Viessmannのスマートファクトリーがヒートポンプ導入の拡大を後押し
- ヒートポンプ式機器の市場は活況を呈しており、世界中のヒートポンプメーカーが自動化された生産拠点に投資している。
- Viessmannは、2023年秋にヒートポンプの生産を開始するポーランドの新たなスマート工場で、デジタル技術を駆使して製造工程を最適化する。
- Viessmannのスマート工場プロジェクトのデジタルプランニングは、将来の生産施設建設の青写真となるだろう。
近年、ヒートポンプ式機器の売上が急増している。それを「ヒートポンプの10年」と呼ぶドイツの経済紙Handelsblattは、ヒートポンプ式機器メーカーを再生可能エネルギーへの転換におけるチャンピオンだと評している。
この技術のブーム到来は、以前から予測されていたものだ。2021年にドイツで設置されたヒートポンプは15万4,000台だったが、わずか1年後には23万6,000台まで上昇。米国の成長率はドイツほどではないものの、その販売台数は2022年には初めて400万台を超え、ガス式を上回った。そこに遅れをとっている英国が、2028年までに年間60万台のヒートポンプ式機器を設置するという政府目標を達成するには、さらなる努力が必要だ。
ヒートポンプの普及を目的とするドイツの団体Bundesverband Wärmepumpe e.V.は、2024年以降はドイツで毎年50万台のヒートポンプ式機器が設置され、使用されるヒートポンプ式機器の総数は2030年までに140万台から600万台まで増加すると予測している。
ドイツ中部の町アレンドルフに本社を構える米国資本の空調メーカーViessmannは、環境に配慮した暖房技術に今後3年で10億ユーロ (1,500億円以上) を投資する。その1/5に相当する2億ユーロは、国境を80kmほど超えたポーランドの都市レグニツァに建設される、5万平米の新たな生産拠点に費やされる予定だ。Viessmannはヨーロッパの地政学的自立を支援し、気候変動や化石燃料依存との闘いにおいて重要な役割を果たす腹づもりだ。ウクライナで戦争が始まる前の2022年5月、同社はヒートポンプ式機器の需要が41%増加し、2021年は過去最高の売上を記録したと報告している。
現在の政治情勢と、ロシアのガス供給からの脱却を計るドイツ政府の取り組みによって、売上はさらに増大するだろう。Viessmannは生産能力の大幅な拡大でヒートポンプ式機器の需要増に備えており、昨年は当該事業の従業員数も倍増させた。
レグニツァでの生産は、最初の計画策定から2年を待たず、2022年夏の起工からわずか1年強で開始される予定だ。Viessmannでかつてデジタルファクトリーエキスパートを務めたノルベルト・シュミット氏は「デジタル計画なしには実現不可能だったでしょう」と話す。2021年に定年退職したシュミット氏は、現在も同社のインダストリアルエンジニアリングに関するアドバイスを行い、長年にわたる経験を伝承している。
デジタル工場計画が生産を加速
ポーランド工場のコンセプトデザインは2021年9月にスタートし、1年後には詳細設計のフェーズに突入した。「その後、建物の各セクションで行う具体的な作業を詳述しました」と、シュミット氏。
建設のタスクは全て、クラウドベースのAutodesk BIM 360を活用して包括的な3Dプランニングモデルへと統合される。信頼できる唯一の情報源 (SSOT) が存在することで連携が向上し、関係者全員が最新の計画にアクセス可能だ。Viessmannが工場の第一責任者を、またBilfinger Tebodinポーランド支社がゼネラルプランナーを務め、BIM (ビルディングインフォメーションモデリング) の調整・管理はドイツ西部の都市アーヘンを拠点とするエンジニアリングオフィスE3D-Ingenieureに委任されている。シュミット氏は責任を分担し、BIMのタスクを「各分野の責任で行うものとは別に実行できる」ようにしていると話す。
建設現場での作業を円滑に進めるためにモデルを確認し、重大な干渉を検出するツールにはAutodesk Navisworksを使用。「従来の建設プロジェクトでは、何が問題で、それをどう解決できるのかを知るために、何度もやり取りが必要でした」と、シュミット氏。「現在はそうした事態を現場での作業が始まる前に減らし、場合によってはそれを回避することさえ可能になりました」。
一部の機械設備は工事の最終段階で設置され、建設工事が完了した後はヒートポンプ式機器の生産を即座に開始できる。関係企業の全てが常に最新の図面にアクセスできるため、Schnepf Planungsgruppe Energietechnik (MEP設備を提供) やJungheinrich (ハイベイラックとコンベア技術を提供) などのプロジェクトパートナーは、計画の初期段階にコンポーネントや生産設備のプリファブリケーションに着手することが可能だ。
未来の工場のための設計図
Viessmannレグニツァ工場のデジタル工場計画は、それがかつてないレベルで包括的に使用されたものであり、今後の工場建設の青写真や、複数のデジタル技術を適用したフラッグシッププロジェクトとなり得ると、シュミット氏は話す。そして、Viessmannのテクノロジー活用はBIMにとどまらない。建築計画にはAutodesk RevitとAutoCADの両方が活用され、またコミッショニングでは生産、組立、ロジスティクスにおけるプロセスの自動化・改善にテクノロジーが使われている。
モジュール生産は柔軟性をもたらし、また、高度な自動化は増産を可能にする。ドイツ北部の都市ハンブルクに拠点を置くUnity AGはAutodesk Inventorを使い、建設後に実行されるすべての工場工程を計画している。
またサステナビリティ目標を達成し、工場をカーボンニュートラルにする上でデジタルツインが重要な役割を担っている。この包括的なデジタルモデルは、建物の特性を利用して事前に工場の総消費量と排出量を計算。「ポーランドの法律では、これらの数値は竣工前に算出する必要があると定められています」とシュミット氏は話す。
社内におけるデジタルでの知識の移転
建設はデジタルツールの普及と受容に重要な役割を果たすと、シュミット氏は話す。デジタルツールがもたらす可能性の豊富な経験を持つシュミット氏は、工場建設がようやくデジタル化され始めたことを歓迎している。
「AR、MR、VRは先見的なツールです」と、シュミット氏。「3Dビジュアライゼーションやレーザースキャニングも同様です」。加えてシュミット氏は、プロジェクトの成功はViessmannスタッフの「コミットメントと熱意」によるものだと話す。生産設備の建設にデジタルモデリングを、製造ニーズにはデジタル工場計画を活用することで、シームレスな連携を実現。シュミット氏は、レグニツァの新工場は統合工場計画という点で模範的なプロジェクトであり、建築と製造のコンバージェンス (融合) が実際に起きていることを証明するものだと話す。
デジタルツインを生かし続ける
デジタル計画は、工場の生産が開始すれば終わりではない。Viessmannは工場モデルをデジタルツインに変換し、コンピュータ支援による設備管理に活用することで効率的な修理を実現する計画だ。こうしたデータがあればマシンの故障を早期に察知し、予防策を講じることさえ可能となる。シュミット氏は「情報をデジタルツインへ継続的に追加して最新の状態を保つことで、工場の運用期間全体を通してそのメリットを得ることができます」と述べている。