金型作りから物性測定まで: スキルアップで実現するテクノハマの業務拡大
愛知県豊田市のテクノハマ株式会社は、トヨタ自動車の協力企業として自動車の内外装部品を製造する小島プレス工業が率いる小島グループの中でも、金型の設計・製造に特化した歴史ある会社だ。グループからの仕事に加えて、直接トヨタから金型や設備を受注するなど、その独自性も高い評価を受けてきた。30年以上に渡って金型作りを行なってきた同社は、この業務に要求される高いスキルや新しいテクノロジーへの対応を、どのように行っているのだろう。
小島プレス工業で執行役員として生産技術を担当し、またテクノハマで取締役を務める松元篤志氏は、「流動解析や金型作りなどに関する基本的な教育カリキュラムは用意していますが、技術者のレベルアップやトレーニングに関しては、それほど特別なことは行っていません」と述べる。現在はグループ会社内で流動解析を行うメンバーを集め、連絡会を開催。その中で情報共有や技術交流を行っているという。
各グループ会社では毎月勉強会を行い、その分科会で、それぞれのスキルを高いレベルで合わせる活動が行われている。解決策の必要なテーマに対して、グループ会社内だけでなく、メーカーや代理店からも技術的な情報を入れ、実際に行われた試みや、その際に得られた知見などを共有。若いエンジニアがシミュレーションを積極的に使い、金型や製品設計にもかなり貢献するようになったという。
設計やシミュレーションを行う社員には常に最新の技術が要求されるが、松元氏は「組織内だけで全てを補おうとすると、そうしたスピード感についていけなくなります」と語る。そして新しい技術や商品の開発に向け、社外のメーカーやベンダー、ベンチャー企業などとの連携に取り組んでいるが、自動車関係のビジネスではセキュリティ、機密性などの問題もつきものだという。「どういう前提条件で連携していくか、という部分も大切です。ステップを踏んで、お互いの機密レベルや関係性を深くしていく必要があります」。
材料物性測定への新たな取り組み
同社のビジネスでメインになるのは樹脂成形金型の設計・製造だが、この数年間はより優れた金型を設計するための環境づくりにも注力してきたという。「従来から金型設計に Autodesk Moldflowによる流動解析を活用してきましたが、その精度をさらに向上することに取り組んでいます。これまで樹脂金型をメーカーへ販売してきましたが、そのコストは抑えられる傾向があります。そこで、さらに優れた金型づくりが行えるよう、業界のエキスパートにも協力をあおぎ、材料物性測定への取り組みを始めました」。
金型を使う製品の設計・開発や製造において、材料の持つ特性(物性)の評価は不可欠な要素だ。従来はオーストラリアのメルボルンへ材料測定を発注していたが、「正しい材料物性を測定し、そのデータを活用することが、より良い樹脂成形を行える金型につながります」という松元氏は、材料測定を行う設備への投資やスキルの積み重ねを行なうことで経験を積み、昨年までに一定のレベルへ到達することができたという「現在はその結果をCAEにフィードバックし、より完成度の高い金型作りにつなげられるようになってきました」。
材料測定を自社で行うことでスピード感も増し、材料を決めることに迷いが無くなるという。「もちろん、材料物性を測定できるから金型作りがうまくいくということではないので、まずはそれぞれの材料物性を正しく測定して、それを設計のデータに反映させていくことに注力しています。現時点で、小島グループ内で使われる材料の96%はカバーしています」。
製造業においては、新しい労働力の確保も重要だ。今後の市場規模を考えると募集する人数は抑えられているが、「データに強い人材を、どう確保するかがキーだと思います」と、松元氏は述べる。「人材確保の取り組みの一環として、博士課程に進む学生が行う研究を支援するような産学連携も行なっています。最近の技術系の学生は、専門性も高くなっている傾向があり、また語学力は明らかに高くなっています」。こうした語学力は、今後のビジネス展開においても重要な役割を果たす可能性がある。
さらなる業務の拡大
現在、樹脂測定はグループ内での活用が行われているが、今後は事業として展開していくことも視野に入れられている。「ものづくりにはスピードが非常に重要なので、国内で材料測定が行えることにより、外部のお客さんも解析の精度を上げることが可能になると思います」と、松元氏。「金型設計、金型作りと同様、材料物性も事業として確立させたいと考えています。今後、国内の自動車業界は生産する量や種類が減ることも予想されていますが、そうなった際にも、これまで培ってきた技術を海外で広く使ってもらおうと考えています」。
では、10年後、20年後には、金型設計はどのようになっているだろう? 「CAEで検討している段階で80-90%の完成度を実現でき、コストを含めて全てを作り込めるようになると思っています」と、松元氏は予測する。「現在は、解析を行っている一方で、実際に金型を作ってみて、その上でうまくいったところ、そうでないところを知識、知見として貯めているに過ぎません。今後はAIなどを使うことにより、そうした蓄積が完成度の大幅な向上につながるようになり、CAEを使ったシミュレーションが中心になり、それを計画的に作るようになると思います」。
今後、金型作りにおいては、AIが行う部分の比率が、人間以上に高くなっていくだろうと予測する一方、松元氏にとって、金型作りにはまだまだ奥が深い面白さがあるという「樹脂成形金型では、本当にいろいろな形を作り出すことができます。それを実現するために金型の機構や仕様を考えて、それが最終的な製品となるところに喜びを感じています」。
また、技術面でもさらなる進化を予測している。「まだまだ枯れた技術では無く、これから伸びていくところもたくさんあると思います。AIやビッグデータなども進化する一方で、人がものを作っていく楽しみ、それを考えるエンジニアも、無くならないと思います。AIとうまく共存しながら、かつ人間の技術レベル、付加価値をどう上げていくかが大切でしょう」。