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ウォーターマネジメントのデジタルな未来への潮流

A view of a water treatment facility at sunset
サステナブルなウォーターマネジメントには政策の見直しやインフラへの投資、データ主導プロセスの採用が必要だ

カリフォルニア水戦争をご存知だろうか。この新たなリアリティ番組のタイトルのような争いは実際に100年以上前に起こったもので、ウィリアム・マルホランドが建設したカリフォルニア上水路でオーエンズバレーから直接ロサンゼルスへ引水したことから、州東部が不毛の地となった。この無節操な手口は1974年の名作映画『チャイナタウン』のインスピレーションともなっており、ウォーターマネジメントの必要性に、より強烈な光を当てることになった。地球上で最も重要な水資源を保護・管理するための新たな手法を模索するべく、業界は現在もウォーターマネジメント関連団体、地方自治体、政府に迫る、数々の課題への取り組みを行っている。

日々浪費される水は何十万tという量になっている。気候変動が気象パターンとその過酷さに影響を与え、人口の爆発的増加や汚染の進行、安全な水への不公平なアクセスが起こる中、より持続可能な水資源の管理が急務となっている。

それに必要なものとは、何だろう? 新たな政策、インフラへの投資、データを活用したウォーターマネジメントへのデジタルアプローチなど、行うべきことは多い。だが、持続可能なウォーターマネジメントはマインドセットの問題でもある。業界が規制を設けることはできるが、持続可能な未来を生み出すには大衆からの賛同が必要であり、事態の緊急性が理解されなくてはならない。

The CaliforniaAqueduct snakes through the Central Valley.
不毛の盆地オーエンズバレーからロサンゼルスまで数百kmに及ぶ引水が行われているカリフォルニア上水路

ウォーターマネジメントとは?

ウォーターマネジメントとは、水源から取水した後、導水、浄化して最終利用者へ届け、使用した水を除去、処理し、廃棄またはリサイクルするプロセス、計画、監督、評価を指す。 それには水利権の確保、インフラの整備、水質と水量を管理する政策の策定が伴う。

人類が水を使用する主な目的は、以下の3つだ。る。

1. 農業 (70%)

2. 工業 (19%)

3. 家庭 (11%)

ウォーターマネジメントには次のことが含まれる。

  • 水源から蛇口までの飲料水の供給
  • 安全かつ汚染物質を含まない水質の確保
  • 集水、輸送、浄化に関わるインフラの管理
  • 地域社会からの廃水除去
  • 水源 (湖沼、貯水池、地下水など) から地域社会への導水
  • 雨水管理と洪水調節

水は共有資源だが、米国だけで14万8,000もの水を管理する公共水施設が存在している。その多くの地域で用途によって管理機関が異なる。例えば雨水と飲料水は、別の組織が管理している。US Water Alliance (USWA) は、管理のベストプラクティスについて業界の足並みを揃えるべく、One Waterを創設。このイニシアチブはウォーターマネジメントの総合的なアプローチを採るもので、全米のステークホルダーを連携させるべく、USWAは次の7ステップを計画している。

1. ウォーターマネジメントに関する地域協力を促進

2. 水質向上のために農業と公益事業のパートナーシップを推進

3. 水インフラのための十分な資金を維持

4. 水インフラのニーズに対応するため、公共と民間の専門知識と投資を融合

5. 21世紀のアフォーダビリティを再定義

6. 鉛のリスクを減らし、公衆衛生を守るという使命のへ取り組み

7. 効率性を高め、水道サービスを向上させるための技術採用を加速

このアプローチはニューヨーク (PDF) など大小さまざまな都市が採用し始めており、これによりサイロが解体され、共通の目標を達成して、持続可能な未来を創造するための団結した意見が生み出される。

An overhead view of a water treatment plant at night.
ウォーターマネジメントには取水、浄水、輸送するインフラの監督も含まれる

水インフラとは?

水インフラとは、取水、輸送、処理、利用者への配水、排水の集水と廃棄に使用される設計された環境を指す。飲料水の場合、水源からの導水管や、飲用できるよう浄化するための浄水場も含まれる。廃水では、下水道網とポンプ場により使用済みの水が建物から処理場へと運ばれ、そこで一連の物理的・化学的処理を加えて水から汚染物質を除去し、水域へと放流する。

水インフラには以下が含まれる。

  • 地下埋設管
  • 運河と水路
  • 土手とダム
  • 排水系
  • 貯水池
  • 堤防
  • 集水域
  • 水道本管
  • 廃水処理場、ポンプ場、排水管
  • 雨水管と洪水調節システム

米国の水インフラは、毎日15.8億tもの水をさまざまな目的地へ、さまざまな用途のために運んでいる。だが給水管やプラント、ダム、下水道の多くが20世紀前半に建設されたもので、21世紀の基準に合致するよう更新するための資金注入が懸案事項となっている。

水資源管理が重要な理由

地球が「青い惑星」と呼ばれる理由は、宇宙から見ると容易に理解できる。この自転する惑星の71%は水で占められている。だが一見豊富に見える水は、限られた資源だ。人間が利用できる淡水は供給量のわずか0.5%に過ぎず、その入手がより困難になっている人は何百万人にも及ぶ。

水の需要が増大する一方、その供給は減少している。地球の人口は2050年までに100億人に到達すると予想されているが、既に世界中で安全な飲料水を利用できていない人は20億人、安全な衛生サービスを受けられていない人は36億人に上るのだ。気候変動と人口増加は安全な水を利用できる人とそうでない人の格差を広げ、公衆衛生のリスクを増大させる。

気象パターンの変化により暴風雨の強度が増し、数年にわたる干ばつが発生している。長い間、インフラは財政面で軽視されてきた。そのため多くが耐用年数を迎え、水位上昇の応力で機能不全に陥っている。

政策によって水の供給の保護と維持が可能だ。政府は新しいインフラの建設にインセンティブを与えることができる。また水道局は配水と水質を平等にできる。ウォーターマネジメントはこれらすべてを包含するものだが、世界が変化する中、課題を先取りし、水のレジリエンスを確保する新たな戦略と解決策が必要とされている。

A photo of a water reservoir in a green valley
貯水池は多くの地域にとって重要な水源となっている

水道業界が直面している課題

水道の蛇口をひねるだけできれいな水を即座に利用できる人もいる一方で、最も近い水源まで何kmも移動が必要な人も多い。供給は最も緊急性の高い課題だが、これは水道業界が現在直面している課題のひとつに過ぎない。

給水能力

ウォーターマネジメントにおいて、一番の課題は水不足であり、これは水の需要が供給を上回る場合を指す。認識されていない場合も多いが、水は無限にあるわけではなく、その供給は枯渇しつつある。

未来の姿はこうだ:

  • 現在のペースで消費が続けば、2025年までに世界人口の2/3が水不足に直面する。
  • 2040年までに、子どもの4人に1人が極度の水不足に見舞われる地域に住むことになる。
  • 現在、給水量の70%を農業生産が使用している (PDF P.6)。2050年の世界人口 (100億人に達すると予想されている) をまかなうには50%の農業成長が必要であり、そのために水使用量は15%増加する。
  • 2030年までに水の需要量が供給量を40%上回る可能性がある。

限られた供給量を節約するため政府は厳しい制限を設けているが、現在の管理方法は、より多くの人々に水を供給するには十分ではない。取水、水の輸送、消費、処理において一滴一滴を守る必要がある。

異常気象

水と気候変動は不可分な関係にあり、国連は「気候変動とは水危機です。我々はその影響を洪水の悪化、海面上昇、大氷原の縮小、山火事、干ばつなどを通じて感じています」と報告している。2001年から2018年に発生した自然災害の3/4は水関連だった。カリフォルニアなどの地域では大規模な干ばつと壊滅的な火災が発生し、またヨーロッパは深刻な洪水を経験するようになっている。そのパターンは、予測不可能なこともある。2023年、カリフォルニア州は過去3年間で最も乾燥した冬から、過去70年間で最も雨の多い冬へと変わった。

世界各地の地域社会は、こうした水循環の変化に対応する備えができておらず、食糧生産は中断され、作物は壊滅し、生活と経済は打撃を受ける。地表水の流出の増加により化学物質やゴミが増え、水路が汚染されるようになっている。来るべき事態に備えて、水道業界は変革を開始している。

Floodwaters engulf a neighborhood.
2001年から2018年にかけて発生した自然災害の3/4は水関連だった

老朽化するインフラ

既存の水インフラの多くは、建設当時の工学の粋を集めて構築されたものだ。その広大な水道網が寿命を迎えつつあり、この老朽化が気候変動によって早められている。

  • 米国には350万kmを超える飲料水用給水管がある。現在、2分に1本の割合で水道管が破裂し、利用可能な処理済み水が2,200t以上も失われている。
  • 現在、米国にある16,000もの廃水処理場が最大処理能力の81%で稼働しており、その需要は増大しつつある。
  • 全米に92,000基以上あるダムは平均61年前に建設されたもので、その85%が耐用年数を超過している。

水インフラはその有効期限を超え、頻発する巨大暴風雨で極度のストレスを受けている。2017年、激しい雨に見舞われたオーロビルダムの放水路は水位の急速な上昇により壊滅的な大惨事の危機にさらされ、流域の数千人が避難を余儀なくされた。大規模な機能不全は人命を危険にさらし、何千億円もの損失を出して、水質にも影響を与える。

ミシシッピ州ジャクソンでは、築100年の給水管と110年の浄水施設が長年水漏れに悩まされ、住民は何週間も水を利用できない状態が起きていた。2022年、暴風雨が河川の氾濫を引き起こすと浄水施設が水を処理できなくなり、システムは限界に達した。その結果、ジャクソン住民には水道水の煮沸勧告が出され、市は必要な修繕資金を確保できないままだ。これは、国家規模の問題の一例に過ぎない。

資金調達

資金調達は水道業界にとって長年の課題であり、管理やインフラに十分な資金が投入されていない。分散型の給水システムでは、継ぎ接ぎだらけの給水管やインフラの整備資金を獲得するのは難しい。連邦政府の支出は十分とは言えず、切実に必要な改善や改良の費用は、州と自治体、彼らがサービスを提供する人々に委ねられている。

水質汚染

豪雨による雨水流出で化学物質やゴミ、農業汚染物質、バクテリアなどが拾われ、それが水源へ戻るケースが増えている。ロサンゼルスだけでも、毎日3.8億tの汚染水が雨水管を流れている。世界の開発途上地域では、不十分な管理資源とインフラの欠如が、下水と飲料水の交差汚染につながる可能性がある。安全でない水による健康問題で、毎年何百万もの人が命を落としている。

労働力の不足

他の業界同様、ウォーターマネジメントも労働力不足に直面している。業界に属する170万人の労働者の30%にあたる熟練オペレーターが、今後10年以内に定年を迎える。だが、次の世代はこの業種の仕事には就かず、データやテクノロジーを扱う業界でのキャリアを選択している。

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水道業界の熟練オペレーターが定年を迎える一方で、デジタルネイティブの新世代労働者はデータとテクノロジーを中心としたキャリアを求めている

テクノロジーがウォーターマネジメントを変える3つの方法

水は、その一滴一滴がデータを運んでいる。だが、オペレーターがより良い意思決定を行えるようにするため、この業界にはデータを知見へ変換するソフトウェアとソリューション、クラウドのインフラが必要だ。業界はその歩みを始めており、完全なデジタル トランスフォーメーションの準備は整っている。

水道業界は、以前からデータがもたらすメリットを認識してきた。センサーやSCADA (リモート監視・制御システム) を使用して地下の資源を確認したり、給水管や処理施設の機能を監視したりしてきている。だが、つながるエコシステムがないため、そのテクノロジーは分断されサイロ化したものとなっており、業界は完全なデジタル運用への移行に手間取っている。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行が生じた際には、67%の水道システムで日常業務に支障が生じた。水道業界の従事者同士がつながり、業務を管理するための、より強固なシステムが必要となり、これが変化のきっかけとなった。今、業界はデジタルジャーニーの途中で、デジタルツールを活用して業務を向上させている。水道業界の企業の55%が、テクノロジー活用の主な目的 (PDF P.14) は資産のモニタリングとデータ分析だと回答しており、これはサステナブルなウォーターマネジメントへと進む業界の未来を推進するだろう。

テクノロジーがウォーターマネジメントの手法に変化をもたらし、水のレジリエンスを生み出している3つの手段を紹介しよう。

1. デジタル ツイン

デジタル ツインは製造・建設業界では一般的になった。水道業界もデジタル ツインによって地下システム全体を可視化し、性能を監視する方法を見い出しつつある。 ウォーターマネジメントにおいて、デジタル ツインとはライブデータが脈打つ物理資産 (水インフラのネットワーク) の仮想レプリカだ。SCADA、IoTセンサー、メーターから得られる全情報、さらに給水管がいつ設置されたか、その材質は何かといった情報を収集する。このモデルは、過去のデータとリアルタイムの機能を追跡し、システム機能の予測を提供できる。

圧力の変動や状態の変化をオペレーターに警告するセンサーにより、デジタル ツインは漏れや故障を素早く特定できる。センサーは水槽内の水の容量やpHレベルを明示できる。 顧客は漏水の発生をすぐさま把握でき、サービスの中断を最小限に抑えることができる。オペレーターはそれぞれのモデルに簡単にアクセスし、現在の性能をモニターできる。デジタル ツインはまた、水道システムの継続的な改善を促進し、弱点部分を検出し、致命的な機能不全になる前に問題を解決する。

デジタル ツインはウォーターマネジメントのモダンなソリューションとなりつつある。長年にわたり漏水が水道システムを悩ませてきたジャクソンの例でも、エンジニアは約260㎢に及ぶ市の水道インフラをデジタルマッピングしてライブデータでバーチャルモデルを作成し、流量と圧力を監視し、中断のない水道サービスを提供し、市民15万人のために水質を改善している。

An overhead view of a water treatment plant at nighttime.
リアルタイム機能を追跡し問題を早期に特定することで、デジタル ツインは複雑な水道システムの継続的な改善を促進する

2. クラウドコラボレーション

デジタル化とは、ソフトウェアの購入やシステムのアップグレードにとどまらない。それは、適切なツール、チーム、労働者をつなぐことで、移行を実現し、テクノロジーの価値を解き放つことだ。それには、クラウドベースの環境で作業を行う必要がある。

クラウドの利点はよく知られている。2025年までに、仕事の95%がクラウドで行われるようになるだろう。水道業界は、このオープンなエコシステムの可能性を最大限に引き出すに至ってはいないものの、勢いは増し始めている。給水網は複雑なシステムだ。クラウドは、物も人も全てを一元化し、リアルタイムのコラボレーションを可能にする。有益な全てのデータを含むデジタル ツインがクラウド上に構築され、データは一元管理される。つまり、適切な人が適切なタイミングで、計画、設計、運用、保守に必要な情報を得ることができるようになり、これまでのウォーターマネジメントにおけるサイロを排除する。

クラウド環境を完全に可視化することで、冗長性を排除し、手戻りを減らすことができる。データはクラウド上で相互運用可能なため、より迅速なシミュレーションが可能となり、それが水の運用と管理の改善に大きなアドバンテージとなるだろう。

3. AI

AIはあらゆるところに登場するようになっており、水道業界も例外ではない。技術が発達する前は、水漏れは水が地表に出現して初めて発見されていた。AIを使用することで、システムは故障を事前に予測し、ライフサイクル全体で水のムダを大幅に削減できる。AIと機械学習により、組織は複数のシナリオをシミュレートできるようになる。これは、異常気象に一定の間隔で見舞われるようになった世界にとって画期的なツールとなる。

AIは従来の水資源管理の非効率性を改善できる。例えば農業は世界の水の70%を使用しているが、最大でその60%が浪費されている可能性がある。AIを使用した「スマート農場」は、日照や灌漑データ用センサー、衛星画像、予測を利用して「必要なだけ」散水を行う。

AIがウォーターマネジメントにおいてできることは:

  • 水位を監視し、ピーク水流を予測してキャパシティを調整する。
  • 予知保全に情報を提供し、計画外のダウンタイムや中断を減らす。
  • パターンを特定して過去の傾向を認識することで、リスク評価を継続的に改善し、不具合や中断がいつ起こるかを判断する。
  • 水への化学的処理を必要に応じて最適化する。
  • 機械学習を利用して、資産とインフラの性能を最適化する。
  • エネルギー効率のためにポンプの運転期間を調整する。

AIは将来のウォーターマネジメントにおける強力なツールとなり、保全とサステナビリティの取り組みをサポートするようになるだろう。

ウォーターマネジメントと計画における技術の5つの利点

他業界が猛スピードでDXを経験する一方で、水道業界は伝統的なワークフローから抜け出せずにいる。だが、テクノロジーはウォーターマネジメントに大変革をもたらす可能性があり、データを活用したツールを加えることで、より持続可能な水循環と、より効率的な運用を実現できる。ここでデジタルウォーターのメリットをいくつか紹介しよう。

1. より良い備えのためのシミュレーションとモデリング

水流モデリングにより、エンジニアは水道網の関連情報全てを取り込み、設計段階の新規プロジェクトや既存の配管網をデジタルで作成できる。この作業は従来はスプレッドシートで行われていたが、データが静的で共有しにくく、非効率的だった。水道網を視覚的にモデル化することで、それがさまざまなシナリオに対してどのように反応するかを示すシミュレーション (PDF P.10) が可能となり、脆弱な部分が明らかになるため、エンジニアは機能不全が生じる前にインフラの改善を行うべき箇所とそのタイミングを把握できる。計画や設計の段階でも役立ち、着工前に欠陥を特定できる。これにより、地域社会を洪水や崩壊から救えるレベルの備えが可能となる。

A digital rendering of a water treatment plant.
水道システムのシナリオをシミュレートすることで着工前に欠陥を明らかにすることができる

2. リアルタイムの知見により効率的な運用を実現

デジタル ツインは、水道網の状態や機能に関するデータをリアルタイムで提供するIoTセンサーによって実現する。センサーは、水質、容量、圧力、性能などの要素を追跡できる。 水漏れを検知し、その発生箇所を突き止めるには、これまでは水が地面から漏れ出している場所を目視で特定する必要があった。確認できるまでに一帯は断水し、また何百万tもの水がムダになっていた。リアルタイムデータがあれば、オペレーターは問題を迅速に特定して解決し、性能を最適化できる。

3. 資産の可視性向上

管理されている水循環の大半は、地下にある給水管や貯水槽で起こっている。問題の発見は、多くの場合、水が目的地に到着した (あるいは到着しなかった) ときに起こる。ウォーターマネジメントの専門家は、ライブモデルを使用して各資産の正確な機能を把握し、GIS搭載のセンサーを使用して問題の正確な位置を特定できる。これは、チームが性能の評価基準をより良く理解し、将来の改善計画を立てるのに役立つ。設備の改善を正当化する的確な予算を作成し、データに裏打ちされたシステム改善のための資金を要求できる

4. 既存インフラのサポート

既存の配管、設備、水道システムすべてを最新のデジタル駆動システムに置き換えることは非現実的だ。実際の状況を捉えるには、オペレーターは配管内にカメラを入れることが多い。だが、既存のシステムを利用し、クラウドを活用した水流モデルを作成することができ、運用を最適化するためのリアルタイムデータを提供できる。GISとセンサーを備えたモデルがあれば、オペレーターはシステム全体のレイアウトを参照し、小規模な水路でもデータの収集を開始して、何が起こっているかを把握できる。デジタルレプリカを作成すれば、修理やアップグレードが必要な箇所に優先順位をつけることができる。システム全体にセンサーを設置するには高額なコストがかかるが、適切な場所に設置することで適切な情報を得ることができる。

5. サステナビリティとスマートウォーターマネジメント

水とサステナビリティは本質的に結びついている。水消費から洪水管理、廃水管理まで、持続可能な成果を実現する上で、テクノロジーは大きな影響を与えるだろう。上下水道管理は全米で使用される全エネルギーの2%を占め、毎年4,500万tの温室効果ガスを排出している。デジタルモデルによるスマートウォーターマネジメントは、水の加熱、処理、揚水、輸送に使用される電力を削減するし、さらには必要に応じて電力レベルも最適化することで、より持続可能な水資源管理を実現する。ニュージーランドでは、Wellington Waterがグローバル企業のStantecと連携しているが、StantecはAutodesk Info360 Insightを使用してポンプの性能を追跡し、必要に応じてポンプの運転時間を調整している。このデジタルアプローチにより、電気代は20%節約され、資産の寿命も延びた。

デジタルウォーターマネジメントの実例5

水道業界は、ウォーターマネジメント業務を改善するためDXを加速させつつある。ここで、デジタルウォーターマネジメントと持続可能な水資源管理がもたらすメリットの例を紹介しよう。

1. トレドの水道システムを急ピッチで全面整備

2014年8月、エリー湖に有害な藻類が繁殖し、オハイオ州トレドの住民50万人が数日間にわたり水の使用を中止せざるを得なくなった。築80年の浄水場の処理能力を超え、汚染水を処理しきれなくなったのだ。

市は、エンジニアリング会社Arcadisに対し、既存のインフラをアップグレードし、新たに2つの処理池を建設するよう依頼。Arcadisは既存敷地の3Dスキャンを利用し、システムのデジタルモデルを作成した。複数分野 (建築、空調工学、電気、構造、機械) にわたるリモートチームがすべてクラウド上のBIMモデルで作業を行い、ファイル転送のタイムラグを80%削減することで、設計時間をおよそ1,000時間短縮できた。プロジェクト終了後、Arcadisはトレドの水道運用チームにBIMモデルを引き渡したが、これは持続的なレジリエンスのための問題の早期発見に役立てられる。

2. 古代の交易路からスマート運河まで

1790年に建設されたグラスゴーのフォース・アンド・クライド運河は、かつては往来の多い交易路だった。運河は1960年代までに放棄され、荒廃の一途を辿っていた。こうした水路を管理する政府機関Scottish Canalsが2000年代初頭に水路の活性化を図ったが、気候変動と降雨量の増加により、水路は簡単に氾濫してしまう。

チームはまず、管理手法を最新化することから始めた。運河のデジタル ツインを作成し、センサーを通じてリアルタイムデータにアクセス可能とし、また迫り来る降雨を分析し、ゲートを開閉して運河の貯水容量を調整できるようにした。管理が改善されたことで、今や運河は野生生物の楽園となり、水路にカヤックやパドルボードを浮かべて楽しむ人たちが訪れるレクリエーションの場となっている。

3. ウォーターマネジメントのルネサンス期

イタリアのフィレンツェは歴史と文化に彩られた街だ。だが1966年、この街に壊滅的な洪水と60万tの泥、瓦礫、汚水が押し寄せ、100人の命を奪い、多くの美術品が破壊された。

それから半世紀以上の後、河川工学エンジニアのパオロ・タマニョーネ氏は、Autodesk Infoworks ICMを使用してアルノ川の源流から市街地までをマッピングしたモデルを作成し、氾濫が起こりそうな地域を判定した。彼は上下水道網や市内の建物をモデル化し、さまざまな洪水シナリオにおいて地上と地下で何が起こるかを予測するシミュレーションを行っている。詳細な地図により最も脆弱な地域が明らかとなることで、効果的な緊急対応計画の作成が可能になった。

A scene from Florence, Italy during the 1966 flood of the Arno River.
アルノ川の氾濫によりフィレンツェが水没した1966年の光景

4. デジタルモデルにより迅速な対応が可能に

2018年1月、ミシガン州リボニアでマスターメーターが故障し、複数の水道本管が破損した。当局は水道水の煮沸勧告を発令し、また洪水のため主要幹線道路を閉鎖した。リボニアでは1920年代に約780kmにわたる水道本管が建設されている。ウォーターマネジメント プロセスは紙ベースで、文書はバインダーにまとめられていた。同市は、建築/エンジニアリング/プランニング企業OHM Advisorsに対し、Autodesk InfowaterProを使用してGISベースの水流モデルを作成し、計画的・非計画的な断水を想定した40を超えるシナリオをシミュレーションすることを依頼した。情報は全て、全関係者がアクセスできるインタラクティブなデジタルダッシュボードに保存されている。時代遅れのプロセスを放棄することが、デジタルワークフローに基づく緊急対応計画の策定につながった。

5. ブラジルのオリンピックという挑戦

リオデジャネイロは、2016年のオリンピック招致成功直後、ある大事業に直面していた。雨水と汚水の分離だ。どちらも、1850年代に建設された老朽化した配管網により地域の河川や海に直接放流されていた。グアナバラ湾には、毎秒8,200リットルの汚水が流入していた。エンジニア陣はまず、Autodesk Civil 3Dを使用して手作業で地下の配管網をマッピングした。その後、数世紀にわたり存在する配管網の最新モデルをBIMで作成した。これにより干渉は減少し、1,500万ドルを節約でき、オリンピック出場選手とリオデジャネイロの住民にとってより安全で清潔な環境への道を開いた。

ウォーターマネジメントの未来

ウォーターマネジメントは分散しているが、業界全体が同じ課題に直面している。世界の水需要は2050年までに20-50%増加すると予測されており、枯渇しつつある資源にさらなるストレスが加わることとなる。世界が直面している悲惨な状況がデータによって明らかになるにつれ、集団的な目標を達成し、レジリエンスを有する水道システムと水インフラを確保するために業界全体の協調が余儀なくなりつつある。そしてこれらの解決策には、デジタル化されたウォーターマネジメントの未来が重要だ。

水インフラへの政府投資の増加

新型コロナウィルス感染症によるパンデミックは、政府に水への再投資を促す警鐘となった。水供給は、突如としてインフラや不足の問題を超える、公衆衛生の緊急課題となったのだ。

今のところ、米国ではこの新たな取り組みは順調なスタートを切っている。

  • 米国内務省は西部全域の水インフラ整備に5億8,000万ドルを投じる構えだ。
  • 2021年、超党派によるインフラ投資法により、水インフラとシステムの改善に500億ドルが割り当てられた。
  • 過去数年間で、全米80都市で地元の水資源とインフラに95億ドルが投入された。

インフラへの投資とは、これまでと同じ方法で再建するという意味ではない。水インフラは、レジリエンスのある未来を実現するべく再設計される必要がある。

A dam in action
水インフラは長期的なレジリエンスを持つように設計されるべきだ

カリフォルニア州リッチモンドでは、West County Wastewater (WCW) が処理場のアップデートに取り組んでおり、その過程で二酸化炭素排出量を削減している。同社は、約400kmにわたる下水道パイプライン、17のポンプ場、9.65kmにわたる圧送本管、そして1日1,250万ガロンを処理する水質・資源回収プラントを所有および運用している。

「Clean & Green」と名付けられたこのプロジェクトが完了すれば、プロセスの改善とアップグレードにより、新工場の耐用年数を通じて8,300万ドルが節約でき、温室効果ガスの排出を93%削減できる予定だ。この工場では、埋立地に送られる汚泥ではなく、農業に使用されるクラスAのバイオソリッドが生産される。最終的には、このアップグレードにより、消化汚泥と新しいコジェネレーションシステムからエネルギーを生産し、West County Wastewaterの運用のほぼ100%に電力を供給するようになる予定だ。

WCWシニアプロジェクトマネージャーのキース・レイノルズ・ジュニア氏によると、Clean & Greenプロジェクトは環境と納税者に対する公益事業体のコミットメントを示す意欲的な例だ。このプロジェクトはエネルギー効率のモデルとなるであろうし、またこのプロジェクトにより、WCWが将来の水の専門家を育成するためのインターンシッププログラムの立ち上げが可能となったと、レイノルズ氏は話す。

AIを活用したウォーターマネジメント

水供給への需要が増加し続ける中、ますます多くの水道局が、水循環と資産管理のあらゆる部分を最適化するべくスマートウォーターテクノロジーに注目するようになるだろう。このままのペースで行けば、2030年までにAIへ63億ドルが費やされる勢いだ。AIと機械学習を活用することにより、質を確保し、水漏れやムダを減らし、エネルギー使用を最適化できる。水道業界はテクノロジーを用いないことによる影響を学んだが、潮目は変わった。AIにより、より持続可能かつ効率的な、データ駆動の業界が生み出されるだろう。

たとえば、イングランド東部のAnglian Waterは、スマートウォーター戦略の基盤のひとつとして、ここ数年AIを活用したテクノロジー (PDF P.29) を利用している。自社の処理施設Wing Water Treatment Worksで、Anglian Waterはオートデスクのプラント運用向け製品を使用して資産データのライブフィードから送られてくる何百万ものデータを分析する30のウォーターマネジメントモデルを構築した。これらのモデルは継続的に学習および予測し、システム内で発生する問題に動的に対応するため、運用スタッフはシステム全体のエネルギーと化学物質コストを監視し、最小限に抑えることができる。このプロジェクトにより、同社はすでに15万ポンドの節約に成功している。

A view inside a water treatment plant.
水道局はAIを活用して水質の確保、ムダの最小化、エネルギー使用の最適化を図っている

さらに強力な労働力

ウォーターマネジメント業界がシステムの設計と運用にテクノロジーを採用するようになれば、優秀な人材も集まるようになるだろう。次世代の労働者には、データやテクノロジーを駆使して働くことを望むデジタルネイティブが含まれる。そして、機械やロボットが手作業の多くを引き継ぐようになれば、より良いシステム実現のためのスマート運用を達成するべく現在の労働力をスキルアップさせるためのさらなる機会が生み出されるようになる。

サステナブルなウォーターマネジメントは、世界における最も差し迫った課題のひとつだ。このかけがえのない資源をより良好に管理するために、業界が必要とするソリューションはデータなのだということが証明されるだろう。デジタル化された未来に向けて業界を後押しするという共通の目標を設定することで、今後何世代にもわたり水のレジリエンスを確保する上で誰もがそれぞれの役割を果たすことができる。

著者プロフィール

カロリーナ・ヴェネガス・マルティネス博士は、オートデスクの水業界担当シニア戦略マネージャー。環境工学、水、廃水分野で20年以上の経験を持ち、米国内外のコンサルティング会社、規制機関、学界に勤務してきた。15誌以上のジャーナルで査読者を務め、この分野の業界論文や学術論文を執筆。コロンビアのUniversidad del Norteで土木工学の学士号と衛生工学の専門学位を取得し、スペインのUniversidad de Cantabriaで環境技術の修士号と環境・水理工学・科学 (廃水処理にフォーカス) の博士号を取得している。

Profile Photo of Carolina Venegas Martinez - JP