競争相手のビジネスの進め方を向上させようなどと考えるのは、自信に溢れ、先見の明を持った幹部だけだ。Gilbane Building Companyでオペレーショナル・エクセレンスおよびプランニング部門の統括責任者と取締役を務めるスー・クラワンズ氏は、まさにそれを実現したいと考えている。業界全体で、より現代的な工法、特にプレファブリケーションへ移行するのだ。
「プレファブリケーションとその建築工法の採用に関しては、私たちはまだまだ初歩的な段階にあります。米国でも、せいぜい中学校レベルでしょうか」と、クラワンズ氏。「ですが、同時に黄金期にあるとも言えます。昔は、リビジョンのスケッチを図面にテープで貼り付けたり、200枚にも及ぶ図面の筒束を運んだりしたものでした。既にBIMが変化をもたらしつつありますが、まだまだポテンシャルがあります」。
クラワンズ氏が言うなら間違いない。彼女は現在、大局的見地という課題に注目が集まる業界のリーダーなのだ。Gilbaneでの役職に加えて、彼女は米国建築科学学会 (NIBS: National Institute of Building Sciences) が2013年に設立したオフサイト建築審議会 (OSCC: Off-Site Construction Council) で副議長を務め、建築品質諮問委員会 (CQEC: Construction Quality Executives Council) の共同創設者と役員になっている。
クラワンズによれば、大規模な商業プロジェクトでは従来の工法は意味を成さない。「イノベーションには3つの経路があります。最も漸進的なのは反復で、それまでの手法を恒常的に向上させていくものです。例えば商業ビルの各部屋に、予めカットされた配線コネクターとスナップ取り付け式の差し込み口が入った箱を届けることができれば、部屋に立ち入り、ケーブルを1本ずつ切断してひとつひとつナットで取り付けていく必要はありません。こうした取り組みは既に始まっており、標準的なものとなるでしょう」。
もうひとつのイノベーションの経路は、わずか19日間で建設され、大きな驚きを呼んだが問題も含んでいる中国の57階建てビル小天城 (ミニスカイシティ)や、ブルックリンのAtlantic Yards Tower B2などのモジュール建築だ。
「これらの極端な例の間には、J・C・カニストラーロのように、安全性や効果的なコラボレーションといった点の最適化に努力しているイノベーターも存在しています」と、クラワンズ。「企業間で連携し、懐を開いて情報を共有することへの意欲は、業界でこの10年に生じた大きな変化です。それはBIMにより可能となり、この業界の躍進に最適な方法であることを証明しています。知的所有権 (IP) の共有は、テスラが競合他社へ所有特許を公開するなど、他の業界では起こりつつあります。遅かれ速かれ私たちの業界にも起こることです。ひとたび共有とコラボレーションを経験すれば、いとも簡単に伝播するでしょう」
クラワンズとGilbaneにとって、プレファブリケーション工法採用への変化の原動力となるのは以下のような要素だ:
「これは非常に重要です」と、クラワンズ氏は熱く語っている。Gilbaneの事故率は、既に2007年の時点でOSHAの率を長く下回っていたのだが、氏は「まだ十分とは言えませんでした。ゼロを目指していますから」と言う。Gilbaneは危険と負傷を防ぐため積極的プロセスによる改革、Gilbane Caresを導入した。
「あれから8年が経過し、大幅に向上しています」と、クラワンズ氏。「作業員が安全に帰宅できると分かっているのは、とても嬉しいことです」。クラワンズ氏は、プレファブリケーション工法が安全性を強化すると考えている。「足元のしっかりした工場内で快適に作業する方が、はしごや足場の上での作業に比べて安全なのは明らかです。現場での作業時間が減れば、それだけ作業員の安全性も高まります」。
クラワンズ氏にとって、単なる建設効率の追求は正しい目標ではない。より良いデザインと製造が、より高品質のビルを生み出すことにつながる。「BIMとプレファブリケーションをさらに活用するということは、より多くのデザインを検証し、管理された環境でより多くの作業を行うということにもなります」と、クラワンズ氏。「実際の建設前にモデルを構築するうアプローチは、クオリティを向上させ、プロジェクト終盤でのパンチ・リスト項目を大幅に減らして、より良いビルにつながります」。
建設における持続可能性の達成は、純粋に経理上の観点からだけでは正当化が難しい。Gilbaneはデザインのこの側面へ、道義的責任として取り組んでいる。「建設中に生じる廃棄物の削減はもちろん、落成までに使用される材料の全体量の削減にも努めています」と、クラワンズ氏。「建設における無駄が無くなるのなら、それだけで価値のあることです」。
氏は、マイク・カニストラーロ氏や他の業界リーダーと同様、プロジェクトスケジュールが全体的に短縮されるというより、むしろ設計にかかる時間は拡大して、建設にかかる時間は短縮されるようになるだろうと考えている。彼女によると、その理由は2つ。「まず、協調的で生産力の高いチームでの作業に慣れるにつれ、設計にかかる時間は低下し始めるはずです。次に、プランニングと設計における協調、より時間を費やすことによってリスクが低下し、全体的な建設スケジュールがより一貫性と信頼性が優れたものとなります。これにはかなりの価値があります。この業界では (時間節約の価値が) あまり評価されていませんが、私たちは8階建てのビルでフロア毎に工期を1週間短縮できています」。
クラワンズ氏はチームの生産性の高さを強調するが、これは彼女が一貫して業界へ送っているメッセージでもある。競合他社の参画に影響を及ぼすという意味では、彼女が人をやる気にさせる、説得力を持った熱心な発言者であることも一役買っている。
「人材、デザイナー、クライアントの才能を最大限まで活用していく必要があります」と、クラワンズ氏。「つまり、取るに足らないタスクにかける時間を減らし、チームとして他と効率良く作業することにもっと時間を割くのです。その取り組みの一部は行動様式 (信頼、規範、協調) ですが、私たちは、Gilbaneの企業文化の生産的側面はプロセスとして形式化できるということを学び、こういった指針を多者間での取り決めにも含める方法を模索しています。つまり、常にイノベーションを進んで受け入れ、機会を最大限に利用できるようになる必要があるのです」
アンガス W・ストッキングは資格を有する測量士で、インフラと設計テクノロジーについて 2002 年から著述を行っています。
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