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Akerun Proが見据えるスマートロックとIoTの未来とは

スマートロック Akerun

ドアの鍵をパソコンやスマホなどから解錠・施錠可能にする、後付け形のユニークなスマートロック Akerun (アケルン)。「別れた彼女の合鍵を取り戻すのは気まずいよね」という、居酒屋での男同士の何気ない会話をきっかけに生まれたアイデアがスタートアップ企業の設立につながり、その IoT 製品が新たなビジネスへの扉も開くことになった。

2014 年 9月に設立された株式会社フォトシンスは、わずか半年という短期間で、最初の商品である Akerun の量産化に到達。2015 年 4 月に発売された Akerun は個人向けの市場を想定した製品だったが、予想以上にオフィス用途での問い合わせが多く、また「入退室管理を行いたい」といった具体的なリクエストが寄せられたため、翌年 7 月には企業ユースにも堪えられるよう、基本性能の改良と NFC カード対応などの新機能を追加した Akerun Pro をリリース。これが現在の主軸商品となっている。

Akerun シリーズの大きな特徴となっているのが、ドアの交換や壁に穴を開けるなど大掛かりな工事を必要としない点だ。ドア内側のサムターンをカバーするようにAkerun Pro (または Akerun) を両面テープ (特殊接合テープ) でドアに貼るだけで設置できる画期的な簡便さにより、初期投資を低く抑えることができる。

スマートロック Akerun
Akerun Pro システムの基本的なコンポーネントとなる、Akerun Pro 本体 (中央) と、NFC Reader (左)。スマホでも開錠ができ、クラウドでの鍵管理、利用状況の把握なども可能。[提供: フォトシンス]

鍵の開閉操作はスマホアプリを利用して行うことができ、オートロック機能も装備。ドア付近に設置した Akerun Remote を介して Akerun Pro をインターネットに接続でき、LINE や Facebook、電話番号で鍵の共有ができるため、スマホがあればバーチャルな合鍵を気軽に作ることができる。カードリーダーの NFC Reader を使えば、Suica や社員証カード (NFC 対応 IC カード) を使った入退室も可能だ。

Web 上で Akerun Pro を管理する Akerun Manager システムと連携させることで、ユーザーへの権限の付与や、遠隔操作による鍵の開閉、設定変更も行える。もちろん入退室履歴の管理も可能。利用できる日時に期限を付けたり、曜日を限定したりした鍵も発行できるので、特定の期間だけの利用者や、決まった曜日のみ勤務するアルバイトにも簡単に対応できる。

Akerun Pro とカードリーダーをドアの外側に設置したところ [提供: フォトシンス]

Akerun Pro のスターターキットには本体1台とカードリーダー2台、オートロックを実現するドアセンサーが収められている [提供: フォトシンス]

有線または無線通信によって Akerun を常時ネットワークに接続する WiFi対応の IoT ゲートウェイ、Akerun Remote [提供: フォトシンス]

遠隔で鍵の状態を確認できるから、外出先から鍵のかけ忘れをチェックしたり、店舗の早出スタッフが鍵を忘れてしまっても、他の人が自宅から鍵を開けたりすることが可能。非常に便利なシステムであることは間違いない。操作履歴が残り、入退出や施錠に関する情報が分かるのも安心感がある。

フォトシンスの関谷達彦氏は、大手家電メーカーでスマートフォンの設計に従事していた経験を持ち、同社で一貫して機構設計を担当しているプロダクト デザイナーだ。氏はフォトシンスのものづくりでは「小さく作って、早く出す」ことが意識されていると語る。「将来を見越した部品をあらかじめ仕込んでおいて、ソフトウェアで改善をしていけるようにしています」。この Akerun Proは IoT 技術を搭載した製品というだけでなく、その製造過程でも「基板へのファームウェアの書き込みが IoT 化している」という。

「基板への書き込み治具とパソコンがつながっていて、パソコンに入っている制御ソフトが Web アプリになっているので、Web ブラウザを開くだけで治具の操作ができるようになっています」と、関谷氏。「例えばマークの色を変更してほしいというような指示があった際にも、クラウド側で変更すれば、現場に行かなくても簡単に工程を改善できます。常に最新のファームウェアがアプリに流れ込むので、ファームウェアを更新する際も工場に行く必要はありません」。

スマートロック Akerun 開発
設計作業の様子 [提供: フォトシンス]

ユーザーが設置した機器を、遠隔診断することも可能。機器の状態を確認したい場合は、アプリ上で「Akerun Proの使用状況を送信する」ことが選べるようになっている。これにより機器の稼働状況や設定などの情報が瞬時にフォトシンス社内で共有され、原因を特定して迅速にカスタマーサポートを行うことが可能だ。

さらに関谷氏は「SNSにより、ユーザーの声も届きやすくなっている」と語る。「社内でのコミュニケーションには slack を使っているんですが、Akerun という製品名が含まれるツイートを抽出して slack に流すことで、社内で情報共有できるようになっています」。

Akerun Proやカードリーダー、アタッチメント、パッケージは、全て Fusion 360 で設計された。モデリング機能やシミュレーションだけでなく、扉によっては特別対応のため必要な 3D プリントによるカスタムパーツの設計まで全てが単独のソフトで行われており、これは関谷氏にとって初めての経験になった。広告や Web サイト用のクリエイティブ画像、ムービーにも、このソフトのレンダリング機能が活用されている。

スマートロック Akerun 関谷達彦
Autodesk University Japan 2017 で講演を行った株式会社フォトシンス メカニカルデザイナーの関谷達彦氏

「Fusion 360 は機能の追加や改善がハイペースで行われているため、どんどん使いやすくなっている実感があります」と、関谷氏。「ユーザーコミュニティも活発なので、質問すると大体はレスが付く。困ったときに重宝しました」。

Akerun Pro は、既にさまざまな企業のオフィスのエントランスや共用扉、役員室などのほか、研修施設、さらには自治体や大学の施設や研究室、病院、そしてシェアハウスの鍵管理にまで使用されている。

さらにデベロッパー向けサイトでは Akerun API も公開されており、社内勤怠管理システムとの連動や社内チャットツールへの投稿など、さまざまな活用が可能。Akerun の扉は、ユーザーとともにさらに広く開かれることになりそうだ。

著者プロフィール

草野恵子は東京を拠点とするフリーランス編集者・ライター。デザイン、アート分野を中心とした編集・執筆活動を行っています。

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