Skip to main content

⽇建設計がW350計画への参画で⾒据える都市と⽊造建築の未来

W350計画 [画像提供:住友林業・日建設計]
  • W350計画: ⽊材利⽤に向けた技術開発のロードマップ
  • ⽊造建築が都市にもたらすメリット
  • 真のサステナビリティに向けて

創業350周年を迎える2041年に、⾼さ350mの⽊造超⾼層建築物を実現。住友林業が2018年に発表した「W350計画」は、都市の環境にポジティブな影響を与える壮⼤な構想であり、その建築・構造設計を担当する⽇建設計にとっても意欲的なチャレンジとなる。

1900年に創業した⽇建設計は、国内最⼤⼿の組織系建築設計事務所として、建築設計を軸に、都市・地域計画・都市再開発事業計画などの事業を展開。⼤規模な開発を含め、さまざまなプロジェクトを同時並⾏で⼿掛けることも多い同社は、設計に加えて構造、設備などエンジニアリングに関連する部署を社内に持つこともあり、サステナビリティにも積極的な取り組みを⾏ってきた。

同社設計部⾨ダイレクターの⻘柳 創⽒は、東京⽊材問屋協同組合の100周年記念事業のひとつとして、⽊材流通の中⼼地である新⽊場に2009年に完成した述べ⾯積7,500平⽶に及ぶ⽊材会館が、設計を⼿掛けた⽇建設計にとっても⼤規模な⽊造建築の重要なマイルストーンになったと述べる。

木材会館 [写真:野田東徳/雁光舎]

木材会館 [写真:野田東徳/雁光舎]

「⽊材会館のプロジェクトは、当時はまだ珍しかった都市部で⽊材を⾒える形で使う試みでした。実現に向けては法的、技術的に様々な⼯夫を凝らしており、その後の⽇建設計の⽊造・⽊質の設計の展開にとってもパイオニア的な取り組みであり、⾮常に意味のあるプロジェクトでした」。

W350計画: ⽊材利⽤に向けた技術開発のロードマップ

W350計画 日建設計
W350計画 [画像提供:住友林業・日建設計]

住友林業のW350計画は、「⽊の価値を⾼める技術において世界⼀の存在を⽬指す」という同社のビジョンを具現化する研究開発構想として策定されたもので、⽊材会館など数多くの⽊造・⽊質系プロジェクトを⼿掛けた実績・知⾒を持つ⽇建設計との共同プロジェクトとなった。

国⼟⾯積の2/3を森林が占める⽇本は世界有数の森林国であり、その4割以上を占めるスギ、ヒノキなどの⼈⼯林を中⼼に、戦後に⾏われた造林などから⽣み出される森林資源は増加の⼀途を辿っている。林野庁による⽊材利⽤推進の取り組みなどにより、2002 年度には18.2%にまで落ち込んだ⾃給率も4割超にまで回復してきているが、広⼤な⼈⼯林が既に伐採時期を迎えている現在、その有効活⽤と循環利⽤に向けた計画的な再造成が急務となっている。

「現在の環境において、⽊造を⾮住宅にも持ち込むということが、かなり差し迫った課題になっています」と語る⻘柳⽒は、W350計画が掲げる350mの⽊造超⾼層建築という⾼い⽬標は、⾃動⾞開発におけるF1の存在と同様、⽊のメーカーである住友林業と設計事務所である⽇建設計が、今後住宅以外で⽊材を使うことの知⾒や技術を蓄えるための、技術開発のロードマップを作るプロジェクトなのだと語る。

⽊造建築が都市にもたらすメリット

2041年の実現を⽬指し、現在は住友林業が材料に関する開発を、⽇建設計が設計事務所として超⾼層建築を⽊造で実現するにあたっての法的・技術的な課題に対する設計上の⼯夫などの検討を継続的に進めており、また2社間での研究も⾏われている。その多くが現時点ではまだ⾮公開だが、既に発表の近い成果も得られているという。

⽊造を都市部に持ち込むことは、⽊材の活⽤を推進することに留まらず、建築の可能性を広げることになる、と⻘柳⽒は⾔う。「燃えやすい材料である⽊材を密集した都市部で使うことには、解決すべき問題も多くあります。その⼀⽅で、⽊材は鉄⾻やコンクリートと⽐較して⾮常に軽い材料であるため、その特性がメリットに転じる可能性もあります。例えば、地盤によって建物全体の荷重に条件がある場合も、より軽量な⽊造にすることで、鉄⾻造よりも⾼い建物を建てられることになれば、それは事業者にとってメリットになります」。

「技術的な側⾯での現時点での課題は、⽊材を使って350mの建物を建てるときに、建物の接合部がどうあるべきか、という点です。⽊材には軽いというメリットがある⼀⽅で、材料として柔らかいという側⾯もあって、350mの建物の荷重が接合部にどういう影響を与えるかというのが、読み切れない部分があります。⽊材では接合部でめり込みが⽣じるので、接合部は鋼材とのハイブリッドにすることが必要になってくると考えています」。

こうした規模の⾼層ビルの構造という側⾯では、⽇本においては地震よりも⾵の影響の⽅が⽀配的になってくるという。「台⾵などの突発的な⾵が吹くと、建物が地盤⾯から引き抜かれる⼒が作⽤します。⽊の材料特性として、圧縮⼒に耐える⼒は強いのですが、引っ張り⼒にはもろいという特徴があります。それに対しては鉄⾻を合わせてハイブリッドにするというのが現状の答えで、地震と⾵の両⽅に対し、⽊材では耐えられない部分は鉄⾻で補っていく、適材適所の⽊鋼ハイブリッド構造を提唱しています」。

日建設計 W350計画 外観
W350計画 [画像提供:住友林業・日建設計]

真のサステナビリティに向けて

2018年にW350計画が発表されると、予想を⼤きく超える反響があったという。「この規模の建物がすぐに建つのだと誤解されたケースもあり、また計画されている⽊造の⼤規模建築の中でも規模が⾶び抜けていることに対しても、世界中から⼤きな反響がありました」と、⻘柳⽒は当時を思い起こす。「実際にいろいろな国で、講演会などで話をさせていただいたのですが、そこで勉強になったり驚いたりしたこともありました」。

それは⽊を使うこと、⽊造建築を⾏うことに対して、地域や国によって全く背景や考え⽅が違うということを知る機会にもなった。「いちばん驚かされたのは、なぜ多くの⽊を切って環境破壊をしてしまうのか、というネガティブな反応があったことです。⽇本で⽊を切ることが必要な理由を説明することで理解は得られましたが、国によって状況が違うということは、お互いに勉強になったと思います」。

⽊材資源の活⽤は、新たな循環を⽣み出すことになる。「適正な時期に⼭から⽊を伐採することは、CO2の吸収という側⾯でも意義があります。⽣きている⽊は、若い時の⽅が吸収効率も⾼い。時間が経つと能⼒も衰えていくので、適切な時期に伐採して、次の若い⽊を植えるという循環も必要です」。

日建設計 W350 内装
W350計画 [画像提供:住友林業・日建設計]

⽊材の活⽤は、炭素固定においても重要な意味を持つ。「⼤切なのは、CO2を固定した⽊を⻑く使い続けることです」と、⻘柳⽒。「W350計画では外装の部分で⽊材の接合部の仕⼝の断⾯⽋損を最⼩化するなどし、⽊材が⻑く使えるような⼯夫をしています。経年劣化で役⽬を終えた⽊材は取り外し、少し規模の⼩さい住宅⽤に転⽤したり、そこからさらに家具などに転⽤したりして使い続けられるような⼯夫を考えています。この計画には、⽊材にした⽊を100年、200年と使い続けることが重要だという提案も盛り込まれています」。

⽇建設計は10年単位の⼤規模な開発プロジェクトに関わることも多いが、W350計画は20年後の完成だけでなく、それを100年使い続けることを⽬指す。「120年先の世界を読むことは難しいですし、そのために考えるべきなのは、120年後でも耐えられるような建築のシステムを作ることではないかと考えています」と、⻘柳⽒。「当初は⽇本の⼭と都市という⼆項対⽴で考えていましたが、それが今後変わってくるかもしれない。世の中の動向や需要がどのように変化しても耐えられるようなシステムを作ることが⼤切だと思いますし、このプロジェクトがそうしたことを考えるきっかけになればと思っています」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP