Skip to main content

より持続可能で豊かな世界をサーキュラーエコノミーで生み出す企業

建築でサーキュラーエコノミーを実現する

  • 従来のリニアエコノミー (線形経済) が経済的非効率、生態系破綻への一方通行をもたらすものだったのに対して、サーキュラーエコノミー (循環経済) は材料や製品、サービスをできるだけ長く循環させ、リジェネラティブ農業 (環境再生型農業) や再生可能エネルギーを支援する。
  • 研究結果によると、サーキュラーエコノミーは経済への実質的な悪影響を与えずに、生態系の回復や環境保護などのメリットをもたらす。国際労働機関 (ILO) は、サーキュラーエコノミーの実践により2030年までに世界で7,100万人の雇用が失われる一方で、それを補って余りある7,800万人の雇用が創出されると予測している。
  • 企業は廃棄物を削減する設計を行うことで、この哲学に従うことが可能となる。統計によると、製品のライフサイクルコストの70%が設計段階で決まる。
  • このコンセプトを企業やバイヤーが理解し、材料の再利用とリサイクルインフラへの投資に必要な政治的コンセンサスを構築するのには、文化教育と政策の順位付けの組み合わせが役立つ。

サーキュラーエコノミーとは?

経済の進化は、価値を設計、再定義し、マネタイズする新たな方法を常に探し求めている。だが、この伝統的な線形経済モデルの問題は、経済的非効率と生態系の破綻に直結した道へ繋がってしまうことだ。サーキュラーエコノミーとは持続可能性に焦点を当てた人間の取り組み、行動、経験に対する包括的なアプローチであり、「廃棄物」をゴミではなく資源として処理、再定義、収益化することを目標としている。

これは材料、製品、サービスをできるだけ長く循環させることを目指すもので、廃棄物を経済生産性の本筋からの出口でなく、利益を生む工程のスタート地点と見なす。EPAによると、それはサーキュラーエコノミー戦略が製品の誕生以降できるだけ長く材料をバリューチェーンに残し、材料の採取と製造、輸送、包装を見直し、さらには「便利な」使い捨てという考えを廃することを意味している。

第1回アースデイでリサイクルマークが導入されて53年が経つが、現在の資源管理の仕組みが不十分であることは明白だ。国連によると、現在の非建設的な取り組みを続行すれば2060年までに1,900億トンの材料を採取することになり、これは地球の埋蔵量をはるかに超えるものだ。

蝶形図のアニメーション [Copyright Ellen MacArthur Foundation]

サーキュラーエコノミーの原則

サーキュラーエコノミーとは資源不足、環境破壊、気候変動、経済・社会的公正など今日の最も差し迫った課題に取り組むシステムソリューションの枠組みで 「リデュース、リユース、リサイクル、リカバリー」の4つの要素が軸となっている。家庭から企業、都市や国全体までさまざまな規模の経済があるが、廃棄物や汚染を可能な限り排除し、廃棄物から設計し、製品や材料をできるだけ長期間かつできるだけ高価値で循環させ、自然を再生するプロセス、特に農業や材料採取への投資を中心に再構成する必要がある。

サーキュラリティ (循環性) という概念は、システム思考と社会的公正の構成概念、そして1960年代に急成長した環境保護運動から生まれた。この概念の出現には、1966年に「循環型」生産システムについて書き記した経済学者、教育者、平和活動家、学際的哲学者のケネス・ボールディングなど多くの思想家や経済学者が貢献している。「循環経済」は、1988年の環境経済学者アレン・ニーズの論文「The Economics of Natural Resources (天然資源の経済学) 」で初めて登場した言葉だ。

サーキュラーエコノミー スマートブリッジを渡る人
Autodesk University 2022で披露されたDarとAutodesk Researchによるスマートブリッジは、ジェネレーティブ デザインやアディティブ マニュファクチャリングなど、製造や建設を効率化し材料の使用や環境への影響を低減できる技術を使用して製作された

サーキュラーエコノミーのメリット

サーキュラーエコノミーの概念は高尚かつ急進的な変革に思えるかもしれない。だが初期の研究や小規模な例には、このシステム重視の哲学もたらす利点が示されている。

野生生物と生息環境を回復

サーキュラーアプローチは持続可能な材料の選択、採取、設計に焦点を当てるもので、環境、特にプラスチック汚染による被害を大きく改善する。現在の成長率をもとにしたEPAの試算では、プラスチックだけによる温室効果ガス排出量が2060年までにほぼ倍増すると予測されている。毎年1,400万tを超えるプラスチックが海に流れ込んで海洋生物に害を与え、脆弱な沿岸生態系の生態循環を妨げているのだ。

その改善の一助となるのが、海洋生態系と生物多様性に貢献できるリジェネラティブ養殖 (環境再生型養殖) だ。GreenWaveによる3D養殖方式は、珊瑚礁の垂直構造を模倣し、貝類や海藻など多様な海洋生物にさまざまな生息環境を提供する。このアプローチは食品、肥料、飼料、バイオプラスチックなどに使用される製品のリジェネラティブ養殖にも利用できる。

ビジネスと国の収益、レジリエンス、経済活動を拡大

材料や天然資源の再利用は環境保護の拡大以上の効果をもたらすものであり、大規模な経済調査では、それが企業や国の収益に貢献することが示されている。Sitraの調査では、フィンランドのサーキュラーエコノミー計画により、2030年までに国の経済へ30億ユーロのインパクトを与えると予測されている。また国際労働機関 (ILO) は、サーキュラーエコノミーの実践により2030年までに世界で7,100万件の雇用が失われるが、同時期にそれを補って余りある7,800万件の雇用が創出されると予測している。

サーキュラーエコノミー 企業 ビルディングのデジタルツイン
着工前の建物や製造前の製品のデジタルツインを使用することで不要な廃棄物を削減できる

材料費を削減

既存の製品の再利用は、業界を問わず大幅なコスト削減をもたらす。建築事務所ゲンスラーの調査では、より慎重に既存材料の再利用を行うことで、改修プロジェクトでクライアントは30-50%のコスト削減ができることが判明した。サーキュラーエコノミーに関するゴールドマン・サックスの分析では、大規模な変更により年間およそ1兆ドルの材料費を節約できると試算されている。

気候変動の危機回避を支援

サーキュラーモデルは、輸送や建設など、過剰な二酸化炭素排出の原因となっている経済部門に大きな影響を与えることができる。リジェネラティブ農業に焦点を当て、生物の生息環境と多様性を保護することは、景観のレジリエンスを高めるのに役立ち、気温上昇や変化する気象パターンへの耐性をもたらす。

社会的および経済的公正を向上

従来のリニアな製造モデルの多くは、低材料費や手ぬるい環境規制、低賃金、労働者保護の不在に依存したものだ。より持続可能な生産モデルの構築によって、最貧困層の労働者が低賃金と有害物質による汚染を背負い込む原因となっていた「底辺への競争」生産方式は排除された。マサチューセッツ大学ローウェル校ローウェルセンターによる「Lowell Center Framework for Sustainable Products (持続可能な製品のためのフレームワーク)」は、これらの影響を概説し、サーキュラーエコノミー思考に社会的公正の視点を加えたツールだ。真にサステナブルな製品とは、職場の安全や慣行を考慮し、生活賃金や地域社会への便益を提供する。

サーキュラーエコノミー 企業 完全リサイクル可能な素材で作った家具
Laurence Carrによる展示「A Circularity in Action」には使用後に完全リサイクル可能なTarkettの製品が使用されている [提供: Tarkett]

サーキュラリティを実現するには

大手の多国籍企業から大志を抱いたスタートアップまで、あらゆる企業がサーキュラリティへの転換に着手できる。運用における小さな変化を積み重ねることが、大きな変革への道を開くのに役立つ。

最も重要な変革のひとつが、廃棄物削減のための設計だ。引用されることの多い統計によると、製品のライフサイクルコストの70%は設計段階で決まる。ジェネレーティブデザイン技術やアディティブマニュファクチャリングを用いることで重量や余分な材料を削減し、ひいてはコストや環境負荷も低減できる。企業はまた、既存の材料を低炭素な代替材料に換えたり、製品のライフサイクルをより長く設計したり、購入して廃棄する代わりにレンタルやリースを利用するよう製品体験を再設計したりできる。

データ管理と材料管理の徹底も不要な廃棄物の削減につながる。その重要な例が建設におけるデジタルツインの活用で、これはステークホルダーによる材料費や人件費の正確な評価に役立ち、企業は持続可能なサプライチェーン管理に注力できる。サプライチェーン管理は商品の調達から保管、出荷までのすべてに対処するものだが、サプライチェーンによる二酸化炭素排出量は運用の11倍以上となることが多い。

サーキュラーエコノミー 企業 ミネラルウールの廃材
フィンランドの企業EcoUpはミネラルウールの廃材を新しい原料にする方法で特許を取得している [提供: EcoUp Corporation]

サーキュラリティへの障壁

サーキュラリティの原則を導入する上での障壁は、文化的な規範や政府による支援政策の欠如であることが多い。

サーキュラーエコノミーの概念を普及させ、文化的および社会的規範を変えることへの抵抗を克服するのに役立つ成功事例が、全体的に不足しているのだ。また、消費者向け製品の利便性を低下させることへの反響に対する懸念の広がりもある。企業の包装や使用モデル、所有モデルの変更は克服可能だが、意図的な転換、ユーザー調査、市場調査が必要となる。

この概念がリサイクルと同じくらい普及すれば、変化をもたらすことの価値への誤解を解くことにも役立つ。より標準化が進めば意識改革の加速が進み、企業や消費者にとっても、サーキュラリティとは何か、さまざまな業界にわたり材料のリサイクルや再利用へと大きくシフトするにはどうすれば良いのかが明確となる。

この認識の欠如が、他の問題にも体系的な影響を及ぼすこともある。企業がこうした変化を実現するための、廃棄物処理施設や最新のリサイクル技術などの適切なインフラが自治体では不足していることが多い。またバージン材料を使用するコストは、特に初期においては、リジェネラティブなプロセスの規模を拡張するよりもはるかに低くなることも多い。サーキュラリティの採算性の実現には研究やインフラ整備に多額の初期費用がかかることが多く、企業はそれが変革の障害になり得ると考えている。

サーキュラーエコノミー 企業 アフォーダブル団地
White Arkitekterはサステナブルな建築設計に注力しており、このアフォーダブル団地でデンマーク公営住宅コンペを勝ち取った

サーキュラーエコノミーの例

サーキュラーエコノミーの説明で使われる蝶形図は、さまざまな廃棄物の流れや材料の再利用手段など、体系の転換につながる多くの道筋を示すものだ。サーキュラリティの哲学の導入に成功した企業には、実に多様なタイプが存在する。

カーペットのグローバルブランドDesso (Tarkett製) は「ゆりかごからゆりかごまで」プログラムを制定しており、再利用可能な糸で製品を製造し、買い戻しプログラムを開始することで、材料が捨てられることなく、製造工程へと戻されることを保証している。フィンランド企業のEcoUpは、部分的に建設廃棄物から材料を調達することで、カーボンニュートラルな断熱材を製造。リーバイスのブランドを象徴するダンガリーシャツのリサイクル・修理、パタゴニアが衣料品を生涯にわたって修理するという誓約はブランドへの忠誠心を高め、同時に生地の廃棄を抑制している。カーボンニュートラル認定事業者のInterfaceは、リサイクル素材やバイオ素材により排出する以上の炭素を蓄えることでカーボンネガティブ効果をもたらすカーペットタイルを製造している。

カナダの企業BamCoreは、カスタムファブリケーション、3Dアニメーションモデル、工業化建築を用いて商業施設や住宅の建設の工業化、スピードアップを実現していえる。その核となるイノベーションは、持続可能な方法で収穫された竹を、中空壁構造用木材システムの主要な要素として使用することにある。データ駆動型のデジタル建設とサステナブルな材料の組み合わせは、より多くのプロジェクトをより早く、より少ない材料廃棄で完成できることを意味する。このプレファブリケーションシステムでは現場でARモデルも使用され、建設作業員が最終製品をイメージしながら組み立てることができる。

また、スウェーデンの建設会社White Arkitekterは、サステナビリティとリサイクルに重点を置いた建設会社として他社との差別化を図っている。独自のソフトウェアサービスWhite ReCaptureは、レーザースキャンとBIMデータ管理ツールを使用して既存の建物を評価し、部品や材料の目録を作成して再利用できるものを判断する。これによるコスト削減効果は大きく、最近完成したスウェーデン・ヨーテボリの市庁舎兼文化センターSelma Lagerlöf Centerでは、インテリアデザインの92%にリユース家具や材料を使用することで、約110万ドルの節約を実現。これは新しい材料を使用する場合に比べて、およそ70%のコストダウンとなった。

著者プロフィール

パトリック・シソンはシカゴ在住のデザイン&カルチャー・ライターで、ステファン・サグマイスターをデートに遅らせ、ギル・スコットヘロンへの質問が多すぎて説教された過去を持ちます。彼の原稿は Dwell や Pitchfork、Motherboard、Wax Poetics、Stop Smiling、Chicago Magazine などに掲載されています。

Profile Photo of Patrick Sisson - JP