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サステナブル消費がパンデミック収束後の「新しい生活様式」となるか

sustainable consumption

新型コロナウイルスへの感染と入院者数のピークが過ぎるにつれ、パンデミックで大打撃を受けた経済活動も徐々に再開し、不安定でたどたどしくも活気を取り戻しつつある。だが、パンデミック後の新しい生活「様式」は、どのようなものなのだろう。世界的危機の収束後、社会と市場はコロナ禍拡大以前の活動へ容易に戻ることができるだろうか? そもそも、そこに戻るべきなのだろうか。それとも、サステナブルな消費とビジネスの実践を促進する、よりバランスのとれた新たなモデルが出現するのだろうか?

中国やイタリア、イラン、スペイン、米国の医療制度は、新型コロナウイルス感染症に対する準備が整っていなかった。台湾とシンガポールは、1990年代の鳥インフルエンザ流行を受けてリソースへ投資を行い、他の大規模な経済圏が感染症対策を縮小する中で対応力を維持していたことから、今回も首尾良く対処できた。

だが、中国のサプライヤーが業務を停止したことで、多くの製品のサプライチェーンが崩壊した。ベトナムなど低賃金国では洗練され、技術力も高い製造業が台頭している一方で、テクノロジー業界は中国での部品調達を行う仮想的なモノカルチャーに依存するようになった。そのため、サプライチェーンの多様化で実現できていたかもしれないレジリエンスが犠牲になった。

こうした実例は、効率と利益を追求した結果として「無駄のない事業活動」を追求する欧米の商習慣に内在するリスクを顕にした。資本市場は、今年のパンデミックのように稀な出来事を受けても持続可能となるような余裕を維持することよりも、資本家への短期の投資利益を優先するよう企業を圧迫してきた。

成長という問題

今回のパンデミックに起因する不況で、より鍛えられることになった企業の取締役や機関投資家は、今後のレジリエンスの方策を支持するだろう。ソーシャル ディスタンスが緩和され、経済活動が再開しても、企業や個人が従来の消費習慣へ簡単には戻らない、幾つかの理由がある。

パンデミックが襲来した時点で、既に地球の限りある資源にとって成長は負担となっていた。世界が求めていたのは、さらなる利益をもたらしつつも、不均衡やビジネスの破壊的変化、環境への悪影響に対処することでムダを削減し、成果を向上させ、労働者により良い機会を生み出せる新たな経営モデルだったのだ。

sustainable consumption shopper

近年、業界のオピニオンリーダーたちは、消費者の嗜好と企業のビジネス モデルに生じる変化は自明のことだと仮定してきた。こうした潮流は、貧富の格差や気候変動などマクロなトレンドで引き起こされる、消費の抑制とサステナブル化の傾向を示している。2020 年のパンデミックは、消費者文化が新しいビジネス規範を容認するよう背中を押す、世界的なショックをもたらしたのかもしれない。

「ハーバード・ビジネス・レビュー」へ2月に公開された記事で、トーマス・ルーレット氏とジョー・ボセロ氏は、一般的な繁栄にとって成長自体が必要条件であることに疑問を呈している。彼らは、有限な市場で競争力を持つ企業として成功するためには、既存の製品に価値を付加し、規格化された部品の使用に製品デザインを寄せるよう、戦略を転換するべきだと提案している。この意見に対する反応はさまざまだ。資本主義の頑な支持者たちは、この成長縮小を論外だと拒絶する。ノーベル賞を受賞した経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏は、成長は不可欠だと断言する一方で、経済はより環境に優しい成長形態へ進化する必要があると提言している。

社会起業家で、環境に優しい家庭用洗剤製品で知られるSeventh Generationの設立者であるジェフリー・ホランダー氏は、スティグリッツ氏に同意する。ホランダー氏は「すべての成長は均一にもたらされるわけではなく、私たちに必要なのは“ネットポジティブ”(プラスの成果を生む) や“再生的成長”だ」と話す。企業は地球とその住民に対し、共通の福利に最良の機会をもたらす未来を提供できるように順応するべきだと、彼は論じている。

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Seventh Generationは製品開発から廃棄まで自社の事業活動全てが与える影響を査定していると述べている [提供: Seventh Generation]

循環型の再生

再生的成長戦略とは、どのようなものなのか? それはサーキュラー エコノミーからインスピレーションを受けたものになるだろう。サステナブルな衣料品メーカーであるパタゴニアは、消費の削減を長く提唱してきた。パタゴニアのような企業はサーキュラー エコノミーのビジョンを提供している。製造される製品は、その寿命を終えると、単にリサイクルされるだけでなく材料が再加工され、新しい製品へとアップサイクルされる。

ワークスペース デザイン企業Steelcaseは、サーキュラー エコノミーを取り入れ、リサイクル材料を100%、もしくは部分的に使用した新素材や製品を生み出している。また、Phase 2 Programを運営。このプログラムは「埋め立てゴミゼロ」を目標とし、不要なオフィス家具の再利用やリサイクルについて企業にアドバイスを提供するものだ。

ハイテク業界においては、Fairphoneもサーキュラー エコノミーのコンセプトを導入。このオランダの企業は、モジュール式で、ユーザーが自ら修理でき、リサイクル可能で、より長持ちするサステナブルなスマートフォンを製造している。

Steelcaseはプラスチック ボトルと端布から生まれたリサイクル素材100%の布地を使用した製品ラインを生み出した [提供: Steelcase]

SteelcaseとNatural Fiber Weldingが手がけたBasslineの天板全体にユーズドのジーンズが使用されている [提供: Steelcase]

Steelcaseはスクラップのベニアを合わせた新しいベニア板で、コストを削減しつつ森林を保護している [提供: Steelcase]

Fairphoneはヨーロッパ市場に重点的に取り組んでいる。Fairphoneのサーキュラー イノベーション リード、ミケル・バレスタ・サルヴァ氏は「Fairphone初の携帯電話は“ダークグリーン”(環境保護には根本的な社会の変化が必要だとする考え方を持つ) な消費者の関心を得ました」と話す。「現在は “ライトグリーン”(環境への取り組みは個人的な問題であるという考え方) や慎重派の人々、機能性を犠牲にしたくないと考える消費者にアピールしています」。

バレスタ・サルヴァ氏は、同社のインパクト イノベーション計画の牽引役を務めている。この計画はFairphone製品の寿命延長につながっており、大抵の携帯電話の寿命が2年なのに対して、同社の場合約5年になっている。「弊社の環境アセスメントによると、スマートフォンの寿命を2年延ばすことができれば、その製品のライフサイクルにおけるカーボンフットプリントを30%削減できます」と、バレスタ・サルヴァ氏。

「弊社はモジュール式デバイスを作り、修理を迅速かつ簡単にすることで業界の常識を打ち破っています」と彼は続ける。「スクリーンが壊れたら、自分で交換することも、弊社の修理サービスを利用することもできます。バッテリーも交換可能で、必要なのはプラスドライバーだけですが、それも製品に付属しています」。

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Fairphoneのスマートフォンは、モジュール式かつ修理可能で、一定量のリサイクル材料とフェアトレード部品を使って製造されている [提供: Fairphone]

一方、Electroluxは自社のロボット掃除機Pure i9に関して、スウェーデンなどでサブスクリプション プランをテスト。このプランにはサービスとメンテナンス料金が全て含まれ、ハードウェアを使ったサステナブルなモデルの創成を見据えたものになっている。

多数ある今後の選択肢

ビジネス変革の基本理念としてのシンプリシティを長年支持する作家、コンサルタントのビル・ジェンセン氏は、今回のパンデミックによるサプライチェーン ショックが、企業にオープンソースのデザインや開発を導入を促す、いわば促進剤となるかもしれないと話す。オープンソース製造は現在、医療機器不足に対する小規模メーカーへの積極的な参加と対処を可能にしている。「経済的動機があり、オンラインでのデザイン共有と製造がいかに安価で効率的であるかに気付けば、不足に対処する手段を変える機会となるのです」と、ジェンセン氏は話す。

今後企業は、よりレジリエンスに優れたポストパンデミックのビジネスモデルを導入できるだろうか? フューチャリストのジェリー・ミカルスキー氏は、貢献者として個人を信頼できる企業のキャパシティに、判断材料を見つけられる可能性があると話す。「この今回の節目によって、人々はこれまでとは違う組織構造を模索しています。そうせざるを得ないからです」と、ミカルスキー氏。「よりレジリエンスに優れたモデルを見つける組織もあるでしょう。この社会は現在も非常に機械的に機能しており、信頼の仕方も忘れてしまっているのです」。

一部のオブザーバーは、パンデミックによる隔離と内省が消費パターンを変化させるという見方に懐疑的だ。ワシントンDCに自身のオフィスを構え、国政と政策を専門とするベテラン コンサルタント、ラリー・アーヴィング氏は「経済は急激に回復し、ほとんどの消費者と労働者はすぐに元の状態に戻るでしょう」と話す。「外出自粛のストレスや緊縮予算、旅行禁止の反動で、例えば旅行が増加するのではないかと思います。米国人は、とにかく楽観的ですから」。

多くの人々がこれまでの習慣に戻るとはいえ、若年層には今後の展望に対する動揺が起こるだろう。教育分野の出版社マグロウヒルでソートリーダーシップ ディレクターを務めるウェンディ・アムシュトゥッツ氏は「職場や消費活動に大きな変化がもたらされるのはZ世代だと考えられます」と話す。「私の17歳になる息子は、このパンデミック中に、社会の仕組みに関する自身の考えを形成しています。彼の友人たちも同じです。この思考の変化は、大きな意味を持つものになると思います」。

経済界の現オピニオンリーダーたちはサーキュラリティ (循環性) や脱成長といったレジリエンス戦略を生み出したが、次なる世代は、その導入促進につながる顧客需要をもたらすようになり、「いつも通り」という意味は再定義されるだろう。