ヒートアイランド現象と、その回避のために設計者ができることとは?
- 気候変動によって深刻化する暑さの問題に対処できるように作られた都市はほとんど無い
- 極端な暑さの中でも人々の安全を確保できる建物や公共空間、都市環境を作るよう、建築家や都市設計者へのプレッシャーは高まっている
- 設計者は暑い将来に備え、都市整備のツールとしてパッシブデザイン、水回り、日陰や緑地、微気候解析技術などを利用できる
気候変動が世界中で起こる異常気象に拍車をかけ、地球温暖化が紛れもない現実となっている。昨年は全米だけでも7,000もの記録が塗り替えられる猛暑になった。インドでは4月末に気温が摂氏47度を超え、欧州の熱波は干ばつの拡大と2万人以上の死者を招いている。
こうしたレポートに欠けている重要な側面が、この問題を世界の都市がより複雑にしていることだ。熱を吸収する素材や日陰、緑の不足などにより、都市部は近隣の農村部よりはるかに高温となるような構造となっている。気象学者がヒートアイランドと呼ぶ、この現象の詳細と発生の理由、建築家にできることと、それにテクノロジーがどう役立つのかを探ってみよう。
ヒートアイランド現象とは?
世界の大都市という言葉からは、そびえ立つ鉄鋼の高層ビル、コンクリートの駐車場、歩道でウィンドウショッピングを楽しむ人々などが思い浮かぶだろう。これらは都市のヒートアイランド現象を作り出す要素でもある。
日中はアスファルトなど暗い表面が、明るい部分よりずっと多くの日射を吸収する「熱のスポンジ」の役割を果たす。高いビルは風を遮って、日差しを反射する複数の機会を提供する。蓄えられた熱は夜間に空気中へゆっくりと放出され、そこへ都市部に住む人々が暑い気候を安全に過ごすために必要な、膨大な数のエアコンからの廃熱も加わることになる。
アリゾナ州立大学 (ASU) 准教授のアリアンヌ・ミデル博士は、「これが意味するのは、都市では夜間に必要な冷却が行われていないということです」と語る。ミデル博士は、気候研究グループThe SHaDe Labの一員として、都市の熱に関する研究とシミュレーションを長年にわたって行ってきた。現在は、気候変動によって都市部のヒートアイランド現象が深刻化し、人が住めなくなる可能性のあるフェニックスを中心に研究を行っている。
ASUの 准教授のでフェニックス市の暑熱対策室のディレクターを務めるデビッド・ホンデュラ氏は、「このことに対しては、市の行政でも問題意識が高まっています」と話す。「これまで明確でなかったのは、都市の暑さに関する課題に、誰が責任を持つかということです」。
ホンジュラ氏とチームは、それが手遅れになる前に街の猛暑と闘うという特命を受けている。最近のプロジェクトでは、ASUと共同で「クールペイブメント」と呼ぶパイロットプログラムを実施。反射型のアスファルトコーティングによって、正午以降の時間帯の平均表面温度が従来のアスファルトより10.5-12度低下することを明らかにした。
猛暑対策は、他のどの都市でも真似ることができ、早ければ早いほど良い。都市人口は2050年までに現在の倍以上になると予測されており、世界の10人中7人が都市で暮らすようになると言われている。気候変動で極端な熱波が発生すれば、より多くの地域が危険にさらされることになる。
吉報なのは、都市が解決策を見出すべく、分野横断的な挑戦に立ち上がっているということだ。
2022年9月、アトランティック・カウンシルのエイドリアン・アルシュト-ロックフェラー財団レジリエンス・センターの主催により、世界の都市から暑さ対策の最高責任者たちが初めて集まり、Extreme Heat Resilience Alliance (世界極暑対策連盟) を立ち上げた。このイベントは、同団体が主要12都市における地球温暖化の影響を調査した報告書「Hot Cities, Chilled Economies: Impacts of Extreme Heat on Global Cities」の発表の場でもあった。一部の都市ではマッピングや分析がさらに進んでいるが、冷房インフラ、特にマイクロパークや樹冠の拡張に重点を置いていることは共通している。
デザインによる熱の緩和
ヒートアイランド現象の緩和は、都市の行政だけでなく建築家やデザイナーにも求められるようになっている。そのタスクは、建物物の向きの最適化から、公園の水場を増やしたり、屋根を明るい色に塗装して熱を反射させたりするようなシンプルなことまで、非常に幅広いものだ。
暑さの緩和に重要なのがパッシブデザインだ。例えば建物内の自然換気を促進することで、晴天時のエアコンの使用を最小限に抑え、熱を放出できる。これは建物内に限定されることではなく、建物の間の自然換気を促進することは大きな効果をもたらす。世界有数の規模を誇る設計事務所、日建設計で設計部⾨ダイレクターを務める青柳創氏は、「もともと都市部の環境がベストだと思っている人は少ないと思います」と語る。
日建設計のチームにとって、建物を計画する際には周辺の都市環境への影響を考えることは非常に重要なのだと青柳氏は説明する。例えば、コンクリートよりも熱容量が小さく熱を溜めすぎない木材を外装に用いることで、ヒートアイランド現象を緩和できる可能性もあるとのこと。
「日建設計は大規模な開発にかかわる機会も多い設計事務所であり、東京の中でも複数拠点の計画を同時進行で設計しているため、広い視野での設計ができます」と、青柳氏は述べる。「弊社は東京駅の八重洲口の開発にも関わりましたが、その際には中央のコンコースの屋根を低く抑え、東京湾からの風を陸に届けられるルートを作りました」。
ミデル博士は、都市を設計する際に建築家が考慮すべき最も重要な要素は、日陰を設けることだと考えている。「人がどう暑さを感じるかは、気温の問題だけではありません。人体への熱負荷を測定する方法として、放射温度にも注目する必要があり、これには日陰の有無が大きく影響します。日陰にいれば、日向よりずっと快適に感じるものです。つまり建築家は建物や木、ソーラーキャノピーなどを使い、可能な限り日陰を作るべきなのです」。
そうしない戦略は、リスクの高いものとなる。LEEDのような建築認証やロンドンの熱的快適性ガイドラインなどでも暑さの軽減対策が重要になっており、都市の暑さを考慮しないことは、将来的な改修でのコスト増につながる可能性があるのだ。
短期的には、都市設計が全く無視されることにもなりかねない。ミデル博士は「とても人気のある公園を設計変更し、そこに続く道を作るプロジェクトに関わったことがあります」と述べる。「それにより近隣の住民は公園まで車で行く必要がなくなるので、便利に思えますよね? でも、その道は誰も利用しないと判明しました。市の建築家の期待通りにはならなかったのですが、その理由は計測器で熱の状況を測定することで分かりました。日陰がなく、歩くのも大変な状態だったからです。この問題の解決は、時間と費用がかかるものになりました」。
テクノロジーが果たす役割
ヒートアイランド現象を緩和するプロジェクトのデザインでは、微気候解析技術を推測の排除に役立てることができる。「例えば、どこに木を植えれば暑さに対して最大の効果が得られるかについて、そのシナリオをテクノロジーでサポートできます」と、ミデル博士は言う。「現地で実際に木を植えて、どのような結果になるかを待つ必要はなく、すべてをコンピュータ上でシミュレーションできます」。
建築家や都市デザイナーは、Autodesk Spacemakerのようなツールを使うことで計画や設計の段階でシミュレーションを行い、緩和策を簡単に試すことができる。特定の日時の熱的快適性マップを作成することで、その敷地が異常敷地へどう対応するのかを誰でも確認可能だ。ヒートマップは、駐車場などの屋外スペースが日中最も使用しやすい時間、最も使用しづらい時間を正確に示すよう作成できる。こうした技術を組み合わせることで、都市がより涼しくなるよう、より迅速かつ効率的に開発できる。
「最も重要なのは、今すぐ行動を起こすことです。暑さは誰にとっても無視できない問題です」とホンデュラ氏は言う。「30年後、40年後の都市は、我々が今後5年から10年で下す決断に大きく左右されるからです。樹木や表面反射のような冷却技術を広く普及させることで、地球規模の温暖化が進行しても、将来の都市を現在より涼しくできるという研究もあります。これは非常に心強いことです」。
注: Autodesk Spacemakerの微気候解析は、現時点ではさまざまな地面の種類や建築材料の影響をサポートしておらず、その表面の温度が大気温と同じだと仮定している。