米アーカンソー州ホットスプリングスのガーバン・ウッドランド・ガーデンズに建築される Evans Tree House のデザインに招聘された Modus Studio が目指したのは、人々をより自然につなげる“バイオフィリック デザイン”だった。魅力的なツリーハウスを作ること以上に、このミッションの実現にふさわしいものがあるだろうか? ウォシト山地に接するハミルトン湖沿いの丘陵地帯へ 2018 年に建てられた Evans Tree House は、計画された全 3 棟のうち最初のツリーハウスで、子供たちが自然を楽しめるインタラクティブな教育体験の創成を目的としている。
Modus Studio はデザイン スタジオとアトリエで計 29 名が働く、同州ファイエットビルを拠点とする建築事務所。Modus は自然が建築部材へもたらす作用を理解するため頻繁にテクノロジーを活用し、その検証のためアトリエでプロトタイプを作成している。テクノロジーを最優先するのでなく、個々のプロジェクトで最高のデザインを実現するツールとして使用。チームメンバーの多くは農村地帯で育ち、このエリアの小川や森との強いつながりを持っている。
デザイナーたちは、測量など従来の方法による現場記録に頼るだけでは、Evans Tree House を周辺の森に溶け込ませることはできないと確信していた。そしてレーザー スキャンを使い、木々 1 本ずつ、枝に至るまで正確に取り込んだバーチャル 3D モデルを生成。この詳細なマップを利用することで、ツリーハウスを最も没入感の高い体験を提供できる場所に配置できた。
建築家ジョディ・ヴァーサー氏は「最も開けた場所を選び、設置面積を可能な限り大きくすることは簡単ですが、それでは訪問者を自然へと近づけることはできないと考えました」と話す。また、Modus は「この構造物へ歩み寄るにつれて、木製のひれのような形状の抑揚とリズムが感じられ、通り過ぎる過程で木々が目に入るような、他の木々の近く」にツリーハウスを配置したいと考えたとも付け加える。
ツリーハウスのデザインに際しては、レーザー スキャンが最適なソリューションへとつながった。「デザインから導き出されたツリーハウスの配置場所は、木々に近く、何本かの木で作られたカーブのある場所です」と、ヴァーサー氏。「干渉を防ぐため、用地を 16 ポイントからスキャンし、点群を構築して木々の位置をしっかりと把握し、その木々の間にモデルがうまく収まるようにしました」。このツリーハウスは、地上約 4 m の高さ (建物の最も低い面まで) に、鉄骨構造に支えられた形で立っている。
氏は、このプロジェクトのため Modus は「ウッド スラッグ」という言葉を生み出したと話す。「木製で、ナメクジ (英語で「スラッグ」) のような先細り形状になっています」。この捉えどころのない形状のデザインには、Autodesk Dynamo のカスタム スクリプトの記述、ハンドスケッチ、3D モデルの作成、そしてデザインチーム全体の連携というインタラクティブなプロセスが必要だった。
ヴァーサー氏はまず、最終的に木製のひれのような形となった建物断面の形状を記述する Dynamo のスクリプトを開発。この段階で、形状を向上させるべくチームが連携した。「デザイナーは一部のセクションを印刷し、そこにスケッチを加えては再スキャンを行う作業を行なって、線に変更を加えていきました。その後、私は彼らと一緒に Dynamo のスクリプトへ目を通しました」と、氏は説明する。こうした反復プロセスを経て、用地に合わせた形状が生み出された。
Modus は、デザインのきっかけを樹木学から得ている。ツリーハウスの金属製の仕切り板は、茎から広がる葉脈をもとにデザインされた。「仕切り板の模様にはロジックがあり、ほとんどの人が親しみを感じるでしょう」と、ヴァーサー氏。「葉のように見えるでしょう。遠くから見た姿、そして葉を大きく拡大して見た姿の両方です」。
Modus のアトリエにおいて、デザイン手法に不可欠な存在であり、その指針になっているのが「思考とものづくりは分けるべきではない」という哲学だ。製作は、各プロジェクトに対する最高のデザインの可能性を実現し、それを向上させるプロトタイピングの反復に不可欠な、テクノロジーと同様のツールだと捉えられている。レーザー スキャンと Dynamo を使用したコンピュテーショナル デザイン、アトリエにおけるプロトタイプの製造を組み合わせることでフィードバック ループの反復が生み出される。デザイン&ビルドのコンセプトを融合することで、Modus は 3D でデザインを行い、製作から得られた教訓をデザイン プロセスへ還元。例えば自社のアトリエで、ツリーハウスの金属製仕切り板の穿孔パターンを検証する際には、プラズマ切断機が使用された。
「スケッチのようなものですが、こちらの方が優れています」と、ヴァーサー氏。「アトリエに入り、フルスケールのモックアップを作成すれば、実際に検証を始められます。日光や雨風にさらすことが可能で、クライアントに見せることもできます。3D レンダリングの画像よりもインパクトが大きいのです」。フルサイズのモックアップは、部材が雨や日光にどう反応するかの、リアルタイムでの指標となる。
Coler Mountain Bike Preserve の南門用に別のパビリオンをデザインしていた際、Modus が提案したのはカスタムの重複パターンを使用した鋼製の屋根だったが、まずはその雨天時の性能を検証したいと考えた。「アトリエでブチルテープとプラズマ切断した鋼板 4 枚を使用してモックアップを構築し、それをしばらく雨にさらし、アトリエで水をかけて、水がどう流れ落ちるのかを確認しました」と、ヴァーサー氏。「微調整を行ったのち、細部に変更を加えて、施工会社に変更内容を伝えました」。この事例では製作することにより、機能するものとそうでないものの確かな証拠がもたらされた。
Modus は、その哲学をアーカンソー大学 Adohi Hall (建築事務所 2 社と共同で担当) などのプロジェクトに応用してきた。「クライアントと頻繁にワークショップを行い、ミーティングの予定を立てて全員で同じ仕切り板を眺めて、それを重ねてまとまりを保つにはどうすべきかを話し合いました」とヴァーサー氏。それぞれの責任分担はあるにせよ、多くの決定に緊密な連携が必要だった。そのため、3D モデリングとリアルタイム レンダリングを使用し、プロジェクト全体に照らし合わせて、常に問題の見える化が行われた。
また、Modus はアーカンソー州ベントンビルの写真ベースのオフィスプロジェクトにも取り組み、形態と機能の相互作用を生み出した。「ファサードのコンセプトは、シャッターの開口部からヒントを得ました。分岐点と平面を折り重ねることで、建物正面部分の変化を生み出しています」と話すヴァーサー氏は、この変化が建物の空間のシーケンスと推移を生み出していると付け加える。
3D の世界は現実世界とは異なるが、Modus は両方の世界に片足ずつ踏み入れながらデザインを行っている。定期的にアトリエとスタジオを一般公開し、講演やワークショップ、プロによるコラボレーションを開催して、同社のビジョンをコミュニティとも共有。デジタルトランスフォーメーションによる独自の反復プロセスがバーチャルと現実の架け橋となり、立地の可能性を最大限に発揮するデザイン ソリューションを生み出している。
タズ・カトリは LEED 認定を受けた建築士。自身の Blooming Rock ブログやその他の刊行物で建築に関する著述も行っています。
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