洪水の前に: テクノロジーで世界の水資源のレジリエンスを高めるには
- 2021年夏にドイツ、ベルギー、中国を襲った大規模な洪水の後処理が続く中、水道事業者が今後の惨事に備えて継続的にシステムを強化することがこれまで以上に重要となっている。
- 「一生に一度」規模の異常気象が数か月に一度起きるのであれば、水資源に関して、これまでのリスク管理手法では十分でないことは明白だ。
- 水道事業者は、災害発生時に現在のインフラをより良好に管理するため、そして将来的によりレジリエンス性の高い設備を構築するため、デジタル化を進める必要がある。
この夏に中国やドイツ、ベルギーで発生した洪水は凄まじい被害をもたらした。その復旧作業は現在も進行中だが、今後の課題も議論されている。自治体は、気候変動により頻度が高まる異常気象に、どう備えればいいのだろうか?
2021年7月、ドイツ・ジーゲン大学のラミア・メッサリ−ベッカー土木工学教授は「ドイチェ・ヴェレ」に、気候変動の影響への適応について、もはや漠然とした議論では不十分なのだと語っている。「今こそエンジニアの出番です。現実的なアイデアと実際のソリューションが必要なのです」。
幸せなことに、世界各地の先進的なエンジニアリング会社や建設会社が、既にこの問題へ取り組んでいる。水資源のレジリエンスと持続可能性を確保するべく、デジタル水管理戦略により公共事業運営を向上させている。
BIM (ビルディング インフォメーション モデリング)とクラウド技術の組み合わせは、ブラジルからボルドーまで幅広い地域で、老朽化した設備の全体的な改修や自治体の水道インフラ管理の向上に貢献している。既存のリソースは最適化され、新しい設備は異常気象や廃水対策の強化を考慮して建設されるようになった。
データの安定した流れ
水、廃棄物、エネルギー管理のグローバル企業、ヴェオリアの一部門であるVeolia Water Technologiesは、今後不可避な事態に備えて開発者が都市を整備する新たな方法に取り組んでいる。デジタル技術やIoT技術、予測分析を応用し、洪水のモデル化、持続可能な排水設計、上水の供給、水資源の最適化など、水のレジリエンス管理を行う技術を構築している。
浄水場、タンク、貯水池、配管の交換には何年も、ときには何十年もかかるが、ヴェオリアのデジタルソリューションは、公共事業体が将来の水道施設を計画する際に、現存するインフラのリスク管理を向上するのに役立っている。
Veolia Water Technologies戦略展開ディレクターのエリス・ル・ヴァイラン氏は「大都市における洪水を考える際に、問題になるのは水道管路の容量です」と話す。「豪雨が続くと、ある時点で水道管路の許容量をオーバーしてしまいます。洪水が起こると、雨水が未処理の下水と混ざって路上に流出することになり、細菌が拡散することで病気や感染症の危険をもたらします」。
「数年前、私は洪水のまっただ中だったコペンハーゲンにいました」と、ル・ヴァイラン氏は続ける。「余剰水を街の外に排出するには、もっと大きな管が必要だと言う人もいれば、100年に一度の出来事なのだからシステムを大幅に見直す必要はないと言う人もいました」。
こうした議論が必要な都市は多いが、現状でも既存インフラの洪水に対するレジリエンスや持続可能性を高められる方法があるのだと、彼女は話す。
「弊社のソリューションにより、例えば天気予報のデータを使用して、大雨が集中する位置を予測できます」と、ル・ヴァイラン氏。「管路のセンサーが、その地域の貯水槽が満杯であったり、あふれそうになったりしていることを知らせてくれます。水道事業者はその情報を利用し、洪水の可能性がある場合は事前に予防措置を取ることができます」。
将来の使用に耐えうる水道管路の構築
Veolia Water Technologiesは水管理用の独自のソリューションを開発している。CADツールとBIMのマネージャーを務めるシフディン・バルコウイ氏によると、同社はBIM 360、Revit、AutoCAD Plant 3D、Navisworks、Recap、 InventorなどのAutodeskソリューションを活用することで3Dモデルの作成と管理にパフォーマンスの優れたBIM技術を使用している。
バルコウイ氏は、建設中にRevitとBIM 360を主要な連携プラットフォームとして使用した例として、パリ地域の大規模プロジェクトを挙げている。プロジェクトの最後にクライアントがデジタルツインを希望したため、Veoliaはツインの作成と建設後のクライアントへのシームレスな引渡しを可能にするopenBIMデータ構造を構築した。
このモデルは保守作業の改善、設備エンジニアの安全性の向上、設備性能に影響を与える運用リスクを最小に抑えるために活用される。
「未だに一部の古い施設で使用されている2Dフォーマットと比べれば大きな進歩です」と、バルコウイ氏。「例えばBIMを使用することで、管路全体を3Dで強調表示し、数クリックでパイプラインの閉鎖がもたらす影響を予測可能となり、意思決定が非常に容易になります」。
BIMを使用して施設の水レジリエンスを高める
VeoliaはまたBIMを使用することにより、水道事業者が今後に備え、気象パターンの変化に対応して持ちこたえられる、新しい飲料水製造プラントや廃水処理プラントの設計も支援している。
「BIMにより、プロジェクト管理やプロジェクトデータのより良好な制御が可能になりました」と、バルコウイ氏。「デザインや材料の選定、組立や施工の管理からクライアントによる最終確認まで、あらゆる段階で活用しています」。
プロジェクトが完了すると、Veoliaは集積された新工場の建設データ、技術データ、形状データ、設計データを収集してデジタルツインを作成。その3Dツインは、現状に応じた日常業務の最適化やリスク管理の向上に使用できる。
Veoliaは水インフラの改修・再生プロジェクトでもBIMを活用し、3Dスキャン技術で既存構造を調査し、改善すべき箇所を正確に特定している。
現インフラのレジリエンスを最大化
イタリアをはじめとする地中海沿岸の国々は、気温上昇により降雨量予測が困難となるため、水管理の準備が必要だ。ヴェオリアのプラント管理ソリューションHubgradeは、灌漑用の処理水量を最大化し、60−70%を農業用に完全再利用できる。これはヨーロッパ最高の比率だ。
このソフトウェアは、ミラノ最大の下水処理場であるノゼド下水処理場 (WWTP) が、日々の処理能力をリアルタイムで最適化するのに役立っている。異常気象に備えてタンクの容量を確保したり、農業に使用可能な再生水の量を増加させたりしている。これによりノゼドの環境フットプリントも削減され、より少ないエネルギーでの運用が可能になると同時に、水質基準を達成するための化学物質の使用量を最適化できる。
「廃水処理プラントの購入は、食洗機や携帯電話のようにはいきません」と、ル・ヴァイラン氏。「時間と大がかりな計画を要しますが、状況の変化は加速を続けています。BIMのような技術で提供可能な大量のデータや情報は、公共事業体が現在直面しているサステナビリティに関する課題への対応に役立っています」。
至るところに水を行き渡らせる
パンデミック到来時、公衆衛生上のアドバイスとして皆の意見が合致したのが、手洗いの重要性だ。シンプルだが効果的なこの手法は、公衆衛生と正しく機能する社会において、水がいかに重要かを痛感させるものだった。
洪水と飲料水システムの汚染の可能性は、ヨーロッパの水道事業が直面している数々の脅威のほんの一部に過ぎない。異常気象や水不足の発生時には、水インフラの管理ツールは問題にうまく対応する必要がある。
水を集め、処理し、貯めて分配するシステムへのレジリエンスと適応力を持たせることには、今すぐ取り組むべきだ。この取り組みには2030年までに200兆円が必要だと予測されている。確かなのは、デジタルが重要な役割を果たすことになるだろうということだ。