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地域特有の気候と文化、データを統合するWarren and Mahoneyのサステナブル建築

マス ティンバーとコンクリートを使用するハイブリッド建築プロジェクト、ニュージーランド・ダニーデンのHe Toki Kai Te Rika Otago Polytechnic Trades Training Centreのレンダリング画像
マス ティンバーとコンクリートによるハイブリッドな建築プロジェクト、ニュージーランド・ダニーデンのHe Toki Kai Te Rika Otago職業訓練センターのレンダリング画像 [提供: Warren and Mahoney]
  • ニュージーランドでは電力の80%が再生可能エネルギーで生成されるが、地理的条件により多くの資材を長距離輸送する必要がある。
  • 建築事務所Warren and Mahoneyは2030年までに気候変動対策とネットゼロ目標を達成すべくパッシブデザイン、マス ティンバーなど気候変動に配慮した取り組みを採り入れている。
  • 同社はストーリーテリングや形式的表現を通じて持続可能性の成果を上げ、先住民族マオリ族の人々と場所を結びつける知識も活用している。

ニュージーランドの建築事務所Warren and Mahoneyは、デジタルデザイン ツールを活用することで2030年までに自社の全プロジェクトをネットゼロとし、エンボディドカーボンを従来の建設方法による同等の建物比較で40%削減するという、野心的なサステナビリティ目標を掲げている

だが、ネットゼロは技術の選択やデジタルモデルだけでは達成できない。同社でサステナビリティを統括するフィオナ・ショート氏は「我々よりも気候や気候と人間の関係に敏感な人々から学び、テクノロジーを活用して、データに基づき、気候に反応する建築物を生み出す必要があります」と話す。「これは先進技術による測定とモデリングを、その地域の気候や材料に関する深い理解と組み合わせることを意味しています。最良のデザインレスポンスは、その場所に特有のものです。ゼロカーボン建築には場所に対する深い考察が反映されるようになっており、それを私はゼロカーボン ヴァナキュラーだと考えています」。

近代以前の文化や先住民の文化は、大量の二酸化炭素排出を伴うエネルギーを用いずに建設を行う、エコロジカルなヴァナキュラー デザインを世界各地で熟知していた。そうした知識は、その子孫と築き上げられた伝統によって現在も維持されており、同様の技術や彼らの生態学的世界観の要素を取り入れることが気候変動の拡大緩和に役立つ可能性がある。エジプトで開催されたCOP27気候変動会議で開発途上国の指導者たちが、二酸化炭素の排出により貧しい国々に何十億ドルもの費用と何千人もの犠牲を払わせてきた富裕国の責任を非難したことで、これは新たな意味を帯びることとなった。

ニュージーランドのマオリは、意識的に生態系の一部として生きるための知識を発達させてきた。Warren and Mahoneyは、持続可能性、形式的表現、生態系のバランスに関する先住民の知識に注目し、そこからストーリーテリングや形式的表現を通じて環境的な成果を向上させ、人々と場所を結びつけることを学んでいる。ショート氏は、すべてのプロジェクトに2つの重要な質問を投げかける。「このプロジェクトのカーボンストーリーは?」そして「人々と場所のストーリーは?」と。

プロジェクトの「カーボンストーリー」とは、すべての炭素排出を指すもので、その原因となっているのは製造、輸送、設置に伴うすべてのコンポーネントや材料に含まれるエンボディド カーボンと、プロジェクトのエネルギー消費によるオペレーショナル カーボンだ。

エンボディド カーボンを推定するため、Warren and MahoneyはAutodesk Revitを使ってデジタル ツインを作成し、One Click LCAで測定を実施する。これにより代替デザインや屋根、外壁、窓、扉などの建築要素による地球温暖化への影響を明確にできる。このデータが、各建物の材料やデザインに特有のカーボンストーリーを物語るのだ。

既存のコンクリート構造物を再利用したCarlton Gore Road
既存のコンクリート構造物をリユースしたThe Domain Collectionの集合住宅Carlton Gore Road [提供: LCO Domain Ltd.]

ニュージーランド・オークランドの高級マンションThe Domain Collectionのプロジェクトでは、コンクリート構造物のリユースによって約1,400tの二酸化炭素排出を回避可能だと予測され、それを理解できたことで、設計チームは自らのデザイン決定が与える影響を議論可能となった。チームは構造物をリユースする決断を下し、ロサンゼルスからニューヨークまで車で2,000回移動するのと同等の二酸化炭素排出量削減とコスト削減を実現した。

「こうした知見が得られるのは素晴らしいことで、即座に脱炭素化の機会が露わになります」と、ショート氏。「設計プロセスの一部にハイテクを応用することで、データに基づいたデザイン決定を、適切なタイミングで下せるようになりました。これにより、より気候変動に配慮したデザイン、ネットゼロカーボンの目標へ近づくことができます」。

ニュージーランドは、グローバルサウスに位置する島国という地理的な特徴により、エンボディドとオペレーショナルの両エネルギーコストにおいて独特の立場にある。国の電力の80%は再生可能エネルギーで生成されているため、例えば米国と比較すると、ビル運用による二酸化炭素排出量はほんのわずかに過ぎない。だが、ほとんどの建材の生産地から遠く離れているため長距離輸送が多く、それに伴って二酸化炭素排出量が多くなる。またニュージーランドで採掘、製錬される種類の鉄 (鉄鉱石でなく砂鉄由来) は製錬に多くのエネルギーが必要で、二酸化炭素排出量も多くなる。

建設中のOtago training center
He Toki Kai Te Rika Otago職業訓練センターの建設の様子 [提供: Warren and Mahoney]

自社のデザインで二酸化炭素排出量を減らすべく、Warren and Mahoneyはこれまで以上にマス ティンバーの活用に取り組むようになった。ショート氏は現在、マス ティンバーとコンクリートによるハイブリッドな建築プロジェクトである、ニュージーランド・ダニーデンのHe Toki Kai Te Rika Otago職業訓練センターに取り組んでいる。地下はコンクリート、その上は全て直交集成板 (CLT) と単板積層材 (LVL) で構成。このマス ティンバー構造には630tトンの二酸化炭素が固定されており、これは植林木1万本の10年分の成長に相当する。

Warren and Mahoneyのサステナブル建築の、もうひとつの戦略がパッシブデザインだ。ショート氏は、これは「単に機械設備に依存するのでなく、建物の形状を利用して快適性とエネルギー効率を向上させる」ことを意味すると話す。建物を気候条件へパッシブに適応させるということは、アクティブなシステムやエネルギー生成戦略を計画する前に、建物の設計や要素の向きを考慮した自然光への曝露や自然換気、サーマルマスの設置、エネルギー需要を削減する断熱材の調整を行うことを意味する。「最良のデザインは、パッシブデザイン戦略と、分析によるハイテクな理解という、実に興味深い組み合わせに行き着きます」と、ショート氏は話す。

デザイナーはローテクなパッシブ デザイン戦略を導入することで、建築様式をその土地の文化や風土へより密接に結びつく形に調整できる。ショート氏にとって、これは環境を守る者としての責任、保護、対話へのコミットメントを指すマオリの概念、「カイティアキ」への傾倒を意味する。

これは、実際にはマナフェヌア (領土権) を有する地元のマオリの人々と連携し、その土地の自然、文化、神聖な歴史を理解し、よりよく対応するということだ。また、気候に対応した伝統建築技術の例も数多くあり、デザイナーはそこから学び、現代の建造環境に応用できる。

「私が気に入っている簡単なを紹介しましょう。古いパー (伝統的なマオリの村) の遺跡に行くと、地面にたくさんの穴が掘られています」と、ショート氏。「これは根菜貯蔵用の地下室と同様、食品を低温保存するために使われていました。マオリは、熱を外へ逃がすために地面の質量を利用していました。上に小さな構造物を設置して日陰を作れば、涼しく保つことができます。この通気と質量を利用して野菜の適温を維持するパッシブ デザインは、人間にとって快適な環境を維持するためのデザイン戦略としても応用できます」。

マオリのマナフェヌア代表と共同設計したHeke Hua Archives New Zealandのレンダリング画像
マオリのマナフェヌア代表と共同設計したHeke Hua Archives New Zealandのレンダリング画像 [提供: Warren and Mahoney]

場所、文化、歴史もデザインの選択に影響を与える。2026年竣工予定のウェリントンのHeke Hua Archives New Zealandプロジェクトの形式的表現は、マオリの世界観を表現するべく、マオリのマナフェヌア代表とデザインエージェンシーTiheiがWarren and Mahoney、DIAと共同でデザインしたものだ。建物には700万枚以上のレコードや国宝 (マオリの人々が「タオンガ」と呼ぶ) が保管される予定だ。

この建物はヨーロッパ人がウェリントン・ハーバーに入植する前にあったピピテア・パー遺跡に位置するため、Warren and Mahoneyは建物のデザインに先住民のストーリーを盛り込むよう配慮した。「あの建物は非常に良好なエンゲージメント プロセスを経たものです。この場所が持つ多くの物語や所蔵の宝物をファサードのデザインで表現し、アーティストと協力して、その物語をファサードのパターンや造形を通して語っています」と、ショート氏。「建物を見れば、そのストーリー、この建物がそこにある理由、所蔵物、この建物の人々にとっての意味を理解できます」。

建物に宝物が保管されるため、熱と湿度に対する環境性能は最優先事項となる。この建物には精巧に調整された躯体と先進的なアクティブシステムが組み合わせて使われており、今後何世代にもわたり所蔵物を保護できる。食品貯蔵用の穴のように、Heke Hua Archivesは露出サーマルマスを利用して安定した環境を保ち、エアコンの使用が減らされている。

ショート氏とWarren and Mahoneyが先住民の建築方法について検討を重ねるにつれて、建物のカーボンストーリーと人々や場所のストーリーは、実際には同じコインの裏表であることがますます明らかになってきた。「気候に対応した設計をすれば、本質的に低炭素の建物が生まれるのです」と、ショート氏。「場所のストーリーが、建物のコンセプト全体、そして人々がどのようにその建物を使用するのか、人々がどのようにその建物と関わるかにインスピレーションを与えられれば理想的です」。