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応急仮設住宅の配置計画を BIM を活用した自動化プログラムで大幅に短縮

応急仮設住宅 配置計画案
BIM を利用した応急仮設住宅の配置計画案の自動作成の流れ [提供: 熊本大学大西研究室]

地震や水害、山崩れなどの自然災害で居住できる住家を失った被災者は、その多くが避難所の生活を経て、建設や借上によって調達された応急仮設住宅で暮らすことになる。震度 7 を 2 度に渡って記録した 2016 年 4 月 の熊本地震の発生後には、11 月中旬までに 4,300 戸以上の仮設住宅が建設され、3 年以上が経過した現在も 4,300 人近く (借上型仮設住宅を含めた入居者数は計14,000 人以上) が生活を続けている。

建設型の応急仮設住宅 (以下、仮設住宅) は、災害救助法により災害の発生日から 20 日以内の着工が規定されている。主要ハウスメーカーが会員となっているプレハブ建築協会などが周到な準備を行い、プレハブ工法による迅速な建築体制が整えられているが、その配置計画の立案には一週間程度が必要であった。その期間内に終わらせるのも、並大抵のことではない。

熊本大学大学院 先端科学研究部の大西康伸准教授は、熊本地震の発生後、仮設住宅の配置計画を立てる同大学の教員が、文字通り不眠不休で作業を行うのを目の当たりにしたという。「目は血走りイライラしていて、これは相当大変なことだと思いました。とにかく寝ている暇なんてない。一刻も早い整備をというプレッシャーの中、夜通しスケッチを描き、作業を続けていました」。

熊本地震後に整備された仮設住宅 [提供: 大和リース株式会社]

熊本地震後に整備された仮設校舎 [提供: 大和リース株式会社]

大和ハウス工業株式会社 技術本部 BIM推進部の伊藤久晴次長は「仮設住宅の場合、住戸は基本的に 3 タイプしかなく、その組み合わせでできています」と語る。大和ハウスグループは、大規模災害の発生時に迅速に対応できる DASH プロジェクトを、グループ横断で組成。これまでに 1 万戸を超える仮設住宅の建設を行ってきているが、その中で最も手間取っていたのが配置計画だという。

同プロジェクトにも参加している大和リース株式会社東京本店 設計部設計七課 矢島登喜夫専任部長も「敷地の形状が違うので、配置計画は毎回いちから作らなくてはいけません」と述べる。住戸のタイプは限定されていても、通常のまちづくり同様にさまざまな要素を検討する必要があり、修正を行う度に配置計画を描き直す必要があるという。「持ち帰って配置計画を修正し、また持ち込んで打ち合わせをして持ち帰る、という作業の繰り返しになっていました」。

最適化でなく自動化を活用した対話型システムの開発

大西氏は熊本地震後、仮設住宅の説明に活用するムービー作成に協力した際に、プレハブを Autodesk Revit でファミリ化して CG アニメーションを作成。その過程で、あらかじめファミリを用意しておいて、何かしらの自動化ができるようにしておけば、配置計画もこれほど大変な作業ではなくなるのではないか、と考えるようになったという。

「仮設住宅の配置計画から完成までを、もっと速くできるのではないかと考えました。専門の開発会社でないと、本当に速くて想定通りに動くシステムを作り上げるのは難しいと思うのですが、やりたいことが形になる前の“もやもやしている”段階のことは大学でやるべきだと思っています」と、大西氏は続ける。

仮設建物 設計
設計結果を立体確認できるため、仮設建物のイメージを関係者間で共有可能 [提供: 熊本大学大西研究室]

「仕様を決めてから開発するのでなく、開発しながら問題点や仕様を決めていく、プロトタイピングの形で開発を進めていきました。世の中にないものを考える作業には Revit とビジュアル プログラミング プラットフォームの Dynamo がぴったりでした」。

現在開発中のシステムは、最初のプログラムで敷地境界線を手動作成すると、敷地内道路や住戸、駐車場を自動配置する。手動で入力した敷地内道路に即し、住戸、駐車場を自動配置することも可能。次のプログラムでは、住居、駐車場を配置するための領域を手動で設定すると、それに伴い住戸、駐車場を自動で再配置する。いずれのプログラムを実行しても、その度に規模や数量を記載した集計表シートが自動更新される。さらに、集会場や受水槽、浄化槽、ゴミ置き場が住戸数に応じて規模計算され、敷地外に配置されたそれらを手動で適切な位置に配置。自動配置と手動操作を繰り返すことで、任意の時点で自動配置結果を踏まえた配置案へのフィードバックを与えることができる。

さらには簡易モデルから詳細モデルへの置き換えなどもプログラムで実行可能だ。こうした一連のプログラムは、人間が面倒だと感じることを代わりにやってくれるものであり、最適化ではないという。大西氏は「最適化するようなプログラムを作ると、全ての条件を初めに入れる必要があり、人の要望が入り込む余地がなくなってしまいます」と述べる。

「プログラムが提示した配置に対して、どんな操作もできます」と、伊藤氏。「プログラムに縛られていないのがいいですね」。矢島氏も「手動とプログラムの組み合わせが、絶妙にできていると思います」と、その機能を絶賛する。「提案後に描き直す手間が不要で、打ち合わせをする相手にすぐに見てもらえます」。

「コミュニケーションを重視するために住宅の配置を対面型にする、あるいは日照を重視して南向きにする、駐車場へまっすぐアクセスできるようにするなどの提案を行うと、それを反映してコンピューターが作図してくれます」と、矢島氏は続ける。「作業の手間が減り、設計の中身が濃いものを作る時間が増えるようになると思います」。

配置計画 実施案 プログラム案
手作業で作成された実施案 (左) では 42 戸の住戸数と 31 台分の駐車場が配置されたのに対して、プログラムで作成した案では 42 戸の住戸数と 34 台分の駐車場を配置できた [提供: 熊本大学大西研究室]

このプログラムを用いて配置計画案の作成に取り組んだ結果、配置決定のプロセスを大幅に短縮し、約 1 時間で配置計画案を作成できることがわかったという。「行政の担当者の協力が必要になりますが、打ち合わせの際のフィードバックをその場で反映させて新たな配置計画案を自動作成するというプロセスを繰り返すことで、それが可能になります」。

大西氏が目指しているのは、フルで自動化されて最適な解が求められるプログラムと、全て手動のプログラムの、ちょうど間くらいのものだという。「最初から全ての条件がはっきりしているわけではないので、やりながら条件や要望をどんどん加えていけるようにしています。設計ツールである Revit で BIM と人が対話して作っていけるような、そんなプログラムを目指しています」。

仮設住宅の早期提供、完成イメージの共有からメンテナンスまで

熊本大学と大和ハウス工業、大和リースは先日、仮設住宅の早期提供を目指した共同研究契約を締結した。今後は配置計画案だけでなく、仮設住宅の供給に必要な計画、生産、施工など全ての過程に BIM を利活用することで、さらなる工期の短縮や、地域の実情に応じた計画の実現を図るとしている。

「地震を取り巻く状況を実際に体験された大西先生と、仮設住宅を最も多く作ってきた大和リース、BIM を強力に推進してきた大和ハウス工業が一丸になった、この組み合わせだからこそ実現したプロジェクトだと思います」と、伊藤氏。「一般的な BIM の業務でも言えることですが、単に Revit を導入するだけで速くなるのではなく、仕事のやり方や打ち合わせのプロセスをどう変えるかが重要だと思います」。

大和ハウス工業 BIM推進部 伊藤久晴次長 熊本大学大学院 先端科学研究部 大西康伸准教授 大和リース株式会社 東京本店 矢島登喜夫専任部長
左から、大和ハウス工業株式会社 技術本部 BIM推進部 伊藤久晴次長、熊本大学大学院 先端科学研究部 大西康伸准教授、大和リース株式会社 東京本店 設計部設計七課 矢島登喜夫専任部長。

「決められた工期や承認の期限などの時間的制限が多い中で、業務時間が短縮できれば、より住環境や居住する人たちの関係性などの要望にも配慮する時間が増えます」と、矢島氏。

この研究では、ドローンを用いた計画地の自動測量、仮設住宅の自動配置、その計画に基づいた仮設住宅の自動設計、さらには仮設部材の自動数量算定から現場への自動調達などの施工支援まで BIM を活用することを目指している。「仮設住宅こそ BIM でやるべきだし、BIM を使って一気通貫でできる環境だと考えました」と、大西氏。

「これが実現できたら、その成果を普通の建築のプロジェクトにも生かせます。人間が設計をするという行為と CAD を高次にミックスしていくのは、本当に難しい課題だと思います。それが仮設住宅の設計で実現するとは思ってもいませんでした」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP