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ハイブリッド製造に向けた社員のスキルアップを実現する6つの方法

CNCプログラミングなどの高度な製造スキルを持つ労働者へのニーズは増加している
  • DX (デジタルトランスフォーメーション) は仕事の本質を根底から覆す。
  • 組織はバックオフィスから工場まで従業員のスキルアップを図り、デジタルを中核とする適性を備えた人材を採用する必要がある。
  • 競争優位性の維持には、今から将来の労働力を構築しておくことが不可欠。それを達成するには、人間とテクノロジーが融合することで、より大きな価値を生み出せる環境の整備が重要だ。

世界的な成功を収めているアスリートたちには、共通するシンプルな秘訣がある。プレーの最中は、ボールがどこにあるかにとらわれず、次に来る場所がどこかを予測して、そこに到達するために必要なことを行っている。

この秘訣は、現在のデジタルワークプレイスにおいても有効だ。テクノロジーによって現在の役職の職務内容の枠が壊され、新たな役割が必要になっている。ビジネスリーダーが成功を収める、明日起こるかもしれない出来事へ対処できる人材が必要だ。それこそがスキルアップにより獲得すべきことであり、それは変化する状況に適応し、チャンスをアドバンテージに変えることでスコアボードを輝かせることができる、デジタルに精通した機敏なチームとなる。

スキルアップとは?

簡単に言うと、スキルアップとは自らの職場に適用可能な新しいスキルを継続的に追加していくプロセスを指す。新しいことではないが、DXで起きている劇的な変化によって、スキルアップに新たな緊急性がもたらされている。デジタルベースのビジネスモデルは、進化する役割と責任に対応するスキルセットとコンピテンシーを備えた、完全に現代化された労働力を必要とする。このニーズはセクターを問わず、組織とそこに属する社員の成功に不可欠なものだ。

製造におけるスキルアップのメリット

米国の製造業は、スキルアップのため2021年に3兆円規模の投資を計画していた。だがコロナ禍によって多くの計画が棚上げされ、優先順位が変更されることになった。デジタルツールやプラットフォームの導入が必然的に加速した結果、業務慣行の多くが変革の時期を迎えていることが浮き彫りになっている。

過去2年間のデジタル分野におけるスキルアップは、製造業界がこの混乱期にうまく適応し、成功を収めるのに役立った。また、ソフトウェアが「世界を食い荒らす」という神話の払拭にも一役買った。

下の画像をクリックすると、コロナ禍がもたらした、大規模なスキルアップの波から得られた教訓をまとめたインフォグラフィックが確認できる。

digital upskilling

ここで重要な学びを紹介しておこう。

  • 自動化やロボットで排除されるのは、職ではなく、機械的で反復の多い作業だ。2025年までに、自動化だけで1,200万人の新規雇用が創出されると予測されている。
  • だが、その結果として50%の従業員にスキルアップが必要になる。つまり、従業員も雇用主も生涯学習の原則を受け入れなくてはならない。
  • こうした新たなスキルの習得は、人材定着率へプラスに働くと考えられる。被雇用者のうち94%が、自分のキャリアに投資してくれる会社に長く勤めたいと回答している。

スキルアップは企業がパンデミック後の世界へ適応するのにどう役立つか?

10年前にDXという用語が誕生して以来、デジタル技術は職場に破壊的変化をもたらし、新たなスキルの需要を生み出している。パンデミック前に行われたマッキンゼーの調査は、AIと自動化の急速な普及により、2030年までに3億7,500万人近く (世界の労働人口の14%に相当) の労働者が、転職や新たな資格の習得を余儀なくされると推定している。

コロナ禍は、デジタル運用の必要性を美徳へと変えてしまった。リモートによる業務遂行、バーチャルでの連携、顧客ニーズに応えるためのデータや分析への高い依存への急速な飛躍は、製造業界の未来における業務設計図となっている。

未来に備えて労働力のスキルアップを開始する6つの方法

大手企業はスキルアップの重要性を認識し、それを優秀な人材の採用・育成・定着に不可欠な人事上の優先事項という位置付けをし始めている。昨年、Amazonは社内プログラム「Upskilling 2025」に1,400億円以上を投入。スキルアップが顧客により良いサービスを提供するのに役立つと同時に、創出される仕事に必要な特定のスキルや適性の特定にも役立つことを、経営陣が認識するようになっている。

では製造業界は、どうすればデジタルに精通した人材を育成できるだろうか? ここでは、インダストリー4.0の課題に対応するため、自社の再教育とスキルアップを図るための6つの原則を紹介しよう。

コミュニケーション力、創造性、批判的思考などのソフトスキルは、テクノロジーによって職場が変わることで、ますます有益なものとなる

1. 未来に向けたスキルアップは、人間のスキルに集中する

これは恐らく誰も予想できなかったことだが、職場におけるデジタルの台頭により、人間主体のスキルの需要が高まることになった。チェックリストの項目をこなすような、これまで多くの仕事で定義されていたような作業に代わり、デジタルはEQ (心の知能指数。相手の心を理解する能力) などのソフトスキルを、より価値あるものにする。

世界経済フォーラムによる2020年のジョブ・リセット・サミットで、今後10年間の上級職は、コミュニケーション力、創造性、批判的思考などの特性に大きく依存するであろうことが明らかになった。

将来に備えるため、メーカーは、データドリブンな分析やプランニングのツールの習熟のような高度なスキルとともに、こうしたコンピテンシーのスキルアップを開始する必要がある。

2. 業務遂行におけるオンラインコミュニケーションの重要性を認識する

製造の舞台にデジタル連携プラットフォームが浸透すると、効率と生産性を高めるための社内ベストプラクティスを開発するチームを支援する、非公式なスキルアッププロセスが開始されることになる。

これには実世界でのメリットがある。マッキンゼーのレポートによると、デジタル連携ツールによって、製造の生産現場における問題の特定から解決策にたどり着くまでの時間を劇的に短縮できる。

1兆円規模のメーカーを想定したシナリオにおいて、この種の変化はサービスの向上とコスト削減を通じて、新たな年間収益として最大80億円以上に相当する大きな財務的成果をもたらすと報告されている。

社員に新しいスキルを習得させ新しいデジタルツールを受け入れてもらうには、新しいプロセスのメリットを理解してもらう必要がある

3. 根気強い取り組みの必要性: スキルアップは信頼を要する

どれほどデジタルツールが有益なものであっても、自身のコンフォートゾーンから一歩踏み出し、新しいツールやプロセスを受け入れるよう社員を納得させるのには時間がかかる。キャップジェミニのレポートでは、技術導入の欠如が深刻な懸念であると語る、あるCFOの次のような言葉が引用されている。「テクノロジーに莫大なコストをかけたにもかかわらず、いまだに昔のやり方で仕事をしている人がいるのです」。

新たなデジタルによる業務をチームや部署に定着させるには、さまざまなレベルで人々の心をつかむ必要がある。社員が会社のデジタルの未来に関するビジョンを共有していれば、その実現に向かって前進することに抵抗を感じる可能性は低くなる。

英国ノーフォークを拠点とするWarren Servicesのウィリアム・ブリッジマン会長は「人々の賛同を得ることは、時には最も難しいです」と述べている。DXに対するチームからの賛同を得るには「そのメリットを示す必要があります」。

 

4. 変革を革命と混同しないこと

社員にスキルアップの目的を示し、そこに至るまでのプロセスに参加させることも重要だ。変化のペースは管理された、漸進的なものでなければならず、人材を引き抜いたり、入れ替えたりすることでは実現できない。

SDEテクノロジーでチーフコマーシャルオフィサーを務めるクリス・グリノー氏は、スキルアップは段階的なプロセスだと話す。「プロセス全体にわたって、確実に社員へ支援を提供する必要があります」。

グリノー氏は、まずは現在のプロセスをマップ化し、例えば自動化によって紙をスプレッドシートやデジタルファイルで置換可能な場所を各チームで確認させることを提案している。

キャップジェミニのレポートには「グループの集産的創意工夫」を活用せよと記されている。スキルアッププログラムの展開に応じて、社員もまた知見をもたらすフィードバックの源となり得る。

スキルアップは一朝一夕に実現するものではない。段階的な導入プロセスに社員を関与させるべきだ

5. 新入社員にリードさせる

製造業のあり方を変える構造的転換に、増大するミレニアル世代の台頭も挙げられる。ピュー研究所が発表した数字によると、現在、この層が米国の労働人口の中で最も大きな割合を占めている。

デジタルファーストの元祖ともいえるこの世代と、そのすぐ後に続くZ世代は、実践的なリーダーシップを発揮できる独自の立場にある。両世代は現在の社員と連携してデジタルワークの実用的な利点を示すことができる、デジタル・アンバサダーの集団となる。

「若い世代は、古い世代よりも自在にテクノロジーを操り、新鮮な目で物事を見ることができます」と話すブリッジマン会長は、若い社員は年配の社員には思いつかないような質問をする傾向があると付け加えている。

6. 実習制度への新たな取り組みを活用する

スキルアップで重要なのは、DXを支えるスキルと行動を構築することだ。それが生み出す、デジタルに長けた社員への要望が高まっており、その需要は素質のある候補者の供給を上回り始めている。そこで価値をもたらすのが実習制度だ。

技術職の実習制度は確立されているが、より広範なデジタル人材の育成への実習制度の活用は新しい試みだ。

英国では政府指令のApprenticeship Levy (職業実習賦課金制度) により、年間給与総額が約4.6億円以上の企業には、その0.5%を実習制度に充てることが義務付けられている。この制度は実習生の増加に大きく貢献している。

また実習生の定義も緩和されている。英文科出身者はビジネスアナリストの実習を受け、また理工科系出身者はサイバーセキュリティ職向けの訓練を受けることができる。

製造のデジタルの未来を決めるのは「技術」ではなく「人」だ

製造は変わりつつある。だからこそ、工場を維持するために、その役割も変わらなければならない。

デジタル技術を活用できるようスキルアップし、製品設計から工場の操業、計画、調達に至るあらゆる業務を改善する方法を理解することは、業務がさらに高度化し、個人的にやりがいのある未来に、あらゆるレベルの社員が備えることに役立つ。

本記事は、2020年10月に掲載された原稿をアップデートしたものです。

著者プロフィール

マーク・ドゥ・ウルフはテクノロジーのストーリーを得意とするフリーランスライターで、コピーライターとしてアワードを獲得しています。ロンドン生まれで、チューリッヒを拠点としています。コンタクトはmarkdewolf.comまで。

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