プレコンストラクションとは? それが建設の成功を予測できる理由
- プレコンストラクションとは
- プレコンストラクションが重要である理由
- プレコンストラクションのフェーズにおけるアクティビティ
- プレコンストラクションのベストプラクティス
- プレコンストラクションが実現するメリット
- プレコンストラクションの現在と未来における 4 つの重要ポイント
建設は、最もコラボレーションが要求される業界のひとつと言える。私は過去の経験の中で、1,000 社を超えるパートナー企業に効率的なコラボレーションが要求されるようなメガプロジェクトを推進する顧客の姿を目にしてきた。だが共同作業の必要性が明白であるにもかかわらず、プロジェクト チームの多くは、現在も驚くほど断片化したままになっている。
その原因は、テクノロジーが統合されていないことで生じる、他部門との連携が行われない、いわゆるサイロ化されたワークフローだ。協力会社からの入札、オーナーへの相談、ベンダーの審査、設計関連の問題の建築家やエンジニアへの再確認など、重要な活動での透明性が欠如していることで、プロジェクト チームに情報が伏せられたままとなり、建設プロセスが進行した段階で多数の手戻りが生じている。こうしたリスクを緩和し、プロジェクトの成果を向上させ、不要なコストとスケジュールの超過を削減するには、全てのデザイナーと施工会社、関係者に、正確でリアルタイムなプロジェクト データへのアクセスが必要だ。BIM やクラウドベースのソリューションといったツールを入札管理などプレコンストラクションの活動に使用することは、設計を完全に再現した建物へと変化させるプロフェッショナルたちによる、複雑なネットワークへチームをコネクトすることに役立つ。
プレコンストラクションとは
プレコンストラクションとは、設計が完成した後、建物の建設が始まるまでに行われる全ての業務を指す。建築家のビジョンを、施工会社とクルーが使用できる、建設可能なプランへと転換させることだ。設計の完成と現場での施工の間にあるこのフェーズは、極めて複雑な期間となり、これがプロジェクトの成否を決める。
建築家は「設計意図」を、ゼネコンへと提供される実施設計図に転換させる責任を負う。こうした文書は建物を、その構成要素と部材全てを含めてビジュアルで示すものだ。その後、指示書をプロジェクト チームが実際に使用できる文書やモデルへと変換するのはゼネコンの仕事だ。設計意図を建築可能なものへ変換し、その洗練されたコンセプトを施工するプランを立てるには、コストの計算や材料の発注よりずっと大変な作業となる。
プレコンストラクションが重要である理由
プレコンストラクションは舞台裏の裏方のような業務だが、それは単なる調整やプランニングではない。プレコンストラクションこそが、その仕事を成功させ利益を生み出すフェーズであり、それ以外の全ては、得たものを失わないようにするものだ。施工者のマージンや利益は、ここで決まる。ゼネコンは、リスクを最小限に抑えるようプランを調整し、入札プロセスを準備し、パートナーを勧誘し、実際のスケジュールを組んで、それを実行する。
多数の建設会社が、整備され、デジタル技術を活用したプレコンストラクション プロセスに価値を見出しており、より堅固な連携を支援するべく自社の管理手法を変更している。
プレコンストラクションの主要な 3 つのアプローチ
- Design-bid-build: 従来の設計、入札、施工のプロセスでは、建築家がプロジェクトをデザインし、オーナーは入札を行ってゼネコンと契約し、ゼネコンは協力会社を採用し、サプライヤーは入札して見積もりを作成する。こうした多段階のシステムは、プレコンストラクションにおける柔軟性を奪い、コスト高をもたらすことが多い。
- Design-build: それに代わるポピュラーな手法が、オーナーが設計と施工の両方を担う企業を採用する DB (設計施工一括発注方式) だ。
- IPD: IPD (Integrated Project Delivery) のアプローチは、オーナーとゼネコン、建築家、主要な協力会社、サプライヤーが単一の相互契約を結び、目標やコスト、リスク、責任を共同で検討する「小さな組織」を形成する。全てのプロジェクトに適しているわけではないが、この方式に転換した企業も多くあり、時間とコストの大幅な削減をもたらす可能性がある。
プレコンストラクション チームは、建物が実世界に出現する前にデジタル空間でプロジェクトを完了させる
プレコンストラクションのフェーズにおけるアクティビティ
プレコンストラクション チームは、建物が実世界に出現する前にデジタル空間でプロジェクトを完了させる。適切な連携ソリューションが重要であり、見積や設計、修正が同時に行われるため、プロジェクト進行上の厳密なフェーズ分けは存在しない。チームのデジタル空間における連携がスムーズであれば、それだけプロジェクトのスコープをより良く理解できる。見積はより正確になり、施工会社と協力会社には、入札とスケジュールがより信頼性の高いものとなって、変更の実施もより簡単になる。
プロセス全体は、明確に細分化されたプレコンストラクションの幾つかのワークフローに細分化でき、それを同時進行可能だ。
モデルの調整
プロジェクトの構造上の安全性においては、モデルの調整 (コーディネーション) が重要だ。このプロセスは、モデルが建設可能であることを保証するためにデザインされたものであり、各専門分野のモデル全てを調整するために、施工会社や関連会社、デザイナー間での膨大な連携が必要になる。チームは連携に BIM ソフトウェアを利用して干渉を排除することで、それ以降のコストのかさむミスの多くを防ぐことができる。現場での建設が始まる前にモデル内で変更を行う方が、ずっと安上がりだ。
通常、建築家は設計レビュー ソフトウェアを使用する。それにより複数のモデル上で連携して設計プロセスを管理でき、建物のレイアウトや設置面、力学性能を多角的に検討できる。チームは、Autodesk BIM Collaborate など設計レビューとモデルの調整が単一のソリューションに統合されたワークフローを用いることで、変更の各段階で確実に共通理解を得ることができる。
数量の把握
モデルの調整と同時に進行する数量拾いと呼ばれるフェーズでは、担当者が図面や仕様書からプロジェクトに必要な部材 (木材からコンクリートまで) の数量を計測する。調整されたモデルは調達・納品可能な数量へと変換されて、共通の建設タイムラインへ組み込まれる必要がある。
大抵の施工会社は図面から数量化するが、モデル上でも数量拾いを実行できれば、最高の精度を確保できる。2D および 3D の数量化を Takeoff のような単一のソリューションへ組み込むことは、品質を犠牲にせず数量化のプロセスを高速化したいと考える人々にとって、画期的な出来事となっている。
見積もり
積算者は、こうした数量と人件費、機材調達費、レンタル料などの予算項目をベースにコストと価格の計算を行う。これらの数字が、最終予算の決定に役立つ。
入札
見積が手元にあれば、施工会社が適切なパートナーを判断するのもずっと簡単になる。ゼネコンは、最終見積へ到達する前に入札しなければならないこともある。だが最終予算とスケジュールを確認して入札プロセスを管理することは、Autodesk BuildingConnected などの効率的な入札管理ソフトウェアが無ければ困難だ。
入札プロセスは、プランニングと交渉の要素が融合されたものだ。競合する各社は、まず特定のプロジェクトやプロジェクトの一部を請け負うための入札を行う。入札額は、これまでのデータや既存のプロジェクト プラン、数量拾いの分析をベースとするコスト見積を計算することで決められる。よりしっかりした数量である設計数量は、人件費を含めて、調査士 (クオンティティ サーベイヤー) や積算コンサルタントが準備を行う。
プレコンストラクションのベストプラクティス
施工会社は、プレコンストラクション プロセスをよりインテリジェントかつ効率的なものにするよう、措置を講じることができる。各現場では、事前にロジスティクスと材料納入の計画を立て、現地当局の認可や会合のための十分な時間を組み込んでおく必要がある。不測の事態へ備えることが、顧客の期待に応えることに役立つ。
BIM ソフトウェアの活用
優れたプランニングに最も効果的なツールは、恐らくBIM データの活用だろう。これをソリューションに組み込むことで、プレコンストラクションの成果にダイナミックなレイヤーが加わる。最も統合された BIM ソフトウェアでは、設備荷重などの調整や輸送スケジュールへの影響の評価、リアルタイムでの予算情報の作成や、プロジェクト要件や規制の詳述が行える。BIM はメタデータに似ている。BIM エキスパートは、BIM を使用することで希望する度合いでモデルを操作し、非常に詳細な情報を抽出してデザインの建設可能性を確保できる。
協力会社の事前審査
協力会社の事前承認は、入札・雇用プロセスにおけるリスク緩和に役立つ。TradeTapp などのデジタル ツールを使用し、潜在的なパートナーに経営状態や認可、安全履歴をまとめて提出するよう依頼することで、適切なパートナーの選出と採用をずっと迅速に行える。
さまざまなチームで生成された情報は膨大なものになるため、クラウドベースのテクノロジーを用いて全員を同一モデルへコネクトすることで、問題や追加情報などチーム全体に即座に共有されることが保証される。時間とコストのムダである電話による伝言ゲームでなく、全員が必要なときに適切なデータにアクセスして、詳細な情報に基づく決定を行えるため、現場でのリスクと情報格差を最小限に抑えることができる。
プレコンストラクションが実現するメリット
まとめると、プレコンストラクション プランニングによってもたらされるのは:
- 明確性
- 透明性
- チームワーク
- 節約
プレコンストラクションの核となるのは、最初から全てを適切に行うということだ。プロセスを向上させることでプロジェクトの効率がさらに向上し、問題を事前に回避でき、チームがスケジュールを維持し、最終的にはプロジェクトが予算内に収まるようになる。
モデルの調整と数量拾いのソリューション、現場でのプロジェクト管理ソリューションを共通データ環境 (CDE) でつなげることで、変更管理の透明化やプロセス チェーン全体を通じたデータの正確性の維持など、パワフルな利点が提供される。
コネクトされたプレコンストラクション プロセスは、関係者全員にエキサイティングな未来を約束する。つながりが強化されたワークフローでは、より多くの調整を臨機応変に実施でき、より良質で迅速な施工、ひいては、より低コストで優れた製品へとつながる。複数のチームがコストを削減し、建築家やデザイナーと直接コミュニケートできる。コミュニケーションの向上は、オーナー、サプライヤー、協力会社、ゼネコンの間の信頼を構築し、より良い関係も生み出す。
DB や IPD プロセスへの移行は多くの利点をもたらすが、協力会社は昔ながらの手法やワークフローに縛られたままであることも多く、未だに紙とペンで業務を行っている。また、入札の公平性と競争性に対する厳密な規制があり、競争者全員が同じプロジェクトプランで入札しなければならない政府関連のプロジェクトの経験を持つチームは、新しい手法への適応が遅れることもあり得る。
建設における生産性の問題解決を支援する
Penta Building Group のクリフ・コール氏は、建設業界における生産性の問題とは、実質的にはプレコンストラクション フェーズでスタートする調整と情報の問題だと述べている。
「生産性の損失のほとんどが、情報不足や不正確な情報から生じます。これが手戻りの原因となってスケジュールに遅れが生じ、スケジュールの遅れがコストへ影響します」と、コール氏。「Autodesk Construction Cloud は、さまざまな人々に向けた複数のモジュールを備える単一のプラットフォームにより、コネクテッドな建設を可能にします。現場やオフィス、移動中であっても、その居場所に関係なく社内外の人々とコネクトすることができます」。
Webcor Builders でプロジェクト ディレクターを務めるグレッグ・スコット氏は「建設現場にいなくても施工者の日常業務に重要な関係者は多数存在しており、そうした関係者全員をシームレスな環境でつないでおくことこそ、私にとって本当に“コネクト”することです」と話す。
プレコンストラクションの現在と未来における 4 つの重要ポイント
プレコンストラクション プロセスを優先させる企業が増えると、そのプロセスを継続的に向上させることが重要になる。そのために 4 つの構成要素がある:
1. データをクラウドに移動させる
どのプロジェクト チームも、あらゆる情報をクラウドに置くよう努めるべきだ。現場でのミスのほとんどは、正しい情報を適切な時期に入手できなかったことで生じている。
データ共有のベストプラクティスを活用している他の業界と比べて、建設業界は後れを取っている。建設業界の中小企業は、適切な情報技術インフラを導入するためのリソースが不足しており、最新のデジタル テクノロジーに大きな投資をできないことも多い。だからこそ、比較的低価格なクラウドベースのデータ ハブは、設計文書やモデルでの容易な連携を可能にする理想的な選択肢なのだ。現場でのデータ保管も必要ないため、これまでは資金面で手の届かなかった建設会社も、優れた IT ソリューションの利点を活用することができる。
2. コネクトされたワークフローを生み出す
デジタル アセットとデータ レポジトリをクラウド上に作成することで、全情報が適切なチームにアクセス可能なものとなる。設計文書、材料データ、スケジュールは、全てが同じ共有システム内に存在する。
コネクトされたワークフローを使用することで、クラウド内のデータは有益なものとなり、更新、変更、コメント、追加がリアルタイムで表示され、承認されるようになる。見積は入札、契約、調達の各フェーズを流れ、その一方でアセットやコストの変更は正しく記録され、簡単に参照できる。設計文書への変更はリアルタイムで反映され、また RFI は文書化され検索可能となるので、質問の繰り返しを回避できる。プレコンストラクションの重要な変更や更新は保存され、現場の作業員と共有できるので、適切な情報を探すための時間も省くことができる。
3. クラウドを使用してソリッドなネットワークを管理
コネクトされたワークフローはプロジェクトを成功に導くが、適所に適材を雇用するために使用できる信頼性の高い建設業界ネットワークを構築することは、事業が時の経過と共に収益性をどう維持できるのかにつながる。データの正確性を確保するクラウドベースの関係管理プラットフォームがなければ、ネットワークの規模が大きくても意味がない。管理の行き届いたクラウドソースのプロフェッショナル建設ネットワークは、適切な人材にプロジェクトの適切な箇所へのアクセスを提供する下流のワークフローを円滑化することで、説明責任を設け、リスクを排除する。
4. 自動化を享受する
適切なワークフローとソリューションは、チームが手動のプロセスを自動化するのに役立つ。これは建設プロジェクトにかかるコストと時間の削減につながる。ロボティクスや AI への以降は雇用削減のためでなく、不要なボトルネックを取り除き、プロジェクトのパートナーを煩雑なタスクから解放して、プロジェクト データによる適切なやり取りを促進することだ。それが、プロジェクト チームがより賢明な判断を下し、各フェーズをスケジュールどおりに完了させるのに役立つ。専門家たちは、自動化により労働者はより効率的かつ生産的になり、また時の経過と共に自動化により建設関連の雇用は増加するだろうと考えている。
AI は、リアルタイムでなされるデザイン変更に基づいて材料や入札を自動更新することで、プレコンストラクション ワークフローを促進できる。チームは、手動による数量計算や、その後の見積へのデータ入力に時間をかけるべきではないのだ。自動化がこういったタスクを引き受けるようになれば、プレコンストラクション チームはクリティカル シンキング スキルを戦略上の問題へと応用することができる。自動化は、煩雑なタスクに費やされる時間とコストから全員を解放するだろう。