ミャンマーのサステナブルな農業をシュリンクパックの廃止で支援
世界各地の農家を有意義な方法で支援することが、開発途上国の人々の収入と暮らしを大きく変えることになる。食糧供給の懸念が増大する中、それは輸入依存度の軽減と地産地消の強化へとつながるだろう。
それをどのように実現できるだろう? 殺虫剤や肥料に使用される化学薬品、土壌流出や種の多様性を含む土壌や生態系への影響など、対応すべき問題は多い。世界各地の農業を支援するには、サステナブルな農業を実践する機会が重要だ。
ミャンマーは推定2,500-3,000万人 (総人口の50%以上) が家族経営による小規模農業に依存しており、サステナブルな農業を成長させる試みを行うには最適な国と言えるだろう。
過去数十年間、孤立主義を採ってきたミャンマーの軍事政権は小規模農業の分野を軽視しており、アグリビジネスを成功の見込める市場とは見なしていなかった。その結果、何千万もの人々が、必要最低限の灌漑技術や資金援助、助言を得られないままとなっていた。
ジム・テイラー氏とデビー・アウンディン・テイラー氏が設立したProximity Designsは、Autodesk Foundationのパートナーでもある。米国でコミュニティ開発と社会起業支援に携わる 2人は、その活動から自立支援に関する重要な教訓を得た。それは、人々のニーズについて深く理解するには、彼らの問題が自らの問題となるまで生活を共にすることから得られるということだ。
こうした価値観を持つ2人は、アウンディン・テイラー氏の郷里であるミャンマーへ移住し、2004年にProximity Designsを設立した。スタッフ13名、わずか2台の足踏み式揚水ポンプでスタートしたProximityは、今や太陽光駆動によるポンプや点滴灌漑システムなど手頃なツールを製造し、作物に関する教育を農業従事者へ提供して、低金利での資金援助を行っている。これまで70万世帯以上の農家に支援を提供し、その生計を大幅に向上。ほとんどの世帯で年間純益250ドルが見込まれている。
イノベーションにつながる破壊的変化
ミャンマーは、21世紀に最も大きな経済的、政治的変動を経験した国だ。政府が国際市場に国境を開くと、ミャンマーは世界から隔絶された最貧国から、地域から集まる低価格の商品による活気溢れる新市場へと変貌した。
これにより手頃な農機具などの恩恵がもたらされたが、一方で仕事を求めて多数の若者が国を去り、アジア全域に流出した。わずかに残った労働者たちにとっては、技術と機械化が、より差し迫った急務となっている。
「農業に携わる多く人々の暮らしは極めて不安定で、非常に脆弱な存在となっています」と、アウン・ディン・タイラー氏は話す。「6カ月続くはずの雨季には、前回1カ月にわたり雨が降らず、灌漑用ダムが満水になりませんでした。そのため例年のようにコメを育てることができず、農家たちは急遽、豆類や他の作物へシフトしました。これは農家が虫害や病害に関連したさまざまな支援を必要としており、経験の無さ故ににシフトせざるを得なかったということです」。
また、ミャンマーではデジタル化も急激に進んでいる。携帯電話の受信エリアは、この5年間で国土の5%から85%になり、Proximity Designsの提供するサービス同様、より低コストでデータ主導のサービスを容易に提供可能となった。今後も続く技術的進歩を踏まえ、アウンディン・タイラー氏とスタッフは活動の焦点を環境の維持向上へと移し、シンプルながら効果的なソリューションを考案した。
プラスチック削減で大きな効果を上げる
Proximityは、より迅速にコストを削減し、環境維持をビジネスモデルに組みこめるよう、自社の小型灌漑装置のパッケージからプラスチック製シュリンク包装を排除した。これでコストを削減でき、その分 (年間約4,200ドル) を製品やサービスの向上に回すことができる。ナイロン袋57,000枚に相当するプラスチックを排除することで生産性が向上し、エネルギー消費を削減できる。
「プラスチック製の梱包材20巻で箱詰めするためのサイクルタイムは、シュリンクパック使用時には12分かかっていました」と、アウンディン・タイラー氏。「シュリンクパックの排除により、サイクルタイムはわずか5分にまで短縮されました。これは年間で約75営業日に相当します」。
この転換へのひらめきは、Proximityのシニア プロダクト マネージャー、リビー・マッカーシー氏が2018年にAutodesk Universityへ参加した際に生まれた。一夜にしてビジネスのユーザー数を爆発的に増加させたいと思うなら、自分たちの盲点について考えるべきだと、あるスピーカーが聴衆に語ったのだ。
これがマッカーシー氏にとっての転機となった。Proximityの製品パッケージが規模拡大のためのデザインではないと気付いたのだ。「当社が生み出すムダの量、意図せず環境に対して与える影響について考えるきっかけとなりました」と、マッカーシー氏は話す。
振り返ってみると明白なことにも思えるが、この転換には驚くほどの想像力と内省を要した。「国際的なコミュニティは大規模な革新という考えにとりつかれているところがあり、すぐ目の前にあるものには目を向けないことも多いのです」と、マッカーシー氏。
だが、この話には続きがある。プラスチック製シュリンクパックの排除がビジネスの他の分野にも影響を与え、その多くが改善された。「非常にポジティブな影響が得られました」と、マッカーシー氏。「自社製品の販売方法を変更し、以前よりもずっと少ない、カスタマーのニーズに合致する量で販売するようになりました」。
サステナビリティを拡張する
Proximity Designsは、3MやApple、Raytheonではない。そうした大企業が製造プロセスや供給パイプラインの変更を行う場合、中規模な国家が宇宙計画を開始するのに匹敵するプランニングとコストが必要になる。
だが、同社のチームはシュリンクパック排除に際して、予測と対応策、リスク管理を携えてアプローチを行った。これは規模を問わず、あらゆる企業にとって簡単なプロセスではないが、巨大企業も学びを得るところが多い。
「一夜にして実現可能なことではありませんでした」と、マッカーシー氏。「梱包についてかなりの準備を要しましたし、ばら売りに対応するため価格設定を変更する必要もありました。何よりも、バックエンドシステムが一番の難関でした。SAPシステムをいちから見直すことになったのです。魅力的な話ではありませんが、ここのチーム、そして国内に点在する100人を超えるスタッフ、ディーラーの間でかなりの連携を要しました」。
事業活動をよりサステナブルなものにしたいと望む他の企業に対して、マッカーシー氏は盲点に関する問いについて再び言及し、シンプルな哲学を披露する。「長年にわたり旧態然としたビジネスを行っているのであれば、我々はなぜこのやり方を採っているのか?と自問するべきです」。
取り扱う製品が低価格な農機具であれタブレットであれ、こうしたスタンスを企業文化に導入し、それを内在化させることは、他の企業に模範を示し、彼らが追従できるような手がかりを残すことになる。それがコストや時間、材料の節約につながり、ひいては地球さえも救うことになるのかもしれない。