされる大規模な鉄道プロジェクト、パナマメトロ3号線は2026年の完成を予定している
[提供: Hyundai E&C]
  • パナマシティの深刻な交通問題の緩和を目指す大規模な鉄道プロジェクト、パナマメトロ3号線が2026年の完成を目指して進行中。。
  • 現代建設 (Hyundai E&C)、ポスコ建設 (POSCO E&C) 、現代エンジニアリングからなる韓国のコンソーシアムがプロジェクトの施工者となっている。
  • この複雑な巨大プロジェクトでは、ステークホルダーにとって実用的なBIM実行計画とリアルタイムでの正確な調整が不可欠なものだ。

パナマシティの人口の約30%が集中する大都市圏の慢性的道路渋滞の解決策として、大規模な鉄道インフラプロジェクト「パナマメトロ3号線」の開発が進められている。現在全長34kmを建設中の3号線はパナマ運河を横断してパナマ東西を結ぶもので、高低差の激しい地域をモノレールで通過する。この25億ドルのプロジェクトは、パナマ運河の拡張以降では国内最大規模となり、アライハン地域の交通渋滞を緩和して、その開発期間中に推定5,000人の新規雇用を創出する予定だ。

このプロジェクトは2024年6月時点でその60%が完成しており、2026年第2四半期の竣工を予定している。主体となる施工会社は2020年10月に選定された、現代建設 (Hyundai E&C) 、ポスコ建設 (POSCO E&C) 、現代エンジニアリング (Hyundai Engineering) で構成されるHPHコンソーシアムだ。この3号線プロジェクトの入札では、韓国内外の大規模地下鉄建設プロジェクトにおける実績と、その技術力、工期遵守の能力が高く評価された。

駅の構造要素に加えて外部道路や景観計画もBIMモデリングされた
現代建設は駅の構造要素に加えて外部道路や景観計画もBIMモデリングすることで、歩行者専用道路や公共交通機関との接続性を効果的に評価できた [提供: Hyundai E&C]

大規模コラボレーションの実現

現代建設のインフラエンジニアリングチームでシニアマネージャーを務めるファン・ジェウン氏は、こうした大規模なプロジェクトを受注するため、過去の海外プロジェクトでの経験を反映させた、大規模鉄道プロジェクト向けの実用的なBIM (ビルディング インフォメーション モデリング) 実行計画を提示したと話す。「技術的な評価で高得点を獲得できたのは、共通データ環境を通じて、さまざまな業務間のコラボレーションを促進するプランを積極的に提示したからです」と、ファン氏は話す。

国際的な建設プロジェクトには、世界各地から数多くのエンジニアリング企業とチームが関与する。現在、3号線プロジェクトにはHPH JVの韓国人スタッフ、発注者であるパナマメトロ公社の地元パナマ人スタッフ、日本人の監督チーム、スペイン人設計者など約350名が参加している。

「この計画には、さまざまな建設分野間のコラボレーションを活性化させる利点があります」と話すファン氏は、複数のチームからの意見が必要な問題を解決するにはデジタル連携が不可欠だと説明する。「例えば、配管エンジニアは配管をスムーズに設置するため特定の壁を貫通させることを望む一方で、構造設計エンジニアは構造上の安全のため配管の迂回を主張することがあります。こうした問題の解決には、従来は対面での会議やビデオ会議のための定期的な出張、膨大なデザイン資料の持ち込み、意見交換、合意形成が必要でした。しかし今では皆が共通の視覚化モデルを見ながら、オンラインでリアルタイムにアイデアを交換して進捗状況を確認できるので、意思決定をとても迅速に行えます」。

パナマメトロ3号線ロマ・コバ駅の完成予想図
パナマメトロ3号線ロマ・コバ駅の完成予想図 [提供: Hyundai E&C]

設計の問題をフロントローディングで解決

従来は設計上の問題点を事前に把握することが難しく、施工前や施工中に問題が表面化して、竣工の遅れや欠陥の発生につながることがあった。だが現在は、すべてのステークホルダーが設計段階から関与し、問題をリアルタイムで特定できるため、相当数の設計上の問題が着工前に解決される。このシームレスな連携はコスト削減につながるだけでなく、プロジェクトのスケジュールの前倒しにも貢献する。

「今ではフロントローディングを実践できるようになりました。フロントローディングは、もともと製造業で開発された生産性管理手法として広く知られており、現在では建設業でも採用されるようになっています」と、ファン氏は話す。この手法では、より多くのコストと労働力をプロセスの初期段階に投入する。建設前に問題に対処して解決することで、建設後の修正よりもはるかに低いコストで簡単に解決できる。たとえ建設が多少遅れても、設計段階での徹底的な評価によって問題を積極的に削減することで、プロジェクト全体のタイムラインと総予算を削減可能だ。

「設計上の問題が明確に可視化され、全員がそれを確認でき、役割分担も明確であるため、むしろ問題を解決せずに先へ進むことの方が難しくなっています」と、ファン氏。「2021年10月以降、解決の必要な問題は約13,000件ありました。従来のアプローチを続けていたら、こうした問題は対処されないままで、現場での着工後に初めて発覚し、手直しや変更指示が必要になっていたでしょう」。

パナマシティの現場ではトンネル掘削の準備が進められている
パナマシティの現場でトンネル掘削の準備が進められている

BIMとCDE機能の強化

こうした恩恵は、一夜にして得られるものではない。何十年も続けられてきたプロセスを変えるのは容易でなく、韓国の建築建設業界でも多くの企業は、いまだにBIMとCDE (共通データ環境) を採用していない。大韓経済新聞が5月に報じたところでは、韓国鉄道公社や韓国土地住宅公社など当局の多くがBIM適用義務の割合を大幅に拡大したものの、国内企業はBIMサービスを外注することが多く、実際のプロジェクトではBIMを完全には導入していないという。

だがファン氏によると、現代建設はBIMとCDEの導入の要求が高まる海外市場を見据えて、2010年から準備を進めてきた。BIMの実践適用のためのタスクフォースが立ち上げられ、以来同社はオートデスクと連携して、その能力を養ってきた。このタスクフォースは、BIMモデリング専任のスタッフ2名と各分野のフィールドエンジニアを含む6名で構成されている。

「全員がBIMとCDEを念頭に置いて自らの作業プロセスを観察すれば、それに基づいて設計の生産性と品質を向上させる機会が必ずあるはずです」とファン氏は話し、一部の専門家だけでなく、AECOの全ステークホルダーのためのツールとしてのBIMの重要性を強調する。「各自がBIMを活用して自分の仕事の生産性を高めるには、プロセス開発も必要です。BIMを付加的なタスクでなく、既存の作業を簡素化するツールとして捉えることに重点を置くべきです」。

現代建設は、CDEを普及・促進するプラットフォームとしてAutodesk Construction Cloudを活用している。「クラウドを活用する場合、セキュリティ上の懸念や、権限や文書管理などの複雑な設定がクラウドプラットフォーム採用の妨げとなることがあります」と、ファン氏。「Autodesk Construction Cloudでは事前に責任と役割を設定でき、権限が自動的に割り当てられ、わずか数クリックで関連設定を完了できるため、セキュリティ上の懸念をとても容易に排除できます」。

運河下のトンネル掘削に使用される機器の図面はデザインレビュー用にAutodesk Navisworksを経由してAutodesk Construction Cloudにアップロードされた
運河下のトンネル掘削に使用される機器の図面はデザインレビュー用にAutodesk Navisworksを経由してAutodesk Construction Cloudにアップロードされた[提供: Hyundai E&C]

プラットフォームの有効性を高める

2023年11月、現代建設はパナマ運河の下に全長4.5kmのトンネルを建設する3億5,000万ドルの追加契約を受注した。2026年第2四半期に完成予定のこのトンネルは、メトロ3号線と連動したプロジェクトで、パナマ運河の東側と西側を結ぶ。既存の3号線プロジェクトとの関連から、現代建設はBIMとCDEを通じて強力なロックイン効果を確立でき、プロジェクト遂行能力を効果的にアピールして、後続プロジェクトの獲得に有利な立場を確保した。

「この海底トンネルは、当初のパナマ運河を橋で渡る計画を全面的に見直したものです」と、ファン氏。「影響を受ける鉄道設計の部分を迅速に調整する必要がありましたが、既存の3号線の設計がBIMを使って作成されていたため、スムーズな設計変更が可能でした」。

「橋梁区間をトンネルに変更する場合、その区間だけでなく隣接区間も設計変更が必要になります」と、ファン氏は続ける。「BIMを表面的に導入するのでなく、しっかりCDEと連携してBIMを導入することで、有利なポジションを確保できたと思います。CDEを活用し、コラボレーティブなデザインを実施することで発注者、設計事務所、協力会社を含むサプライチェーン全体が得られた協働プロセスと経験は、今後のプロジェクトの受注にもプラスの効果をもたらすでしょう」。

著者プロフィール

Kijun Lee (이기준) はフリーランスのジャーナリスト兼翻訳者。国際情勢、最先端技術、地域社会との関わりに関心を持ち、ジャーナリストとして「中央日報」や「Forbes Korea」に勤務した経験を持つ。「Design & Make with Autodesk」韓国語版エディター。

Profile Photo of Kijun Lee - JP