ショートインタビュー: ジュリア・カロセッラ氏 (IDC 欧州デジタル トランスフォーメーション プラクティス リード)
対談のテーマ: レジリエントなビジネス成長へと向かう道
オートデスクの依頼で実施された IDC 社の新たな調査によると、デジタル化が進む世界において、企業の成功はデジタル投資で実世界のビジネス成果を生み出せるかどうかにかかっています。
新型コロナウィルス感染症のパンデミックを経験した企業にとって、最優先の課題は成長とレジリエンスです。しかし、「ロックダウン」と「日常への復帰」を繰り返すことが経済活動の常態となった今、「成長とレジリエンス」の成功とは何を意味するのでしょうか?
この「成長とレジリエンス」の成功要因を把握するため、オートデスクは製造、AEC (建築・土木) 業界における戦略的な推進要因と、その基盤となる実現要因を改めて調査することを IDC に依頼しました。この 2 年間で、何がどの程度変化したのでしょうか? このレポ―トでプリンシパル アナリストを務めた IDC 社の欧州デジタル トランスフォーメーション プラクティス リード、ジュリア・カロセッラ氏に見解を伺いました。
オートデスク:IDC 社の概念である K 字型の回復曲線について詳しく教えてください
ジュリア・カロセッラ氏 (以下GC, IDC 社): 1 年以上も続いた予測不可能な変化から私たちが学んだ教訓のひとつは、この変動しやすく、不確実で、複雑で、曖昧なビジネス環境が今後も継続するということです。各企業は回復を目指す道のりを歩んでいますが、いつしか必ず岐路に直面します。IDC は、これを K 字型回復曲線と呼んでいます。
K 字の上向きの岐路では、企業は将来的な成功の基盤を築き、成長を加速させることができます。下向きの岐路では没落の脅威に直面し、生き残りをかけて戦うしかありません。
この K 字型曲線における企業の行く末は、デジタル投資戦略と、それによってビジネス成果をどれだけ達成できるかで決まります。
製造・建設業界は現在、デジタル トランスフォーメーション (DX) ジャーニーのどの段階にあるのでしょうか? 状況を、他の業界と比較すると?
GC: 製造・建設業界は、パンデミックによる事業停止やサプライ チェーンの深刻な不足など、多大な影響を受けています。
建設業は、ロックダウンの解除や、国によるレジリエンス強化や復興計画におけるスマート ビル支援のおかげで、早いペースで成長の回復が進んでいます。より細分化されている製造業は、サプライチェーンのボトルネックにさらされるため、回復のペースは鈍くなっています。
デジタル化は両業界で加速しており、デジタル成熟度が最高レベルの企業の割合は、2019 年時点の 31% から 37% へと上昇しています。これほど急速にデジタル化が進んでいるのは、パンデミックによる変化に対応する必要があったことと、他社との競合におけるニーズが要因でしょう。
レポートでは、将来の成功は「デジタルROI (デジタル投資対効果)」で測定できるとされています。これについて説明いただけますか?
GC: 製造・建設業界における企業のデジタル投資は、過去数年間で大幅に増加しました。2021 年度末の時点で世界中の投資額は 4800 億ドルに達しています。しかし依然として大半の企業が、こうした投資で価値を生み出すことに苦労しています。半数の企業は、決算において 10% 未満の改善にとどまっているか、財務上の影響を定量化できるまでに至っていません。
成功につながるデジタルROI は、デジタル製品・サービスなどの新たな収益源における売上高や、コスト削減や効率化による収支によって測定されます。
企業の CEO はDX の責任を直接的に負う必要があると指摘されていますが、なぜそれほど重要なのでしょうか?
GC: IDC の調査によると、投資対効果の妨げとなっている主な問題点は、テクノロジーそのものより、経営陣のビジョンやサポートの欠如にあります。そうした問題は、プロセス重視の経営手法や、不適切に設定された KPI、サイロ化されたデジタル予算などに顕著に表れています。
企業の CEO は自らデジタルの最前線に立って直接的にDXの責任を負い、経営陣と緊密に連携しながら、それを推進する必要があります。自社が前進していく上でデジタル テクノロジーが果たす戦略的な役割を、経営者自身が本当に理解することで、初めてテクノロジー投資の恩恵を得ることができます。
デジタル ROI を促進する要因は何ですか?
GC: 私たちが特定した、製造・建設業界の企業がデジタル投資によって投資対効果を生み出せる主な分野には、次の 5 つがあります。
デジタル ROI は、どのような方法で測定できますか?
GC: すべての企業は、「デジタル ビジネスで達成したい戦略的目標」と、「それを達成するためのロードマップ」の 2 点の要素に基づき、独自のデジタル ROI 指標を設定する必要があります。
例えば、既存の収益の増加、新たな収益源の創出、顧客満足度の向上、人材の獲得および満足度の向上、イノベーション率/新製品およびサービスのリリース数、ブランドの信頼性の向上、環境のサステナビリティ関連パフォーマンス指標の向上などが挙げられます。
DX の初期段階にある企業は、どこから着手すればよいでしょうか?
GC: 今後の進め方を理解するための最初のステップは、企業の現状をデジタル成熟度の観点から慎重に評価することです。同業他社と比較して評価することで、例えば最終的な目標が見えたり、改善に向けた重要なステップを特定できたりします。
第 2 のステップとして、一夜にしてデジタル企業に変わることはできません。IDC では、直近から長期的な未来までのロードマップを、一連の計画として作成しています。このロードマップ上の各段階はユースケースによって定義され、インテリジェント ビル、拡張されたメンテナンス、建物のパフォーマンス管理などのテクノロジーによって実現します。
製造・建設業界の企業が、デジタル投資によってビジネス成果を得るために行うべきこととは?
GC: ビジネス成果を始点とすることです。そして最も重要なのは、戦略上の優先事項と、それに関連する達成したいビジネス成果を明確にすることです。そうすれば、デジタル イニシアチブにフォーカスでき、優先事項に関連する投資対効果も明確になります。
そしてここで、デジタル イニシアチブの実現要因としてテクノロジーが役割を果たします。ビジネス価値を実現するためには、取り組みをリードするチーム全体のコラボレーションも欠かせません。現在、IT 予算全体の半分以上を事業部門が掌握しています。企業全体のデジタル戦略や課題を踏まえて、個々の目標を検討する必要があります。そのためには企業文化の変革が必要となることが多く、この変革こそ、経営陣が「デジタル ドリーム チーム」として推進すべきことです。