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天へ伸びるバーゼルの塔: スイスで最も高いロシュタワーのデザイン

After its official inauguration in May 2022, Roche Tower 2 in Basel will be, at 673 feet, the tallest building in Switzerland. It is significantly taller than Tower 1, which is 584 feet high.

  • 製薬会社ロシュが建設中の新社屋は、完成後はスイスで最も高い超高層ビルとなる。
  • ロシュタワー2と名付けられた、このビルの竣工はデジタルツールによって予定よりも早まっている。
  • タワー2プロジェクトは、サステナビリティと、建設の全段階でデジタルツインを活用しているという点でも画期的だ。

世界最大手の製薬会社のひとつ、ロシュ本社のツインタワーは、スイス・バーゼルのライン川に架かるどの橋からも、また旧市街を散策中にも、その姿がはっきりと見える。

2015年竣工のロシュタワー1に続いて、現在タワー2が建設中。高さ178mのタワー1は現時点でスイスで最も高いビルだが、弟分である高さ205mのタワー2は、落成式を迎えると新たな記録保持者となる。この53階建てのタワーで、3,400名を超えるロシュ社員が働く予定だ。

新しいオフィスタワーの落成が予定される2022年5月は、ロシュの125周年記念式典の1年後となる。周辺一帯が畑や牧草地だった1896年の創業当時と比較する、大きな変貌を遂げていることは明白だ。

新しいタワー2は、タワー1と同じ角度で建てられ、同様に先細りで階段状のデザインとなっている。これでロシュ社の敷地内に2棟がそびえ立つことになるが、3棟目の採算性調査も行われている。実現することになれば、この高層ビルはタワー2より20mほど高くなる予定だ。

デジタルツインはプロジェクトのあらゆるフェーズで活用されており、建設現場の誰もがタブレットとAutodesk BIM 360を使用して3Dターゲットモデルにアクセスできる。
デジタルツインはプロジェクトのあらゆるフェーズで活用されており、建設現場の誰もがタブレットとAutodesk BIM 360を使用して3Dターゲットモデルにアクセスできる [提供: Beat Ernst]

ロシュタワー2: BIM のパワーを活用

ロシュタワー1と2の設計は、どちらもスイスの建築事務所ヘルツォーク&ド・ムーロンが担当。タワー1は、ロシュとヘルツォーク&ド・ムーロン、ゼネコンのDrees & Sommerがコラボレーションを行った。

タワー2のプロジェクトマネージャーを務めるロシュのヨルグ・ケラー氏は、新しいビルにおける全設備のテクニカルコミッショニングの責任者を務め、安全対策担当であると同時に、BIMの専門家でもある。すべての協働プランニングの責任を、彼とプロジェクトチームが負っている。彼らの仕事のおかげで、タワー2の建設前にデジタルツインで各階の屋上まで探索が可能となった。

クライアント、建築家、ゼネコン、建設会社のすべてが、このプロジェクトの開始時点からBIMを使用したいと考えていた。「それを実現するには、非常に熱心で、実現に100%コミットする人々が必要となります」とケラー氏は述べる。「それ」とは、BIMや、さまざまなBIM手法と3Dバーチャルモデルを用いたコラボレーションを意味する。「タワー1用にも3Dモデルが作成されていますが、タワー2のモデルは、ずっと先進的なものです」と、ケラー氏。

このデジタルモデルは外郭構造が完成する1年半前にその姿を現し始め、その作成にはAutodesk Revitなどのソフトウェアプログラムが使われた。

タワー2の建築はスイスの有名建築事務所ヘルツォーク&ド・ムーロンが担当。タワー1の印象的な先細りの階段の形状もデザインしている。[提供: Beat Ernst][/caption]
 
2 つのタワーは互い違いに建っており、ロシュ本部のその他の敷地を見下ろす形で立つ [提供: Beat Ernst][/caption]

従来の方法での作業が習慣となっているチームは、革新的な技術や手法の採用を躊躇することがある。「積極的でない社員がいるのは、自然なことでした」と、ケラー氏。「しかし驚かされたのは、それが年齢よりも考え方に関係しているということです」。将来的なビルの運用者を納得させるのは難しかった。「2次元の図面で問題ないのだから、3Dモデルは必要ないと言う人が多いのです」。

バーチャルツアーによる関係者の取り込み

だが、ロシュの意思決定者の説得は比較的容易だった。ケラー氏は賛同を得るため、コンピューターベースのバーチャルな仮想モデルとVRゴーグルを活用した。まだ建設中である建物内のバーチャルツアーは、感銘をもたらすものになる。主要な関係者をVRツアーに招待することにより、物事が正しい方向に進んでいることを早い段階で納得してもらうことができた。

だが、こうしたVRツアーが現場管理者や不動産管理者に壮観な体験を提供したにしても、結局はBIM懐疑派を納得させるような厳然たる事実を推進派が次々と突きつけ、その正しさを証明することになった。この3Dモデルは準備と施工の全段階において、チームがより高い品質で効率的にプロジェクトを完成させるのに役立った。

21階のテクニカル センターにてヨルグ・ケラー氏とロシュ品質保証チームスタッフ。 ランダムチェック中には必ずタブレットが使用されている [提供: Beat Ernst]
 
Autodesk BIM 360 Fieldアプリを使用して換気ユニットの設置状況を確認するヨルグ・ケラー氏 [提供: Beat Ernst]

目に見える変化の兆し: タブレットが設計図を置き換える

タワー1のコミッショニングを担当するケラー氏は、新社屋プロジェクトに最初から参加している。2018年6月11日に行われた起工式では、同僚とともにタイムカプセルを基礎に沈める栄誉も与えられた。このカプセルは、バーゼルの日刊紙、主賓の招待状、USBメモリー、印刷されたビル設計図などが収められている。2次元の設計図が埋められたことは、象徴的な意味を持つかもしれない。現実の建設プロジェクトでは、紙の設計図が使用されなくなってきているのだから。

「タワー1プロジェクトとの誰もが分かる違いは、当時は現場でiPadを持っていたのは私だけだったという点です」と、ケラー氏。「タワー2の建設では、プロジェクトマネージャーや社員、施工会社関係者がタブレットを手にしている姿を頻繁に見ることになるでしょう」。

デジタルツイン: タワー2の全フェーズで業務をコンスタントに支援

建設会社が仕事に取り掛かる以前の、プロジェクトの初期段階で、以下のようなデジタルシミュレーションの利点が明らかになった。

協力会社の完璧な準備

さまざまな建設プロセスに関わるすべての企業が、契約締結前からモデルを利用可能となった。それにより、コンクリートや鉄などの材料の必要量を事前に計算することができた。

ディテールの向上

デジタルツインにより、ビルのディテールをより多く事前にモデリングすることができた。例えば現場作業員は、壁のどこにコンセントが設置され、どこにケーブルが通っているのかを明確に把握できる。

ミスを最小限に抑え、後続作業を減らす

プランニングのミスを、現場でなく3Dモデル内で発見できる。

建設の迅速化

建設業界では遅延やコストの高騰が日常茶飯事となっている。これほど大規模な建設プロジェクトの各段階を予想より早く完了させられるのは画期的だ。ビルの竣工は2022年だが、タワー2の外郭構造は既に完成している。その最後のコンクリートが打設されたのは2020年12月1日で、これは予定より2か月も前だ。

プランニングの信頼性と透明性

デジタルツインは、工事の進捗状況を確認する共通基盤を、ロシュと建設マネジメントを担当したOmniconのプロジェクトチームの双方に提供した。建設マネジメントのプロジェクトマネージャーであるロシュのマーク・リュスティク氏が率いるチームは、この計画を第4の次元である「時間」とリンクした。「極めて複雑な建設プロセスもシンプルに可視化できます」と、リュスティク氏。例えばファサードを構成する2,800もの部材はジャストインタイムで納品され、建設現場での資材の滞留を防ぐことができた。

情報の一元化

「タワー1の作業中は、皆が未決項目をワードやエクセルで作成した独自のリストに書き込んだり、パッドにメモしたりしていました」と、ケラー氏。「現在はすべてがAutodesk BIM 360に一元化されており、誰もが同じ情報にアクセスできます」。ヘルツォーク&ド・ムーロンの建築チームも、より多くのプロジェクト関係者が明確かつ最新の情報にアクセスできることに大きなメリットを感じている。BIMモデルは図面のやり取りに比べて情報の相反が少なく、情報を解釈する必要も少ないため曖昧さがなく、コンピューターで読み取り可能な情報を参照した調整ができると、チームは説明している。また、それによりモデルの正確性や妥当性、情報の深さの面でモデルの品質に対する要求が高くなることも強調している。

タブレットが品質保証を提供

型枠を調整する現場監督、パイプ敷設やエレベーター設置を行う作業員、進捗を監視する施工管理PMなど、全員がBIM 360 Fieldで作成したシミュレーションで比較検討を行なっている。リュスティク氏はLinkedInに公開されたビデオで「逸脱は文書化され、デジタル追跡されます」と語る。この3分半弱のビデオで、彼はデジタルツールにより大規模な建設プロジェクトで正確性を実現する方法を紹介している。

つのサブモデルの3D ビュー: 構造モデル (左)、エンジニアリング モデル (中央)、建築モデル (右)
3 つのサブモデルの3D ビュー: 構造モデル (左)、エンジニアリング モデル (中央)、建築モデル (右) [提供: Roche]

BIMは連携を糧とする

建設業界ではBIMが普及しつつあるが、ヘルツォーク&ド・ムーロンは、完全なデジタルツインはまだ例外的であると述べる。核となるプロジェクトチームが乗り越える必要があったハードルのひとつは、データの交換方法やデータの紛失を防ぐ手段を調整することだった。

ケラー氏は「データ損失は大きなリスクです」と話す。彼は、コンセプト段階で十分な時間をかけてルールを決めておくことが成功のカギだと考えている。ヘルツォーク&ド・ムーロンの建築家陣は、テクノロジーはこのプロセスのひとつの側面に過ぎないのだと強調しており、共通の目標を定め、問題を解決し、関係者のさまざまな技能を調整することも必要だと説明する。

そして忘れてはならないのが、建設のさまざまな場面を担当する協力会社も、BIMやデジタルモデルへの対応が必要だという点だ。「モデルをメンテナンスでき、あとで調整できることが必要です」と、ケラー氏。「ゼネコンがBIMの経験が少ない企業の支援を行いました」。

3Dモデルを使用することで、プロジェクトの初期段階での作業は増えるが、建物のバーチャルモデルは建設プロセスに関わる全員、そして将来その建物を運用する者にメリットをもたらす。ケラー氏は、ロシュタワーのチームが 「BIMを使用することで、より迅速かつ効率的に作業できた」と確信している。

3Dモデルがスマートビルへの道を開く

バーチャルモデルがその本当の威力を発揮するのは、建物が稼働し始めてからだ。建設プロジェクトが進行するにつれ、デジタルツインへさらに多くの情報が追加され、より効率的で持続可能な建物の運用への道が開かれる。関連するすべての技術データは保存され、それを後にオーナーや保守チームが検索できる。

建物のコミッショニング後は、RevitとBIM 360を使用して作成されたデジタルツインを予知保全などのタスクに利用できる。エレベーターにはセンサーが設置されており、システムが異常を感知するとテストを開始する。また、バーチャルモデルのライブデータを利用してエネルギーや飲料水の消費量をモニターすることも可能だ。ロシュ社はエネルギー監視システムを使用して、タワー2のエネルギー消費量がヨーロッパの同等の建物より約10%少なくなることを証明したいと考えている。

タワーのビル保守管理用アプリには、そこで働く人々のための便利な機能が用意されている。その一例が、任意の従業員の居場所を検索できる機能だ。ケラー氏は、これに「3,400名の社員が41のオフィスフロアに分散している状況で、これは非常にクレバーな機能です」と共鳴している。どのオフィスが実際に使用されたかを確認できるため、清掃チームも業務が容易になる。

ロシュタワーは古い漁網から作られたカーペットなどを使用し、ヨーロッパで最も持続可能な建物のひとつとなる
ロシュタワーは古い漁網から作られたカーペットなどを使用し、ヨーロッパで最も持続可能な建物のひとつとなる [提供: Beat Ernst]

漁網のカーペット

ロシュ社にとってサステナビリティは、建設が始まる前から重要な役割を果たしていた。同社は900種類以上の建材について、汚染の可能性に関する検査を実施した。将来的には、使用された材料のうち検査をパスした材料すべてに、独自のパスポートが提供されるようになるだろう。

そのパスポートには、建材のどれだけがリサイクル可能かといった情報が記載されるようになる。その合計は現時点では58%だ。優れたサステナビリティのもうひとつの例は、漁網をリサイクル使用したカーペットの製作だ。これは、材料が同価で材料サイクルに還元されるという「ゆりかごからゆりかごまで」の原則を実現するものだ。

完成後に注目を集めるのは、ロシュタワーの高さだけではない。プロジェクトの完了は、デジタルツールの活用による建設中の品質と生産性の向上を証明するものとなるだろう。このバーチャルモデルは、省エネ運用の条件を生み出し、持続可能性の面での新たな基準を設定することも可能にする。ロシュタワー2は今後も長きにわたり、最重要プロジェクトであり続けるだろう。たとえタワー3によって、スイスで最も高いビルというタイトルが奪取されることになろうとも。

著者プロフィール

スザンヌ・フランクは、オンラインジャーナリストとしての訓練を受ける前に、フリードリッヒアレクサンダー大学アーランゲンニュルンベルク校でアメリカ研究、英語、演劇研究 (MA) について学んでいます。中規模のソフトウェア会社で11年にわたってPRを担当した後、2015年にジャーナリズムへとスイッチ。幾つかのドイツの有名な業界誌の編集長や編集者を務め、また2019年からフリーランスのジャーナリストとして活動を行なっています。

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