建築事務所がスマートビル テクノロジーを最初から統合する方法
スマートビル テクノロジーが一般にも浸透するようになってきた。だが、それは部屋の使用状況に基づいて室温を調整するサーモスタットや、不在時もサイクルを開始・終了できる洗濯機など、大抵の場合は建物へ接ぎ木のように接合されるテクノロジーになっている。
だが、ここで紹介する建築事務所は、モジュール建築の最初の段階からイノベーティブなテクノロジー システムを、より望ましい状態で統合することで既存の構造物をスマート化する手段を模索している。トロントを拠点とし、確固たる地位を築き上げた WZMH Architects は、Intelligent Structural Panel (ISP) と呼ばれるスマートなモジュラー パネル システムを開発している。これにより WZMH はフランス・カナダ商工会議所の 2018 年度 UPPlift True Disruptor Award を獲得。R&D を統括するヒラム・ボウジョード氏は、オートデスクによる 2019 年度の AEC Excellence Awards の年間イノベーター賞にノミネートされている。
現段階ではプロトタイプの ISP システムは、スマートビル デバイスを統合し、フレキシブルなハードウェアとコンシューマー対応アプリを使ってネットワーク化するようデザインされている。パネルはわずか 5 センチほどの厚さで、10×30 または 10×45 フィートのサイズ。2 枚のスチール板と外周部分から構成されており、このパネルが敷かれた場所がインテリジェント ハイウェイ (情報の交通路) になる。パネルは Autodesk Revit でデザインされており、構造部材として機能。Autodesk Technology Center トロント のレジデントである WZMH は、2020 年初めにはフル機能を備えた部屋の規模のプロトタイプが建設できるよう、準備を整えているところだ。
WZMH のパートナー兼プリンシパルで、同事務所のスマートビル研究で陣頭指揮を務めたゼノン・レドウィック氏は「フロア パネルに何を搭載できるのかを考察してみよう、ということになりました」と述べる。
このスマート デバイスはセンサー (動作、占有、気温、照明)、機械・電気装置 (冷暖房空調設備/HVAC、自動開閉ブラインド、カメラ、照明設備) などのパネル システムと互換性を持ち、多様な組み合わせができる。ISP はローカルとクラウドの両レベルでリアルタイム分析を活用し、ユーザーにアプリ経由でスマートデバイスのプログラム、モニターを可能とするクラウドベースのシステムだ。
一般的な Ethernet 接続でシステムにセンサーとデバイスが接続されると (電力もこの接続から供給)、各要素は統合されたネットワークとして反応するようデザインされている。「このシステムでは、接続しているさまざまなデバイスを相互に通信させることで、真のインテリジェントなビルを生み出すことができます。その通信が、共通のインテリジェント ハイウェイを介して行われるからです」と、レドウィック氏。例えば光センサーで、ブラインドを降ろすようトリガーすることが可能。駅では ISP により、到着する電車が満員であることをプラットフォーム上の乗客に知らせることができる。病院であれば、こうしたシステムで、さらに深いレベルまで自動化された患者のモニタリングを提供可能だ。
モジュール建築への効果的な転換により材料効率の向上が約束され、ISP は同様の利益を提供する。「テクノロジーとプレファブリケーションで始められたものですが、サステナビリティの面でも多くの利点があると判明しつつあります」と、レドウィック氏。「スマートであるだけでなく、使用する材料を削減できるという利点もあるのです」。
初期の研究では、スマートパネル システムにより総建材量を 10% 削減できると示唆されている。Ethernet 経由で電力供給することで、ISP はジャンクションボックスと電線ダクトを排除できる。「プレファブリケーションされたコンポーネントで建築を行い、その内部に他の材料やシステムを含めることで、必要な材料の量を削減できます」と、レドウィック氏。また、ISP はスマート コンポーネントにより生成される余剰エネルギーを利用し、それを HVAC 暖房装置の一環として活用できる。
このパネル システムは新築用だが、WZMH は今後、事後取り付けやリフォーム用の小さな (わずか数センチ四方の) ブラック ボックスも数カ月で実現可能だと考えているという。例えば一般的な照明設備を ISP システムに接続して、ネットワークとやり取りできるようになる。これらのユニットは、電力変換装置 (Ethernet ケーブル経由で給電可能) として、また各デバイスの基本機能をより広いネットワークへとつなぐネットワーク スイッチとして機能する (WZMH は、ISP では Quasar Consulting Group、Stephenson Engineering、C3PoE と、ブラックボックスでは Argentum Electronics と連携している)。
「スマートビルが、一夜にして誕生します」と、レドウィック氏。「毎日のように新しいビルが多数建設されていますが、古いビルが解体されているわけではありません。ビルは 50 年や 60 年、場合によっては 70 年以上も存在し続けします。この市場の潜在力は、既存の建物を改造したスマート化にあります。ブラック ボックスは、そのアイデアへ完璧に適合するものです」。
新築の建物に取り付けられる場合も、既存の建物に後付けされる場合も、このブラック ボックスは、ビルの使用に関する実用価値のあるデータをビルのオーナーとテナントに提供することができる。「データ処理能力のないデバイスに接続する場合でも、フロア単位で使用されるエネルギーの量を計測することができ、事後に個別にリフォームすることができます」と、ボウジョード氏。
「ISP は、デバイスから収集できるデータであれば何でも収集します」と、レドウィック氏。「このシステムの素晴らしい点は、古いビルに取り付けると、突如として日々の運用に関するデータが得られるということです」。このデータの管理に WZMH は Autodesk Forge を使い、パネルとそのデバイスの BIM によるデジタル ツインを構築する。
期待されているのは、ビルを最大限に効率化するための機械学習ルーチンや人工知能応用に向け、このデータをビルのオーナーとテナントが収集できるようになることだ (WZMH チームは、機械学習を使用してコンピューターに人間にとっての快適温度の境界値を学ばせてもいる)。このデータは、使用されていないシステム、部屋、階の電源を切り、エネルギー消費量を調整する手段として利用できる。
また、運用やメンテナンスの効率を上げるのにも使用できる。占有センサーや人感センサーは、建物内の人の出入りの多いエリアを検出できる。それに応じて、メンテナンス手順やスケジュールを改善可能だ。同様の状況で繰り返されるビルの種類やプログラムであれば、このデータを使用して、人の出入りの多いエリアに対してより耐久性の高い材料を選択することができる。
材料効率による大幅なコスト削減に加えて、スマートビル テクノロジーを可能にする既製のパネル システムがもたらすであろう最大の価値は、これが建造環境の着実な改善のための連続するフィードバック ループへとつながっていくであろうという点だろう。