未来のビル設計に役立つ今日の新たな建築技術
- 技術の進歩と創造性が互いを高め合うことで、建築は常に進歩してきた。
- アーチやモスクからそびえ立つ超高層ビルまで、建築上の偉大な功績には優れた技術的・工学的な偉業が必須だ。
- AIやジェネレーティブ デザイン、デジタル ツインは迅速なプロトタイピングとイテレーションを可能とし、無数のデザインアイデアと可能性を生み出している。
- BIM、デジタル ツイン、IoTが建物の性能に関する広範な情報を取得・表示し、それがより多くの情報に基づくデザイン決定へとつながる。
- これらの優れたツールは、より良いコラボレーションと持続可能なデザインを可能にするが、それがツールである以上、人間のインスピレーションと置き換えることはできない。
拡大を続けるデザインスタジオやテックハブのコレクションを収蔵した、将来を見据える銀色に輝く目のような環状の建造物、ドバイの未来博物館は科学技術の驚異と言えるだろう。 曲線を描く流線型のファサードは、アラビア書道を形取った3D窓で装飾されている。建築家とエンジニアから成るチームは、この不規則なフォルムを、没入型ビジュアライゼーションとデジタル モデリングを駆使して実現。極めて野心的で複雑なプロジェクトを、テクノロジーが可能としたのだ。
この美術館は、イノベーションに投資し、建築とテクノロジーのより幅広い進化に投資する都市に相応しいシンボルとなっている。新たなデジタルツールと製造技術の進歩は建築家とデザイナーに力を与え、物理学と想像力の限界を推し進めると同時に、そのための複雑な計算と視覚化を提供する。こうした進化する建築技術は実務に取り入れられつつあり、ワークフローを変化させ、エンジニアリングと建設の可能性を広げることになるだろう。
建築技術は実務をどう変えたか?
建築の歴史は技術の躍進と創造性の爆発の繰り返しであり、新たなツールや建築技術が、新たな形状の開花につながってきた。古典的な円柱、アーチ、水道橋、モスクや寺院の精巧なデザインなど、歴史を通して数学と建築の進歩を見ることが可能だ。飛梁 (フライングバットレス) のようなゴシック建築の発明は、それまでブロック状だった大聖堂を作り変え、信仰の宮殿を新たな高みへと昇華させるのに役立った。
工学と演算の進歩は、材料科学と施工者の野心も前進させる。シカゴの鉄骨造やレンガ造の多層ビルは、今日の高層ビルへの道を切り開いた。コンクリートの打設と、それに必要な演算は急速に進化しており、重くて硬い材料が地上から浮かび上がるのは詩的ですらある。それは、エンジニアリングの伝説的存在であるオヴ・アラップが手がけたロンドン動物園のペンギン展示のデザインや、構造エンジニアのフェリックス・キャンデラが手がけた華やかなコンクリートの花びら、セクシーな曲線、カスカロン (花吹雪が入った鶏卵) などに見ることができる。シアーズ・タワーを実現したファズラー・カーンのチューブ構造から、ニューヨークのビリオネア通りに並ぶ超薄型ビルまで、超高層ビルを支える構造上のアイデアは、より高度化するコンピューターとデジタルモデリングツールの活用によって進化してきた。
建築を変えつつある10のテクノロジー
建築の表現と進化は、常にテクノロジーの変化と結びついてきた。製造技術、演算能力、デジタルビジュアル、ロボット工学の新たな発展により、現在この分野には無数の新たな方向性が示されている。
1. BIM (ビルディング インフォメーション モデリング)
建築におけるデジタル革命の基盤となるプログラムのBIM (ビルディング インフォメーション モデリング) は、建築家が実際の現場や景観をキャプチャして3Dデジタルプランを作成し、エンジニアや協力者とのより良いコラボレーションを可能にする。建築家はAutodesk BIM 360やAutodesk Buildといったツールで何度となくプランのシミュレーションを行い、実世界でのシナリオを検証できる。
2. ビッグデータとデジタル ツイン
BIMをさらに一歩進めると、建築家やエンジニア、ビル事業者は、ビッグデータのレンダリングとセンサーデータのリアルタイムでの取り込みにより、デジタル ツインを活用して既存構造物のダイナミックなデジタルレプリカを作成できる。実際の建物のカーボンコピーであるデジタル ツインにより、デザイン変更や改修の影響の測定、エネルギー使用量や空調システムの最適化など、さまざまなシナリオのテストが可能となる。こうしたモデルで収集、分析された膨大なデータは将来の建物デザインに反映され、地域全体の効率性と持続可能性を向上させるスマートシティのイニシアチブを支援する。
3. AI
どんなデザイン上の疑問にも、コンピューターが答えられるとしたら? 特定の屋根をデザインする上で、最も持続可能で、材料の負担が少ない方法とは? これまでの何千ものデザインをもとに、アパートメントの最高のインテリアレイアウトを見出すには? 建設資材の適正価格や入札額は?
膨大なデータセットを処理し、適切なプロンプトがあれば効率的な設計ソリューションを見つけることができるAIと機械学習の進歩により、こうしたことは既に建築家やエンジニアにとって現実的なものとなっている。その強力な論理モデルは、緑地とエネルギー効率を最大化した計画開発から、材料の発注、設計図との偏差、安全上の問題がAIで自動化・監督される建設現場に至るまで、アイデアの種を取り込み、そこから可能性の庭を生み出すことができる。AIは建設候補地の評価にも役立つため、デベロッパーは数週間から数か月に及ぶ調査を省略することができる。
4. AR、VR、XR
現実世界のビジュアルにデジタル画像を重ねるARは、建築家やエンジニア、建設作業員に、建設現場にプランを適用した形をダイレクトに「見る」ことを可能にする。これは監査や新しい建設ツールのトレーニングにも使用できる。デザイナーはVRを活用することで、クライアントをデジタル世界にシミュレートした高層ビルのプロポーザルの内部の、バーチャルなウォークスルーに案内できる。XR (上記2つとMR の概念を包括する用語) を用いることで、物理的な距離を問わず、コラボレーションやコミュニケーションが容易になるのだ。
5. ジェネレーティブ デザイン
様式や技術の変化のスピードは、しばしば建築の進化に関する議論へつながる。だがジェネレーティブ デザインにおいては、デザイン過程は進化のようではあるが、ずっと迅速に行われる。建築家は制約と目標をスクリプトに入力し、ジェネレーティブ デザインを用いることで解決策を迅速に反復し、最適な解決策を見つけるための選択可能なパスを素早く判別できる。この共同創作は、エンジニアリング能力を限界まで高め、アイデアを素早くテストして形状を最適化し、クリエイティブで魅力的なファサードを生み出すことができる。例えば、Zaha Hadid Architectsが手がけた、曲線美が特徴的なヘイダル・アリエフ・センターのしなやかな形状のように。
6. 3Dプリント
複雑な形状やフォルムを構築する能力は、デザインプロセスを一変させた。そうした形状を3Dプリントなどの技術で実現する作業は、建設にも同様の影響を与え得る。コンピューター支援溶接、アディティブ マニュファクチャリング、接着技術の進歩は、模型から建物全体まで、あらゆるものをプリントできる新世代のマシンへとつながった。プリンターによっては、コンクリートラインを使って新たな住宅を形成することさえ可能で、これは従来の工法では困難な環境で使用されている。こうした巨大プリンターには、材料費の削減や廃棄物の減少から、製造の劇的な高速化と安全性まで、数え切れないほどの利点がある。
7. IoT
構造体の進化は、建物の形状や工法だけではない。センサー、コントロール、測定ツールの増加はビルの運用を一変させている。こうしたスマートビル デバイスは、IoTや不動産テックに分類される。エネルギー効率測定と二酸化炭素排出量トラッカーは、オフィスビルの持続可能性向上につながる。全館制御システムはエネルギー使用量を劇的に削減する。また追跡ツールの多くで空間がどう使われているかを測定できるため、他のツールでより収益性の高い小売スペースを作成したり、学校やハイテクハブでのコラボレーションを促進したり、将来的により良い建物を設計したりするのに活用できる生データを提供したりできる。
8. クラウド コンピューティング
データストレージのアーキテクチャを変更することは、建築家のデータ利用方法も変えることになる。クラウド コンピューティングによるリモート データストレージは、デザイン、デジタル ツイン、コラボレーション可能なプラットフォーム、シミュレーションをすべてホストし、それを多数の設計チームと共有できるため迅速な開発と反復を可能にする。データ共有は、チームがプロジェクト現場の気候リスクを分析し、建設現場と設計スタジオのコミュニケーションを維持して、開発を合理化し、ワークフローを臨機応変に変更するのに役立つ。
9. ロボット工学
こうした高度な設計の実現には、ミリ単位の精密構造が基盤となる。新世代の建設ロボットにはレーザースキャナーやGPSシステムが使用されていることが多く、必要な精度と高度さが約束されている。ロボットは、モデル作成などの一般的なデザイン作業を、人間よりもはるかに高速に実行できる。この技術は、保護ヘルメットを着用した作業員では実行不可能な、危険な環境での新しいタイプの加工にも適している。
10. 新建材
データを解析する新たなツールが多数登場したことで、より持続可能な材料を用いた試みが容易になった。グリーンスチール、二酸化炭素を吸収するコンクリート、マス ティンバーは、高度な演算能力を用いて迅速にデザイン、テストされる材料の一例であり、これらの低炭素資源が建築に利用可能であることを実証している。
建築における新技術のメリット
これらの新たなイノベーションは、単なる派手な新形状に留まらない可能性を秘めている。デザインアイデアをテストし、構造体の効率を向上させる革新的な作業方法は、業界の活動の在り方を変える可能性がある。クラウド コンピューティングとジェネレーティブ デザインで迅速なプロトタイプ作成が可能になれば、形状の仕上げも、より達成しやすくなる。ロボット工学と3Dプリントにより、構造体の迅速な組み立てが実現する。また、スマートモニターとビッグデータ分析では、建物の性能を測定し、次の大きなデザイン革新に役立てることができる。
世界の現状は、新しく大胆なアイデアを求めている。こうしたデジタル支援ツールによって、人間のデザイナーは新しいアイデアを生み出し、テストすることができる。住宅不足と環境上の非常事態により、より多くの住宅とグリーンインフラの拡大、持続可能な建築実践と都市への需要は高まっている。これらの技術は、時短を実現し、無駄を省き、より効率的で持続可能な建物を生み出す方法を提供する。
建築技術の応用例
グローバル建築事務所Perkins+Willは、日々のデザイン業務を新しい技術ソリューションによってどのように拡張できるのかを、さまざまな方法で例証している。同社の新しいアプリは、Autodesk Revitのモデルファイルを綿密にチェックして、ファイルサイズが大きく、同期に時間がかかり、同時ユーザーが多いプロジェクトを特定する。これらはすべて、チームが困難にぶつかっており、支援を必要としているサインだ。既存のデザインファイルをビデオゲーミングエンジンに接続する新しいVRプログラムを使用することで、提案されたプロジェクトの内部を複数のスタッフが「見る」ことができる。ジェネレーティブ デザイン プログラムは病院などの複雑な内装のデザインに役立ち、またAR電話アプリやMRヘッドセットはコンセプトを共有して新しい提案を紹介するための、より迅速かつ優れた方法を提供する。これらの新テクノロジーは、クリエイティビティを形作るのではなく、視覚化とより簡単な共有により、それを高めることができる。
人間とマシンの知能のバランス
こうしたツールの力の活用は、まだ始まったばかりだ。持続可能な都市計画と建築設計は、新しい方法論と材料によって今後のプロジェクトのカーボン フットプリントを大幅に削減できる可能性を持った、ひとつの分野に過ぎない。
演算能力の向上は驚異的だが、これらの発展はツールにとどまっている。建築の進化は、常にデジタルの進歩を活用する巧みな人間の手を必要としてきた。エレガントで別世界のような曲線を描く近未来的な作品で有名な、ザハ・ハディドのキャリアを見てみよう。彼女は数々の技術的寵児を生み出したが、それはアンビルド・アーキテクト (作品がスケッチのみに限られている建築家) としての長いキャリアを経た後のことだった。テクノロジーは強力なイネーブラーになり得るが、ツールのパワーの向上が、その使用方法を理解する匠の必要性をかき消すものであってはならない。
本記事は、2018年1月に掲載された原稿をアップデートしたものです。
Matt Alderton contributed to this article.