ジェネレーティブデザインでコンクリート型枠をより強靭かつ軽量でサステナブルなものに
- 3Dプリンターなどの新技術がサステナブルなコンクリートを貢献
- 構造エンジニアのチームが、建設に使われるコンクリートをより持続可能なものにするプロジェクトを立ち上げた
- コンクリートをより軽く、より少ない材料で作ることにより、建設プロジェクトは地球を救う一方でコストを節約できる
- このプロジェクトはジェネレーティブデザインとアルゴリズムを活用し、現在では不可能なコンクリートの形状やデザインの実現する方法を模索している
工法の飛躍的な進歩は、そう頻繁に生まれるものではない。ギザの大ピラミッドやフランスの水道橋ポン・デュ・ガール、ル・コルビュジエのフローティングスラブ設計、フーバーダムなどは、世界を変えた発明に挙げられるだろう。何世紀にも渡るデザインの革新の中で、コンクリートは人工建造物向けの材料として、一貫して支持され続けてきた。だが旧来の配合処方や手法が進化を続け、また3DプリントやAIなどの新たな技術によって、コンクリートがより軽量で耐久性に優れ、そして恐らくは最も重要なことに、よりサステナブルなものになると示されるようになってきた。
ブラジル発のスタートアップ企業BRAVO EngineeringのCEOを務める構造エンジニアのマルコス・シルヴェイラ氏は、自身のチームと“Hone Structures”と名付けたプロジェクトを推進。このプロジェクトがサステナブルなコンクリート工法の発展に役立つことを願っている。概念実証のコンクリート製ディープビームに始まるHone Structuresは、鉄筋コンクリート構造にジェネレーティブデザインを応用し、材料の節減やプロセス上の潜在的な利点を模索するものだ。
シルヴェイラ氏とチームメイトのガブリエラ・ヴィヴィアン氏は、サンパウロ大学およびカナダのウィンザー大学での博士課程 (サンパウロ大学ではルイ・ビテンクール博士、ウィンザー大学ではスレーカンタ・ダス博士に師事) の期間に、トロントのオートデスク テクノロジー センターのGenerative Design for AEC Intensive Residencyに参加して構想を練ると、ボストンのロボット工学のエキスパートと連携して鉄筋コンクリート工法と3Dプリントを学んだ。シルヴェイラ氏は、彼の博士課程卒業論文となる「生きた、息の通った応用」のプロジェクトは、ジェネレーティブデザインとAI、ロボット工学を用いた「鉄筋コンクリート構造のデザインと建設プロセスの改革を目指す」ものだと話す。
従来のコンクリートデザインと構造について、氏は「厳密に言うと問題でなく制約です。それがデザイナーの経験と、従来の製造プロセスの制約に基づいたものだからです」と話す。一方、Hone Structuresのアプローチでは、コンクリート構造の特性をFEA (有限要素解析) により観察し、その後コンピューターによる情報処理を使用して形状を再構築して、適所での強度を高める。「つまり、設計荷重を一定の範囲にわたって段階に分割するのです」と、シルヴェイラ氏。「同等の強度を示す複雑な形状のトラスをストラット-タイ・モデルのアプローチを用いて提案、計算するのではなく、荷重の各段階を分析し、補強が必要となる最も弱い部分がどこかを理解するために荷重の段階を上げていくのです」。
チームは、ウィンザー大学の構造ラボ内で幾つかのコンクリート形状を構築し、それを水圧式の基本構造に取り付けて加圧して、カメラを使用してテストを記録するデジタル画像相関 (DIC) システムを応用。これにより、特定の力条件下におけるその後の張力や応力を分析できるようになった。その後、ジェネレーティブデザインのアルゴリズムに再び取り組み、構造挙動と次の要素バッチに使用する材料の間の関係をさらに向上させるべく、新たにコードを記述した。
このプロセスは、材料の削減へ直接的につながった。「これはデザインプロセスが応力に基づいていることを示しています」と、シルヴェイラ氏。「応力とは、範囲に分配される力です。応力に換算して強度を上げると、その範囲を縮小できます。そして範囲を縮小すれば、内部の材料の量を減らすことができます」。
これが、型破りで不規則な形状が特徴的なトラスへとつながった。ジェネレーティブデザインのアルゴリズムは、風変わりだが最適な形状を生み出すことで広く知られている。Hone Structuresは、この要素に対して10種類のデザインを制作。それはアルゴリズムで生成された1,000以上のモデルから選択されたものだ。チームはジェネレーティブデザインのアプローチにおけるトリガーとしてトポロジー最適化を使い始めた。つまり、要素はより小さな要素 (FEAプロセス) に分割されたのだ。指定の要素の挙動と、要素にかかる応力を理解し、それを組み合わせることで、要素全体の挙動の情報を提供する計算結果がもたらされた。アルゴリズムは荷重の各段階に対して、全体の構造挙動を低下させることなく、どの小要素を除外できるかを分析。デザイン目標が実現するまで、それが何度も実行された。
最終結果として、従来の人間の手によるデザインプロセスで使用される材料のわずか55%で構成されたディープビームが生まれた。材料削減の可能性が立証された現在、論理的な次のステップは、より優れた材料科学を研究し、アディティブマニュファクチャリングを取り入れて、プロセス全体をさらにスマート化 (そして、よりグリーンなものに) することだ。
米国連邦道路管理局が使用している超高性能コンクリートは、従来の配合より強靭かつ高価なものだが、通常のコンクリートより必要量が少なく、ジェネレーティブデザインにより材料削減の効果で、より手頃なものとなる。また、よりサステナブルな型枠を使って作業できるため、コストと材料をさらに削減できる。
3Dプリントなどのテクノロジーは、製造プロセスを変えつつある。直線的なコンクリートに制約される従来の型枠は、過去のものとなるかもしれない。コンクリート構造内で使われる異形鉄筋の3Dプリントの研究は、迅速に進められている。同時にシルヴェイラ氏は、小規模な鉄鋼をプリントする企業による研究が、これまで以上に複雑なコンクリート鉄筋構造の機会を提供しつつあるとも話す。また、より軽量かつ強度の高い炭素繊維化合物による異形鉄筋の作成を実験中の企業もある。
Hone Structuresは概念実証のため、ジェネレーティブ デザイン アルゴリズムと建設用ロボットを使用した鉄筋コンクリート製歩道橋をデザインしている。この構造体の開発により、チームは、現在のテクノロジーの限界を超える形状、構造、サイズに取り組むこととなる。
「通常の型枠を使用する場合、特定の形状に限定されるため、これらの制約をデザインプロセスに使用する必要があります」と、シルヴェイラ氏。「今後は鉄筋のデザインを、現行の組立技術による制約を受けることなく、性能に対する要求条件によって決めることができるようになるかもしれません」。
歩道橋はHone Structuresが取り組んできたこと全ての理想的な応用だ、とシルヴェイラ氏。同社の研究から生まれるプレストレスト コンクリートは、これまで建設の世界で使用されてきたものとは大きく異なる形状に成形可能だからだ。「この応用は、鉄筋コンクリートの世界における積層造形とジェネレーティブデザインについてのいくつかのパラダイムを打ち破る良い機会です」。
目標は、このプロジェクトを2年から3年で完了させることだ。この橋は、可能性を示すショーケースとなるだけではない。この手法の限界、可能性、特異点を示す学びのツールにもなる。
シルヴェイラ氏は、これらのテクニックは世界各地のさまざまな構造に応用可能だと話す。「構造物全体や高層のビル、金属製のビルを製造するつもりです。構造要素の配置のデザインにAIを使用すれば、かなりのことが行えるようになります」。
この種のイノベーションは、従来のデザイン実践では実行不可能な選択肢を提供するアルゴリズムで建築がある程度決定されるようになるにつれ、物理的にかなり異なった外観の世界を生み出すことになるかもしれない。
「将来的には、こうしたアプローチで建築や要素の配置を決められるようになるため、構造物の形状は現在とは全く異なるものになり、性能も段違いに向上するでしょう」と、シルヴェイラ氏。「数千ものソリューションを扱えるようになれば、性能を向上させたい部分、材料の量を減らしたい部分が判別可能になります」。
3Dプリントとロボット工学が建設を迅速化することで、ジェネレーティブデザインが材料を削減し、部材をより良いものにする、新たなパラダイムを生み出すようになるだろう。Hone Structuresのようなプロジェクトは、建造物に新しいサステナブルな生命を与えるのに必要な要件を満たしつつあるのだ。
本記事は2020年4月に掲載された原稿をアップデートしたものです。