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スキルベースのボランティア活動がもたらす「温かな気持ち」以上のもの

  • スキルベースボランティアの活動は、従来の企業ボランティアやプロボノ以上に、より専門的でカスタマイズされた活動といえる。
  • この種のボランティアの、企業にとっても社員にとっても最大のメリットは、専門スキルの開発を加速させる点にある。
  • NPOとの提携を行う企業は、社会全体への利益をもたらすソーシャルインパクトを推進できる。
  • スキルベースボランティアの活動を企業の社会的責任のイニシアティブに提携させることが、ビジネス上のメリットにもつながる。
  • NPOのニーズと社員の専門知識のマッチングは単純なことに思えるが、スキルベースボランティアの活動には特有の困難もある。

困っている人を助けたい。ボランティア活動の根底には、そうした願いがある。だが、スキルベースボランティア活動は現在最も急速な成長を遂げているコーポレートシチズンシップ (企業の社会的責任) プログラムであり、77%の企業がNPOへ社員の専門知識を提供するという社会全体の利益のための取り組みにより、関与する当事者全員にメリットをもたらす。

提供された専門知識によってNPOが目的を達成し、社員はボランティア活動でそのスキルを高め、企業は社員の中により幅広い人材を発見できる。スキルベースボランティアの活動プログラムをうまく運用することで、企業の社会的責任 (CSR) 戦略を強化し、企業のブランドや評判を向上させることも可能だ。

スキルベースボランティアの活動とは?

スキルベースボランティアの活動では、社員は自身の専門的なスキルや経験を活かし、NPOが抱える複雑な問題の解決に、長期間にわたって取り組むことが多い。従来の企業ボランティア活動をより高度かつ専門的にしたもので、社員の一般的なスキルを活用し (例えばフードバンクでの作業や植林などを想像すると良い)、その拘束時間は通常は1日以内だ。

プロボノとスキルベースボランティア活動の違い

スキルベースボランティアの活動は、プロボノと同一視されることも多いが、実際には同じではない。プロボノ活動の最も一般的な例では、NPOをクライアントとする法律事務所が、その事務所のモデル、アプローチ、仕組みを用いて支援を行う。この取引関係は、通常はプロジェクトの終了時点で終了する。

一方、スキルベースボランティアの活動に取り組む企業は、個々の社員の専門知識やスキルをNPOの特定のニーズに合致するよう、そのアプローチをカスタマイズする。またNPOのスタッフが新しいスキルや知識を習得できるような取り組みも行う。最も成功を収めたスキルベースボランティアの活動は、企業とNPO双方の専門知識とリソースを組み合わせることで、持続的な価値を持つソリューションを生み出している。

ロサンゼルスを拠点とするNOP、Nexleaf Analyticsは低中所得国におけるワクチン流通の改善にテクノロジーを活用している [提供: Nexleaf Analytics]

スキルベースボランティアの活動が重要である理由

企業とNPOのパートナーシップにより、いくつかのポジティブな成果が得られる。そのうち最高のものは、ソーシャルインパクト (社会的影響) を推進する能力だ。 気候変動、持続可能性、貧困などの問題に取り組むNPOと提携する企業は、地域や世界レベルで変化をもたらすことができる。スキルベースボランティアの活動プログラムを自社のミッションやCSRイニシアチブと連携させることで、企業はインパクトプログラムに価値を付加し、顧客や従業員の間でのブランドや評価の強化、信頼や支持の向上など、ビジネス上のメリットを得ることもできる。

スキルベースボランティアの活動は、自分の価値観に合った職場環境を求める社会的意識の高いプロフェッショナルに訴求できる、効果的な人材採用ツールでもある。Deloitte Global 2021 Millennial and Gen Z Survey (デロイトグローバル2021ミレニアル/ジェネレーションZ調査) によると、こうしたプログラムは特にミレニアル世代に人気がある。ミレニアル世代は、社会へ積極的に貢献し、自らのスキルを伸ばす企業で働きたいと考えている。

スキルベースボランティア活動のメリット

ビジネス上の観点からも社員の視点からも、スキルベースボランティアの活動による最大のメリットは、専門スキルの向上を加速することだろう。

2016 Deloitte Impact Surveyによると、これらのプログラムは企業にとって、今日の新入社員から明日のリーダーに至るまで、人材を惹きつけて育成するのに役立つ可能性がある。一部企業はスキルベースボランティアの活動プログラムを人材育成の手段としてデザインし、他のボランティア活動プログラムとは独立して実施している。昇進を検討している社員のグループへ、高度なスキルの活用や開発を必要とする、難易度と注目度の高いプロジェクトを担当させたりしている企業もある。また、スキルベースボランティアの活動プログラムで、従業員のエンゲージメントと定着率が向上すると感じている企業もある。

スキルベースボランティアの活動は社員にとっても、それが自身のキャリアパスのどの地点であるかどうかを問わず、次の仕事の獲得やキャリアアップにつながる可能性がある。デロイトのボランティア活動インパクト調査によると人事担当者の多くが、求職者の評価の際にスキルベースボランティアの活動を前向きに捉えており、それが大卒者を含む求職者をより望ましい人材に見せると考えている。

また、デロイトの同じ調査によると、スキルベースボランティア活動は、社員に必須であるリーダーシップを身につけるのに役立つ。ほとんどの回答者が、ボランティア活動はコミュニケーションなどのソフトスキルを向上させ、説明責任や責任感を表明し、強い人格特性を育むものであると考えている。

スキルベースボランティア活動の障害

NPOのニーズと社員の専門知識をマッチングさせることは単純なことにも思えるが、スキルベースのボランティア活動にはそれなりの困難もある。企業とNPOは、一見似ていても、その本質は全く異なっている。組織構成や業務手法が異なるため、スキルベースボランティアの大規模な活動プログラムの実施は複雑なものだ。単発のボランティア活動とは異なり、長期的に取り組むスキルベースのボランティア活動は、企業の四半期毎の生産活動とうまく連動しない場合がある。また一般的なボランティア活動では予算、人件費、休暇規定が明確に定められているが、スキルベースボランティアの活動は予測が困難であるため、判断が困難となる。

スキルベースボランティア活動の5例

自社のスキルベースボランティア活動プログラムを構築したい? 以下は、企業と非営利団体の連携や「コネクター」組織の例で、インスピレーションやアイデアを提供している。

プロの専門知識

Nexleaf Analytics

ワクチンのコールドチェーン (ワクチンを倉庫から接種会場まで運ぶ施設、保管場所、冷蔵庫のネットワーク) 全体を安全かつ安定した温度に保つことは、ワクチンの有効性において極めて重要だが、ワクチンのおよそ75%が運搬中に有害な温度にさらされている。ロサンゼルスを拠点とするNPOのNexleaf Analyticsは、コールドチェーン装置の55%が脆弱な、もしくは機能していない低中所得国におけるワクチンの流通の改善にデータとテクノロジーを活用している。.

NexleafのColdTraceセンサー技術はリアルタイムでワクチン保管データを収集し、オンラインダッシュボードからアクセスできるようにする[提供: Nexleaf Analytics]

NexleafのColdTraceセンサー技術は、ワクチンの温度と電力供給状況のデータをリモートでリアルタイム収集し、そのデータをオンラインのダッシュボードで医療従事者や保健省と共有している。各国によるこのデータの利用をサポートするべく、Autodesk Foundationの後援のもと、7名のオートデスク社員のチームがNexleafによるコールドチェーンデータの可視化を支援した。この取り組みは、コールドチェーン装置の性能データをグローバルにリアルタイムで収集し、各国がワクチン供給システムを最適化できるよう支援するWebベースのプラットフォーム「Intelligent Maintenance and Planning Tool」の開発に役立てられた。Nexleafとオートデスクの連携の成功により、Nexleafは社内データ可視化スペシャリストという職種を作るに至った。

Nexleafはオートデスクのボランティアとの取り組みを継続しており、先日は視覚効果エンジニアが、Nexleaf装置のワクチン保冷庫での使用方法を紹介する3Dアニメーションの制作に協力した。

Taproot Foundation

Taproot Foundationは、NPOや社会変革に取り組む組織と、専門知識や知見を共有したいビジネスプロフェッショナルをつないでいる。同社のオンラインプラットフォームTaproot+では、事業計画やマーケティング戦略、プロジェクトマネジメント、ウェブサイトリニューアル、ボード開発などのプロフェッショナルが、自分のスキルに合ったプロジェクトをブラウズできる。プロジェクトには1週間から9週間の拘束時間が要求される。また企業会員オプションでは、自社ブランドや専門性、社会的インパクトへのコミットメントを反映した、カスタマイズしたスキルベースボランティアの活動プログラムを作成できる。

メンターシップ

Journeyman International

Journeyman International(JI)の主な目的は、次世代の人道主義的建築家とエンジニアを生み出し、育成することだ。オレゴン州を拠点とするこのNPOは、専門家や学生ボランティアからなるチームを構築し、世界の人道的プロジェクトに建築やエンジニアリング、プロジェクトマネジメントのサービスを提供している。Taproot Foundation同様、JIは情報提供や社会的啓蒙を目的とした結合組織のような役割を果たし、チームと非営利団体をマッチングし連携を生み出している。JIと違うのは、その作業モデルの中核を成すのがメンターシップである点だ。

カリフォルニア工科大学サンルイスオビスポ校の学生デザイナーが建築家であるメンターから人道プロジェクトに対するフィードバックを受ける様子[提供: Journeyman International]

建築・設計事務所のボランティアは、学生チームのメンターとして技術的なスキル、デザインの知識、戦略的なアドバイスを提供し、プロジェクトをサポートする。JIによる専門家と学生のパートナーシップにより、これまでに40か国以上で孤児院、図書館、学校など持続可能で文化的にも適切な施設の設計、エンジニアリングが行われている。

トレーニング

Kheyti

インドに拠点を置くNPO、Kheytiは小規模農家 (保有する土地が2万平米未満の農家) が収穫量を増やすのに役立つ、手頃な農業ソリューションの設計・導入を行っている。この団体の主力製品であるGreenhouse-in-a-Boxは低価格のモジュール式ビニールハウスキットで、融資、トレーニング、市場連携などのエンドツーエンドサービスがセットになっている。

シンガポール、英国、米国のオートデスク社員4名で構成されたチームは3か月に渡ってKheytiとリモート連携し、ビニールハウスの設計を改良によって、より多くの人々に提供できるようにした。Kheytiのパイロットプログラムに参加した農家からのフィードバックやメーカーからの情報をもとに、複数のプロトタイプを作成。最終的には、設置にかかる時間と労力を50%削減し、価格も10%削減できた。

インドの小規模農家向けにデザインされた低価格モジュール式キットKheyti Greenhouse-in-a-Box内部で作物をモニタリング [提供: Kheyti]

オートデスクはトレーニングパートナーであるKETIVを通じてAutodesk Fusion 360のトレーニングを提供することで、Kheytiチームのエンジニアリング能力の拡張も支援している。KETIVがカスタマイズしたトレーニングはKheytiの実際のビニールハウス設計に焦点を当てたものとなっており、将来の業務に向けたデジタル基盤となる。

Bridges to Prosperity

Bridges to Prosperity (B2P) は、企業パートナーシッププログラムを通じて、途上国の農村地域と医療、教育、雇用など必要なサービスをつなぐ橋を構築する。米国に本拠を置くこのNPOは、これまではその目標を現地訪問プログラムを通じて達成していた。このプログラムでは、パートナー企業の社員10名程度が現地の建設チームと協力して橋を建設する。だが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行で海外渡航が不可能となり、B2Pはプログラムを見直す必要に迫られた。

農村市場まで歩くルワンダの家族——新しい吊り橋のおかげでこの仕事はより早く、より簡単なものになった [提供: Bridges to Prosperity]

マーケティング、エンジニアリング、セールスの各分野に専門知識を有するオートデスク社員8名が支援に名乗りを上げた。市場調査や製品調査を経て、チームはB2Pの業務をパートナーに教育する、建設現場のライブストリームとカスタムウェビナーを組み合わせたバーチャル建設プログラムを提案した。企業パートナーがリモート建設に参加できるよう、B2Pによる新しいソフトウェアやプラットフォームの習得を支援した。B2Pは、このウェビナープラットフォームを利用して、国内のスタッフや建設工程に不慣れな新入社員の技術トレーニングを実施し、自社の社員教育にも活用している。

スキルベースボランティアの活動は全員に優れた影響をもたらす

伝統的な企業ボランティアの活動のニーズは、今後も常に存在する。フードバンクには人手が必要だし、植林も必要だ。だがスキルベースボランティアの活動に取り組む企業は、より大きな効果を発揮することができる。企業や非営利団体のスタッフのスキルを高め、ブランドや評価を高め、最も助けを必要としている人々に手を差し伸べることができるのだ。

本記事は、2016年4月に掲載された原稿をJeff Linkの協力を得てアップデートしたものです。

著者プロフィール

ミッシー・ロバックはオートデスクのシニア エディター。またライター兼ミュージシャン、マネキン愛好家。文章と音楽 (マネキン以外) は www.missyroback.com にて。

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