3Dモデルに製品製造情報 (PMI) が必要な理由とは

製品製造情報 (PMI) を活用することで、エラーを生じやすい人間の通訳を介さずにシステム同士がコミュニケーションを実現でき、より優れた正確なパーツや製品を製造可能となります。


製品製造情報 (PMI) は製造業界のデジタル化と製品の設計、製造、検査プロセスの自動化に貢献する

[提供: Xometry]

PMI 製品製造情報の例

Peter Dorfman

2024年7月16日

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PMI Xometry 射出成形パーツ
Xometryの射出成形によるパーツの例 [提供: Xometry]

有名建築家による紙ナプキンのスケッチは、不朽の名作へと発展を遂げるアイデアの起源であり、その検証も興味深い。そのスケッチが実際の建設プランとして機能すると期待する人はいないだろうが、製造会社がクライアントの製造したいものの情報を受け取る際には、そうした状況に直面することが少なくない。

より望ましい方法も存在している。3Dモデリングのファイルには、製造システムによる要件の解釈、コストとスケジュールの見積り、そして最終的に製品の製造を可能にする製品製造情報 (PMI: Product Manufacturing Information) をメタデータとして埋め込むことが可能だ。クライアントが提供する単一のファイルに、システムが把握すべき全ての情報を包含できる。

だが、メリーランド州ゲイザーズバーグを拠点とするXometryのシニア プロダクトマネージャー、ライアン・ケリー氏は、それが設計者から提供されることはめったにないと述べる。大抵の場合、送られてくるのは3Dモデルと、要件を説明するPDF (複数の場合もある) だ。

PMIが実現するシステム間の情報伝達

PMI Xometry 射出成形パーツ
XometryのCNC切削加工によるパーツの例 [提供: Xometry]

Xometryは3Dプリント、CNC切削加工、板金製造、射出成形サービスを提供するオンデマンドの製造マーケットプレースだ。これは“Bit to Atom” (情報から物質へ) の製造であり、データで定義されたクライアントのコンセプトを、物理的な製品に変える。エラーを生じがちな人間の思考を最小化するには、コンピューターが生成した製品の物理特性のデータに基づいて製造が行われるべきなのだ。

「我々は毎月数千件の見積りを作っています」と、ケリー氏。「弊社のプラットフォームを使用するには、3Dモデルのアップロードが必要です。PMIを十分に活用している顧客は非常に少なく、全体の5%未満です」。

PMI Xometry 射出成形パーツ
XometryのInstant Quoting Engineはアップロードされた3Dモデルの形状を分析して、即座に価格とデザインフィードバック、納期を生成 [提供: Xometry]

精度の高い製造を行うには、クライアントが交差設計や幾何公差、表面特性や表面性状など、製品の物理特性をどう伝えるかが重要になる。人間が言葉やシンボル、数字で説明するのでなく、システムからシステムへと伝えられるのが理想だ。

「なぜ同一の部品に対して2種類のデータを作成したりするのでしょう? それを作成した瞬間に同期が失われてしまいます」と、ケリー氏。「3Dモデルが果たせるのは、単なる視覚的な補助の役割だけでしょうか? モデルに幾何交差などの情報を持たせれば、信頼できる唯一の情報源として簡単に利用できます。それこそが適切なことだと思います」。

有効活用されていない規格

製品製造情報 PMI xometry instant quoting engine
XometryのInstant Quoting Engineはアップロードされた3Dモデルの形状を分析して、即座に価格とデザインフィードバック、納期を生成 [提供: Xometry]

こうした形で発注を行なっているのは、小規模なクライアントに留まらない。「最先端でテクノロジーに前向きな大企業からも、3Dモデルと意図が不明瞭なPDF文書が送り付けられ、見積りを依頼されることがあります」と、ケリー氏。

設計者がより多くの情報を3Dモデルに注記すれば、それだけモデルは意図を明確に示すことができる。この意図こそ、製造を請け負う業者が理解すべき最も重要な点だ。メーカーは、それがクライアントの要件を満たすものとなるかどうかを評価し、注文された量を十分な品質で、スケジュール通りに予算内で製造可能かどうかという「製造可能性」を、正しく判断する必要がある。

デジタル製造の可能性を解き放つには、CADや3Dモデリングのシステムがメーカーのシステムと相互運用性を持たなければならない。「設計システムが製造システムとコミュニケートする必要があり、PMIが幅広く採用されなければ、それは絶対にうまくいきません」。

PMIはISOANSI規格になっており、「主要なCADソフトウェアベンダー全てが採用しています」とケリー氏は語る。「どのベンダーもPMIを記録する場所を分かりやすく提供しているのに、設計者は利用していないのです」。

これほど明確に有益な機能を、なぜ設計者たちは使おうとしないのだろう? ケリー氏は「ソフトウェア経由で相互にやり取りをせず、完成予想図だけで検討していると、情報過多が問題となり得ます」と述べる。「21世紀の情報を、20世紀の技法で使っていることになります」。

実際のところ、大抵の設計ソフトウェアではPMIをアノテーションに収めて、オーディエンスに関連することだけを表示することができる。全てに目を通す必要はなく、「データを利用する人が、自分にとって意味のあるものだけを、必要な時に得られるようになっています」。

CADソフトウェアでは、図面を作成することでデータを生成できる。だが、そのデータは設計者の承認を受けるまでPMIではない。設計者による承認無しに、2.5cmの穴は仕様とはなり得ないのだ。

将来的には、製造はAIでドライブされ、エンジニアたちは製品の設計をARでレビューするようになるだろう。だがこのシナリオは、堅牢なPMI無しには実現しない。

PMIの採用に対する反発は、惰性から来るものだ。「技術的な課題というより、文化的な課題です」と、ケリー氏。「製造会社と、自らが提供する機能全てを顧客に使用させたい設計ソフトウェア ベンダーに共通する問題だと言えます」。

製品製造情報 PMI autodesk inventor 画面キャプチャ
このAutodesk Inventorの画面には右列に表面粗さや公差などPMIの一部が表示されている [提供: Xometry]

多くの業界が、現在も紙ベースの設計から完全自動化されたモデル主導型の製造設計への過渡期にある、とケリー氏。こうした企業は、サプライチェーンの機敏性を求めており、技術革新を活用して迅速に変化へ対応したいと考えている。利用できるツールの活用に失敗すれば、ビジネス機会を取り逃がすことになる。

「製造業でコミュニケーションが滞る理由として多いのが、印刷物がモデルと一致しないということです」と、ケリー氏。「モデルベース定義だけを使えば、製造時間を10%以上削減できるでしょう」。

製造業界における責任の範囲

製品製造情報 PMI 板金製造
Xometryは板金加工 (画像はその一例)、3Dプリント、CNC切削加工、射出成形によるカスタム部品の製造を行なっている [提供: Xometry]

ケリー氏は説明の際に、製造業界の市場と、建築・建設の分野を対比する。後者の分野ではプロジェクトは数億円規模になることがあり、紙ベースの設計はほとんど見られなくなっている。

「法的責任の流れは極めてクリアです」と、ケリー氏。「建築家やエンジニア、施工管理者たちは、自分たちの責務と法的責任の範囲を明確にすることを望んでいます。設計図があっても大抵はタブレットを使い、最新版のモデルで作業を行っています」。

製造業界では、そうではない。個人の責務は、より限定的だ。例えば自動車工場で働くエンジニアは、自分が製造する取り付けブラケット以外のことに関しては、そのプロジェクトに個人的な責任は感じないのではないだろうか。

PMIは、垂直統合された組織で、その勢いを最も増している。エンジニアが設計や製造の自動化でより実験的な試みを行える、サプライチェーンを制御する力を持つ企業だ。そこには業界を牽引する大企業と、初めからサプライチェーンの自動化を内含する、比較的小規模で若いスタートアップの両方が含まれる。

「こうしたテクノロジーの変化への適応に最も苦境を強いられているのが、確立された紙ベースのプロセスを用いている著名な大企業です」と、ケリー氏。「PMIを標準とするためのインセンティブが、社内の然るべき場所に存在するのかどうか、明確でないのです」。

PMIは、既にソフトウェアレベルでは相互運用が可能なグローバル規格だ。このPMIがより広範に採用されるためには、何が推進力となるのだろう? ケリー氏が、そのきっかけとなる可能性を見出しているのは、政府だという。

「国防省、特に非常に大規模かつ複雑なプロジェクトに従事している海軍などの部署は、その重要性を明確に理解しています。十分な資金を持つ大型の機関は、PMIを標準として採用するよう、ビジネス相手に主張できる立場にあります」。

この記事は2019年に掲載された原稿をアップデートしたものです。

Peter Dorfman

Peter Dorfman について

ピーター・ドーフマンはインディアナ州ブルーミントンをベースとするフリーランス・ライター、ブロガー、コンサルタント。

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