コンシューマ製品、工業用途のどちらに関心を持つ人であっても、製造業界で「ディスラプション」(創造的革新、創造的破壊) が進行中であることはご存じだろう。顧客の需要が変化しつつあり、製造ツールと技術は進化を続け、製品がますますスマート化していることもご承知のはずだ。
では、こうした変化に対応しつつも、競争力を保ち続ける方法についてはどうだろう? その答えが、より安価な材料の使用やプロセス効率の向上、製造コストの低減だと考えているなら、残念ながら全くの間違いだ。コモディティ製品を提供していえるのであれば、現時点での競合に対する優位性は短命に終わってしまうだろう。現在望まれている、オーダーメイドでマスカスタマイゼーションされた製品の製造を行って、さらなる高みを狙うつもりがあるだろうか? そのひとつの方法は、プロダクト イノベーション プラットフォームを利用することだ。
ここ 2 年ほどで生まれた「プロダクト イノベーション プラットフォーム」という造語は、製造業界の転機を表している。IoT を含む新世代のディスラプティブなテクノロジーが DESIGN (設計) – MAKE (製造) – USE (運用) のプロセス全体をつなぐことで、従来の製品ライフサイクル管理 (PLM) が拡大される兆しを見せている。それは「ウォーターフォール モデル」による製品開発を避け、よりアジャイルな反復プロセスを支持する機会も提供する。
これまで自動車や航空機、産業機器などの製品メーカーには、それぞれの製品に共通点を持たないソフトウェア アプリケーションが必要で、そのライセンスも多数要求されていた。そして、CAD とデータ管理システム、解析アプリケーション、CAM プログラムなどのさまざまなピースを、ひとつにまとめる必要も出てくる。
こうした従来のプロセスは、共通の言語を持たず、全く異なるツールを使っている作業員たちを指揮して家を建てるようなもので、シームレスとは言えなかった。また製造業界においては、こうした段階的なアプローチは、アジャイルな製品開発プロセスに適合しない。
だがプロダクト イノベーション プラットフォームは、共通のデータ セットを用いて製品の開発やデザイン、設計、最適化、製造、販売、コネクトを行う能力を提供する。これはウォーターフォール モデルのプロセスを永久に放棄し、突き詰めれば、より良いサービスをカスタマーに提供可能とする開発サイクルだ。
このサイクルはデザインから始まり、デザインは従来以上に重要な存在になっている。製造するものがコンシューマ製品、産業用機械のどちらであっても。重要なのは顧客のニーズへきちんとマッチした製品を提供することだ。そのニーズは、いまや非常に複雑になり、パーソナライゼーションが要求されるのが問題だ。
Shoes of Prey は、パーソナライズド マスカスタマイゼーションの優れたモデルになっており、カスタマー自身がオーダーメイドの靴を全てデザイン可能。基本となるモデルを選択して、生地を選び、微調整を加えてデザインを完成させると、仕上がった製品が送られてくる。同じものは世界にひとつとない、完全に自分だけの靴だ。
だが消費者はパーソナライゼーションだけでなく、さらなる複雑性を求めている。これまで、製品は機能面でのタスクを実行する筐体でしかなかった。それが今では、エンジニアリング技術を結集して美しくデザインされた作品になっており、IoT を活用する複雑なコントロール システムを内蔵している。こうした製品のデザインには、インダストリアル デザインから電気工学、ソフトウェア開発まで、さまざまな分野に渡るチームが必要だ。
世界各地に散らばる関係者のコラボレーションという課題は、プロダクト イノベーション プラットフォームによりメンバー全員を単一の情報源へ結び付けることで解決できる。デザイン チームは、クラウドベースの環境で構築と最適化を行うことが可能だ。この単一の情報源を顧客が運用し、デザインのプロセスに参加することで、そのニーズへより正確にマッチした製品を構成できる。
とはいえメーカーは、見栄えの良いデザインを生み出すだけでは、その対価を得ることはできない。部品や製品の製造を完了させる必要がある。真のプロダクト イノベーション プラットフォームは、単に CAD の能力を組み込むだけでなく、ユーザーがデザインの意味するところを理解できるよう、コンプリートなソリューションとして機能を統合して製造プロセスを取り込む。アディティブ マニュファクチャリングのような技術も活用されるべきだ。つまり、ジェネレーティブ デザインを使用し、コンピューターによる計算と最適化をベースに最適なデザインを作成したのであれば、製造においてはアディティブ マニュファクチャリングのテクニックを活用し、さらに一層複雑なカスタムメイドの製品を製造する必要がある。
プロダクト パーソナライゼーションを提供するつもりなら、製品の製造する際に、従来の大量生産の手段は使用できない。マイクロファクトリー、複合材料、多軸機械加工、ロボットなど、マスカスタマイゼーションの製造技術を使用する必要がある。最終的には、全ての製品が異なるものになるからだ。
サイクルの「運用」段階は、製品をつなぐことで、さらなる効率性を提供することにある。この効率性は、製造プロセス内に存在する場合もあり、また予防保守やエネルギー最適化などのアフターマーケット サービスを通じて、顧客へ効率性を提供する場合もある。加えて、製品につながることができれば、その運用法を理解し、そのデータを利用して次のデザインの反復に反映できる。だが、IoT の機能をデザイン プロセスのフロントエンドに組み込めなければ、つながる IoT のメリットも得られない。この設計・製造・運用の相互依存性こそが、真のプロダクト イノベーション プラットフォームの要となる。
プロダクト イノベーション プラットフォームの実装がスマート ビジネスに意味のあるものなのか、まだ疑問を持っている人もいるかもしれない。これはオール・オア・ナッシングの解決法ではないし、特定のベンダーによるプロダクト イノベーション プラットフォームを、まるごと導入する必要はない。現時点のプロダクト イノベーション プラットフォームは、シングル コード ベースの一枚岩的なソフトウェア構成ではなく、一緒に動作するようにまとめることが可能なクラウドベース サービスだ。これは Amazon が自社のクラウド サービスの顧客に対して、ストレージやデータベース管理、コンピューティング、分析の各種サービスを組み合わせた、独自のソリューション構築を許可しているのにも似ている。
だが、プロダクト イノベーション プラットフォームの本格導入は、リニアなウォーターフォール モデルによる製品開発から、アジャイルな製品開発への躍進を実現しようとする意思を意味する。また、組織が幾つかのプロセス変更を受け入れる準備が整っていることを示すものだ。そして、顧客へさまざまなビジネス モデルを提供する用意がなければならない。例えば予防保守のためのアフターマーケット サービスには、ソフトウェアによる実装以上のサービスが必要だ。熟練したセールス担当という形態でのビジネス サポートや、バックオフィス請求システム、変化に対応する能力に長けた技術部門も必要となる。
大変な作業に思えるかもしれないが、プロセスを対処可能な方法でスタートすることは可能だ。成功を収めているメーカーなら、準備段階の新しい製品ラインもあるだろう。それをプロダクト イノベーション プラットフォームのテストケースとして使用することで、ビジネス全体を一度に変更するのでなく、ひとつの製品ラインのツールやプロセスを変更するのだ。スタートアップなら全てを一度にスタートさせたいと考えるかもしれないが、より大規模な事業形態では、製品ラインごとに段階的に変更を導入していく方がよい場合もある。
メーカーとしては、このビジネス上の決断を今すぐ行うことが必須で、その理由は明らかだ。この崩壊的な変化は、市場では既に始まっている。ジェネレーティブ デザインとアディティブ マニュファクチャリングを考えてみるといい。こうしたテクノロジーを使用する先見の明を持った企業は、より効率的にデザインを行い、より素早く反復を行い、よりスピーディに市場投入を行うことで、旧態依然としたメーカーを一夜のうちに廃業へと追いやってしまう。プロダクト イノベーション プラットフォームでこそ、「ものづくりの未来」を全面的に運用でき、それが今後長きに渡る、真の競争力を提供するだろう。こうした躍進を実現する準備ができているのなら、業界における次世代のリーダーとしてビジネスを行うための第一歩を踏み出しているも同然だ。
オートデスクの設計・製造担当バイス プレジデントであるスティーヴは、カリフォルニア州サンフランシスコを拠点としており、設計、シミュレーション、製造プラットフォームの製品開発全般を担当。英国で機械エンジニアの資格を取得。産業機械メーカーに勤務した後、20年以上前にオートデスクに入社し、営業、戦略・マーケティング、製品開発など、さまざまな分野でリーダーシップを発揮してきました。設計と製品開発の多様な経験が、彼の製造ビジネスへの情熱を支えています。知名度の高い企業から新興企業、パートナー企業まで、あらゆる人々と協業する機会を心待ちにしており、この重要な産業分野におけるリーダーシップを拡大し、未来のものづくりを享受する顧客の成功を確かなものにしています。
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