製造業のサステナビリティへの取り組みをジェネレーティブデザインが推進
史上最高の気温が記録された10年を経験し、ハリケーンや山火事など気候に関連した世界各地の災害が報じられるなか、人々の地球温暖化に対する関心はさらに高まっている。気候変動がもたらす悲劇的結末の回避期限を、国連は2030年だと警告している。消費者も環境への懸念に関して、その意思を購入の行動で、より強く示すようになった。それは、メーカーが環境への配慮を行う強い動機ともなっている。
この問題に、テクノロジーが貢献できる。とりわけジェネレーティブデザインは、今後の製造業界でサステナビリティを促進できる可能性を秘めている。
無駄の削減で生まれる新たな可能性
ジェネレーティブデザインは、与えられた課題に対する解決策をAIの活用で迅速に作成・分析し、問題解決のための反復に必要な時間を大幅に削減する。このテクノロジーは過去10年間、その勢いを製造分野で着実に増してきた。計算処理能力とソフトウェアの向上を受け、より多くの企業がワークフローへの導入を検討するようになっている。
これまで製造業において、ジェネレーティブデザインの最も一般的な使用例は製品部品の軽量化になってきた。それは機能性を維持しつつ部品の質量を削減する方法であり、アディティブな製造プロセスで実現されることが多かった。例えばGM (ゼネラルモーターズ) は、8個の部品で構成されたシートブラケットをジェネレーティブデザインを活用して単一の部品として一体化し、同時にこの新たなブラケットの重量を40%削減して、強度を20%向上させている。エアバスも、ジェネレーティブデザインを使ってA320機内のパーティションパネルを作成。標準的なモデルよりも使用材料が大幅に少ないパネルが誕生した。
軽量化は、サステナビリティにおいて幾つかの重要なメリットをもたらす。まず容積の削減は、エネルギー使用や二酸化炭素排出量を含めた、原材料の抽出と処理にまで及ぶサプライチェーン全体の無駄を排除する。製造段階では、工場機械の稼働時間削減によりエネルギーを節約。その製品の使用段階では、例えば自動車や飛行機などの燃費が向上する。軽量化に加えて部品強度の向上は製品寿命の延長にもつながり、それは修理や交換、交換部品在庫の必要性も低下させる。
だがジェネレーティブデザインの環境上の利点は、各部品の軽量化に留まらない。このテクノロジーのさらなる向上と、製造のライフサイクルに生じる機会により、新たな活用法が出現するだろう。アディティブマニュファクチャリング コンサルタント会社The Barnes Global Advisorsでシニアアドバイザーを務めるチェルシー・カミングス氏は「従来では想像できなかったような可能性が秘められています」と話す。
システムアプローチ
より重要な機会として、個々の部品に留まらず、より大きなシステム全体の再デザインを模索できるようになる。単一の構成要素だけでなく製品全体の再考にアルゴリズム知能を活用できる可能性があるのだ。「ジェネレーティブデザインにより、全体がワンピースとなった車両も存在します」と、カミングス氏。「多数のピースを組み立てる必要はないのです」。
シートブラケットの構成部品数を8から1へと削減したGMは、最小質量への最適化を行っただけでなく、複数のサプライヤーから供給される複数の部品のアセンブリーに伴う、サプライチェーンコストと無駄の削減にも成功したのだ。
これと同じ論理は幅広いデザイン物に適用できる。オランダのデザイン会社Joris Laarman Labはジェネレーティブデザインのテクノロジーを活用して、アムステルダムの運河に架かる3Dプリント製の橋を作成。チームはワンピースでプリントできるよう、橋の構造を大幅に簡素化することができた (ただしデザイナーは数回に分けてプリントすることを選択している)。
ジェネレーティブデザインは、橋の材料の簡約化にも役立った。複数の異なる材料を使用する従来の橋とは異なり、Joris Laarman Labのデザインでは鋼のみが使用されている。同社のティム・グールチェンスCTOによると、必要な材料の種類を削減することは、その使用量の低減からワークフローや製造プロセスの最適化まで、サステナビリティ上の様々な利点を提供することになる。
Association for Manufacturing Technology (AMT) で製造技術部門ディレクターを務めるベンジャミン・モーゼス氏は、製造プロセスの環境配慮化に重点を置く。工場レイアウトから工作物保持ソリューションとツールパスまで、あらゆるものが企業の環境フットプリントに影響を与えるとモーゼス氏は話す。業務全体をデザイン上の課題として検討することで、各メーカーはアルゴリズムツールを利用して、より環境に配慮した作業方法を特定できる。
「ジェネレーティブデザインで可能となる反復デザインプロセスを応用することで、デザインする商品の製造エコシステム全体を変えることができ、そうしたツールやプロセスを生み出す製造エンジニアリングのプロセスへの取り組みを大きく進化させられます」と、モーゼス氏は話す。
より環境に配慮した再生可能エネルギー
ジェネレーティブデザインは、再生可能エネルギー装置などグリーン経済への移行に不可欠な製品の再考にも貢献できる。「風力タービンのデザイナーではない私でも、例えばジェネレーティブデザインを応用して金属板をクモの巣のような軽量の構造体へ変化させるといったアイデアを生み出すことができます」と、カミングス氏。「大小のボリュームを融合させることは、こうした応用にとても適しているように思えます」。再生エネルギー製品の生産に必要な材料とエネルギーを低減しつつ性能を向上させることは、コスト優位性を高め、クリーンな送電網構築の加速に役立つ。
ソフトウェア関連の複合企業ハネウェルは、ジェネレーティブデザインの活用から得た知見によって化石燃料 (およびその他の従来型分野) のクライアントに向けた成果を向上させており、それは再生可能エネルギー分野における実践の拡大し続けるリソースとして使用可能だ。ハネウェルでソフトウェア/AI/計器部門グローバルビジネスリーダーを務めるプラブフ・ソウンダラージャン氏は「クリーン燃料への移行へ、熱意を持って取り組んでいます」と話す。「また、これまでのプロジェクト全てから教訓を得られるでしょう」。
認可できないものの認可
カミングス氏は、メーカーがジェネレーティブデザインを活用して新たな可能性を描き、従来の部品組立から決別することで、サステナビリティ面での大きな利益を実現できると話す。ただし、メーカーは製造業界では必須の制約も受け入れなければならない。ジェネレーティブデザインで設計された製品が意図通りに確実に動作し、管理機関 (例えば航空関連の製品であれば連邦航空局) から必要な認可を取得できるよう、経験に基づくデータを収集する必要がある。「これはテクノロジーとしては新参者なのです」と、カミングス氏。「その信頼を培う必要があります」。
だがグールチェンス氏は、テクノロジーは性能試験や検証に関する新たな課題を生み出す一方で、新しい解決策も提示すると話す。
こうした要素は、アムステルダムの橋のプロジェクトにおいても表面化した。「橋に十分な強度があることを証明する認可の取得は、かなり複雑なものでした」と、グールチェンス氏。「これが新しい技術、新しい材料、新しい形状であり、認可する会社が知らないものだからです。彼らに分かることは“この幅と長さの鉄骨柱の場合、動的状況下ではこれだけ、静的状況下ではこれだけの加重に耐えられる”ということだけです。でも、世界は変化しています。新たなテクノロジーは、新たな外観、新たな製造方法、新たな認可の必要性を意味しています」。
従来の認可は物理実験に基づくものだった。だがジェネレーティブデザインとその関連テクノロジーは、起こりうるすべての不具合を迅速に反復できるため、新しい種類の製品の認可プロセスの高速化に役立つ可能性がある。また、ジェネレーティブデザインによる迅速な反復で削減できた時間を、認可に費やすことができる。
デジタルでの検証は物理的な検証を補完でき、最終的には置き換えることができる。これはアムステルダムの橋のプロジェクトでJoris Laarman Labのパートナーとなったグローバルデザイン事務所 Arupが模索中のコンセプトだ。「[Arup から] 多くの支援を得ました」と、グールチェンス氏。「それ無しには、認可を受けることは不可能だったでしょう」。
デジタルでの性能検証の可能性は、グールチェンス氏が話すジェネレーティブデザインの重要なメリットにつながるもので、世界を新しい方法で見ることが可能となる。「既知のことから距離を置き、完全に自由な視野による考察を始めることができます」と、グールチェンス氏。「慣れ親しんだ何かではなく、自分たちが本当に望むものについて考えるのです」。