ネクストノーマルのテック リーダーシップ:プラカシュ・コタが語る職場復帰
オートデスクのCIO (最高情報責任者)、プラカシュ・コタは世界各地にある21のオフィスで 1,000名を超える社員を統率している。ここ4カ月、コタと彼のチームは何百名もの顧客やスタッフと話し、新型コロナウイルス感染症がビジネスや職務、生活に及ぼす影響と向き合ってきた。社員がオフィスへ戻る準備が進められる中、デジタル技術と自動化、データの戦略的使用が、いかに「ネクストノーマル」 (次の日常) の形成と進展に役立つのかについて、コタに語ってもらった。
まずは、仕事と職場の変革の話から。我々は現在どのような状況にいて、それは今後数カ月でどのようになると考えているのだろうか?
人々は一夜のうちに新たな働き方へ順応し、リモートワークへ切り替える必要があった。顧客に価値を提供し続けながら、業務を遂行し、同僚と連携する術を見つけ出さねばならなかったのだ。
だがネクストノーマルへの回帰は、それがどのようなものであれ、ずっと時間のかかるプロセスとなるだろう。我々の最優先事項は社員の安全を確保することであり、全社員が必要な業務をリモートワークで遂行できると証明できた。だが社員の多くは、やはりデスク越しに同僚と顔を突き合わせて切磋琢磨したり、コーヒー片手に話をしたりするオフィスを望んでいる。あの世界に戻りたいのだ。
数々の予防措置が必要になるだろうが、人間の素晴らしい点は素早く適応できるところであり、我々もそうしたニューノーマルに適応可能だ。だが、それには時間がかかるだろう。
テクノロジーの観点からはどうだろう? 職場復帰を支援するテクノロジーに関する、あなたの知見は?
クラウドは今後も原動力となるだろう。これは、未だにクラウドに着手していない人々に対する警鐘でもある。クラウドは、ビジネスモデルの視点からは大きな強みとなる。顧客がどこからでもアクセスできるからだ。
クラウドには基盤が必要であり、顧客を念頭に置きながら、基幹ネットワークから接続手段まで、セキュリティを犠牲にはできない。我々は、ネットワークの範囲がセキュリティ境界だという考えからも遠ざかりつつある。とりわけ社内ネットワークに閉じ込められた状態でなく「インターネット上」で行う仕事の量が増えるにつれ、社員のアイデンティティをセキュリティとする状況を目指すようになった。シングルサインオン (SSO) や多要素認証 (MFA) などのテクノロジーにより、弊社の業務の多くで、それが既に実現している。
これは極めて重要な要素だ。我々は世界のどこにいても、インターネットでつながっているのだから。データセンター内のシステムやツールをロックダウンし、自宅とデータ センターの間の距離に応じてネットワーク内でデータをクロールさせると、遅延やパフォーマンス低下が生じてしまう。弊社が採用しているのは「ゼロトラスト」モデルで、システムはネットワーク内外どちらからのアクセスであるかを問わず、ネットワーク上のリソースへアクセスを試みる者全員に認証を求める。このセキュリティレイヤーの追加でデータ漏洩を防げることが実証された。
IoTはどうか? センサーを有効に使用する方法はないのだろうか?
弊社の人事組織部門は、あらゆるオプションを視野に入れており、事前に特定のオフィス ロケーションへの立ち入り許可を出すアプリを検討中だ。同僚の健康と安全を確保するため、体温測定の自己申告も求めることになるかもしれない。
また、現地法への配慮も必要だ。例えば中国のあるオフィスでは、全社員の半数以上を同時に出勤させてはならない制限がある。半数以上が同時に出勤を希望すると問題となるため、社員が出勤すると決めた際に不安を抱かないよう、その安全と健康、生産性、効率性に役立つテクノロジーのあらゆる選択肢を検討中だ。
企業が世界各地のオフィスの再開を計画する上でオフィス内の人数制限を考えるのは、ソーシャル ディスタンスの観点から見ても当然だ。その際にはオフィスを使う人数を感知し、清掃担当者に伝えられるカメラやシステムを使うべきだ。別の誰かが使用する前に、オフィス消毒の必要がある。
エアコンフィルターの使用も検討が可能だ。定員16名のオフィスを3名で使用するのであれば、フィルターを通過する空気の量や質を向上させる必要はない。だが16名で使用するなら、しっかりと換気を行って、クリーンな空気にしなければならない。また入室時にセンサーで体温を測り、平熱以上の場合は追加テストをパスするまで社員証を使った建物への入館を停止することも考えられる。IoTには大きなチャンスがある。世界の不動産業界や他の業界がその活用に踏み切るかどうかは、今後の状況次第だ。
ここまでの話の多くはセンサーに関するものだが、デジタル技術でどのようにカスタマー エクスペリエンスを理解することができるだろうか?
デジタル コンシューマー分野では、パーソナライズされた体験が求められている。ここで COVID-19 パンデミックから学んだことをいくつか紹介しよう。
1. データを指針とすることが重要
新型コロナウイルス感染症は過去に類を見ない規模の出来事であり、その事態は急速に変化している。今後何が起こるのか、顧客の行動がどのようになるのかを、過去の経験から予測することは不可能だ。この課題への対応のカギは、顧客に関するデータを最大限に活用することになる。オートデスクのチームには、顧客のプライバシーに十分考慮しつつ、企業グループやチャネル、顧客層間のデータ アクセスの壁を打ち破り、最善かつ最適なアクションを明確にして、この困難な環境下でも顧客に価値を提供して欲しいと考えている。
2. つながりとカスタマー エクスペリエンスが重要
顧客のために解決しようとしている問題があるなら、メールの送信や、直接の対話など、どのような接点であれ、つながりとパーソナライズされた体験のために努力を行う必要がある。
弊社のカスタマー サクセス部門はデータとAIのパワーを活用し、パーソナライズされた新人研修および入社研修の体験を設計して、規模に応じた自動化を行えるよう取り組んでいる。
特にヘルプデスクの負担が大きくなっていると聞くが、会話分野でのテクノロジーはどうか?
チャットボットなどのエコシステムは、今後も強い勢いを持つだろう。既に弊社も、こうしたツールをセルフサービスに展開しているが、未導入の企業も、この分野へ飛躍的な投資を行うことが予想される。今やデスク越しに話を聞いてくれたり、質問があるときに手を差し伸べてくれる相手はいないからだ。
チャットボットはデジタル アシスタントのようになりつつある。業務にはサポートが必要だし、通常であれば隣に座っているサポート スペシャリストも、いまや異なる時間帯に業務を行っているかもしれない。セルフサービスで案内するオンデマンド ヘルプやリファレンスが必要となるのはこの分野だ。チャットボットと会話し、質問すれば、大抵の場合に記事やセルフ サービス オプションへのリンクが提供される。特定の担当者と話したり、ヘルプデスクに電話をかけたりする必要もない。情報が十分に提供される限り、人々はチャットボットに違和感を感じなくなっている。
ライセンスの発行も同様だ。組織へ社員を新たに加える場合、これまではチケットを作成して、担当者が認証・有効化するまで待たなくてはならなかった。それには時間がかかる。だが RPAなどの技術を活用すれば、「このプロファイルのユーザーであれば、財務部の方ですね。あなたに必要な申請書類はこちらです」と言われるようになった。ボットは自動でアカウントを準備し、作業負担が多くなり過ぎたり、誰に質問していいのか分からず困ったりすることのないよう、アクティベーションと作業開始の方法を示したメールを送信する。こうした新しいオペレーションと新人研修は、さらに進化を続けるだろう。
これまでは連携ツールに問題があっても、致命的なものとはならなかった。だが、この新たな世界では全員がこうしたツールで連携しているため、それが大きな影響を及ぼすこともある。ツールに問題が生じた場合にCIOとして即座に把握する必要があるため、私は問題を解決可能なチャットボットとつながるモニタリング ツールを使用している。今後は機械学習と AI、ボットの利用が広がり、その重要性も高まると考えている。
意志決定にデータを使用することで変化はあるか? データへのリクエストは増えたのか? 異なる種類の使用事例は?
オフィスへ戻ることに目を向ければ、職場全体の物理的な占有率、アプリケーション使用率、パターン、社員感情を理解することで継続的に満足度を測定できる。収集したデータを用いてさまざまな分析を行い、このプロセスから継続的に学ぶことも可能だ。我々はこうした新しい職場を構築するエキスパートではなく、全ては初めての取り組みだ。だからこそ計画を立て、ベストな直感を働かせることが重要だ。職場に戻った人々も、新たな経験を得ることになる。私たちは学ぶのだ。
だが、どうやって? それは人々を徹底的に検査することによってではない。さまざまなデータ ポイントから大量の情報を得ることにより、クラウドでリアルタイム分析を実行できるようになるだろう。また幹部にガイダンスを提供し、状況を共有することもできる。チーム内にネガティブな感情がある場合、どう手を差し伸べるべきだろうか? うまくいっていないことは何か? それはどのような感情? ポジティブな影響を持つチームから学べることは? 彼らはどう業務を行っているのだろう?
“誰もが外出禁止中に生産性が上がったと口にするが、我々は幾つの点で懸念している。根を詰めすぎていて、燃え尽きることはないだろうか?” —プラカシュ・コタ オートデスクCIO
現在は誰もが同じようにリモートで働き、全員が平等なフィールドにいる。だが全社員の 50%が突如として職場に戻ることになった場合、リモート勤務の社員や職場に戻らないことを選択した社員が、不利な立場に置かれないようにする必要がある。
職場に戻るとなると、それが全社員の20%や30%、50%であっても、対話や関与、生産性のレベルはこれまでとは異なるものとなる。皆が継続的に興味深い話し合いを行い、生産性を維持することができるよう、我々はリアルタイムで学び、導きを行っていく必要がある。つまり、今後もデータは大きな役割を果たすことになるだろう。
外出禁止令の発令以降、何か変わったことは?
誰もが外出禁止中に生産性が上がったと口にするが、我々は幾つの点で懸念している。根を詰めすぎていて、燃え尽きることはないだろうか? このレースは、短距離走でなくマラソンだ。人々は仕事への取り組みに英雄的な努力を見せているし、仕事が気晴らしになることもある。
だが今、我々が自覚すべきなのは、外出できないからといって、コンピューターの前にずっと座っていなければならない訳ではないということだ。疲労困憊してしまわないよう、別の選択肢を見つける必要がある。こうしたことは、データから把握できる。その上で、マネージャーと社員が適切な対話を行うために必要としているコーチングやガイダンスを提供できる。データは、起きている活動のすべてを見て、やるべきことを素早く調整する際に重要な役割を果たしている。
では、リモートワークの社員とオフィス勤務の社員のパフォーマンス評価の比較を行い、リモート組に不利な点があるかどうかを確認することは有益だろうか? その経験から生じうる新たな測定基準とは?
おそらく有益だろう。まずは新しい測定基準が何なのかを見極め、どこで業務を行っても業績を上げることができるよう、皆に均等な機会を提供する必要がある。我々は、リモートで働く人々が不利な立場に置かれることを望んでいない。多くの場合、彼らはリモートで働くことを選択した訳ではなく、その方が効率的だから、我々が彼らに依頼したのだ。そのため、調整方法や業績評価に基づいて、マネージャーを指導する必要がある。
また、分散型で多様なチームを管理するマネージャーのスキルの構築に投資する必要も感じている。ロケーションに関係なく、ベストな仕事ができるようにすること重要だ。これはエコ システムとして我々が継続的に学ぶ必要のあることだ。こうした事態の体験は、誰にもないのだから。どれほど迅速に対処できるかを、素早く学ぶ機会でもある。
事態が収束し始めたら、この数カ月の間に学んだことをどう取り入れ、どうビジネスに組み込めるだろうか? その取り組みをどう継続するのか?
まずは、チームとリーダーシップの間で、より緊密なつながりを作ることだ。先日我々は、 コロナ禍の最中に行ったことで、今後も進めていきたい望ましい出来事について話し合った。たとえば、グローバル チームとはBYOB (各自飲み物を持参する) チャット セッションを設けているが、そこでの話題はプロジェクトや目標ではなく、もっとパーソナルなことだ。人々はストーリーを共有し、ストレスを共有したいのだ。ここでは弱音を吐いてもいい。
そうしたミーティングでは、私も弱みを見せる。私自身のストーリーも共有しており、それが皆を絆で結ぶことになった。お互いに率直な意見を言えるようになり、より多くの時間をグローバル チームと過ごすようになった。私には1,000人分以上のパワーがあるからね、などという話もしている。コロナ禍に始まった、こういった打ち解けた対話をどう続けていくのか? 幹部と打ち解けて話しができることはとても重要であり、職場に戻った後も対話が継続されることを願っている、というのは社員から得られたフィードバックのひとつだ。
次は意志決定だ。決定は現在、非常に迅速に行われている。皆が一丸となり優れた結果をもたらせるようになった今、我々に何ができるのかを探っている状態だ。
同じ状況がコロナ後にも得られればと考えている。この種の決定を全て、大規模な委員会が行う状況には戻りたくない。現状が私たちの企業文化となること、また、こうしたストーリーを積極的に共有することで、それが会社のDNAの一部となり、社の運営手法となることを願っている。リアルタイムのストーリーは非常に重要だ。
我々はまた、顧客とも同様に取り組んでいる。手を差し伸べ、困ったときは手を貸すと伝えている。より高い商品を売って売上を伸ばすことが目標ではないし、それが議論に上ったことすらない。討議される内容といえば、顧客が生産性を保ち、弊社のソフトウェアを活用し、今後も安定したビジネスを行えるようにするために、我々には何ができるのかということだ。
そして、明確に現れてきたのが共感という概念だ。かつてあった壁はすべて消えてなくなり、誰もが互いを支えたいと考えるようになった。今こそ、真のリーダーシップがどういうものなのかが明白になる時なのだ。
[本インタビューは編集されたものです]