建造環境におけるエンボディド カーボンと、それを削減する方法とは
- エンボディド カーボンとは?
- AEC業界が温室効果ガス排出量に占める割合
- 政府やAEC企業がエンボディド カーボンの削減に寄与するには
- AEC業界がエンボディド カーボン削減に貢献する5つの方法
- 建造環境でのエンボディド カーボン削減の2つの実例
- AEC業界とエンボディド カーボンの未来
国連によると、2050年までのネットゼロエミッション達成を公約しているのは70カ国以上、1,200社を超える企業に及ぶ。ネットゼロの目的は、気候変動を抑制し、地球と今後の世代を守るため二酸化炭素排出量を削減することにある。気候変動の主な原因は人間の活動による二酸化炭素など温室効果ガスの排出であり、気候変動による生態系への影響を軽減するには、あらゆる産業分野があらゆる観点で対処する必要がある。
エンボディド カーボンとは?
建築、エンジニアリング、建設 (AEC) 業界におけるエンボディド カーボンとは、建物やインフラの建設や改修に際して排出されるGHG (温室効果ガス) 量を指す。建設活動に伴う環境への影響は運用開始前に固定されるため、二酸化炭素換算値 (CO2e) として報告される建設段階で排出されたGHGの総量は「エンボディド カーボン」と呼ばれる。
このエンボディド カーボンには建設に伴うすべての先行作業が含まれ、屋根の葺き替えやテナントスペースの整備、カーペットの張り替え、塗り替えなど、あらゆる改装作業もGHGを排出する作業になる。建物の設備が稼働する段階で、既にカーボン フットプリントは形成されているのだ。
オペレーショナル カーボン
建物の運用中に燃料を燃焼させたエネルギーは、オペレーショナル カーボンという指標に換算できる。これは建物の運用段階、つまり使用中に排出されるGHG排出量のことであり、その年間量は光熱費から計算して報告可能だ。オペレーショナル カーボンは、暖冷房や照明、電力を含む、建物の運用段階に関連する二酸化炭素換算値だ。
エンボディド カーボンとオペレーショナル カーボンの比較
設計者、施工者、運用者、オーナーなどAEC分野のプロフェッショナルの多くが、石油、天然ガス、電気などの燃料消費による運用エネルギーコストの削減の重要性を理解し、取り組みを行っている。現在、建物の使用、管理、維持で発生するCO2eは、世界全体の年間GHG排出量の約28%を占める。
建設活動で発生するCO2eは運用段階の前に蓄積し、エンボディド カーボンとして「固定」されると考えられている。エンボディド カーボンは世界の年間GHG排出量の約11%を占め、これは世界各地で行われている建築活動と建設に起因するものだ。これらは年々大きなカーボン フットプリントとなっており、AEC業界がGHGに対処するための、運用エネルギー以上に大きな機会になっている。
建物のオペレーショナル カーボンの削減には、建築基準法の厳格化、よりエネルギー効率の高い設備や照明、再生可能エネルギーの利用拡大が役立つ。建物のエネルギー効率が上がれば、相対的に建物の総CO2eインパクトに占めるエンボディド カーボンの割合も大きくなる。AEC分野のプロフェッショナルは、設計やリノベーションのプロセスの一端として建造環境での二酸化炭素量に影響を与え、それを削減する能力を有している。Co2e総量におけるエンボディド カーボンの役割の認識は、AEC業界がカーボン フットプリント削減で気候危機の緩和に貢献する方法を特定する上で、重要な鍵となる。
トータルカーボン (二酸化炭素総量)
建築物のエンボディド カーボンと予測されるオペレーショナル カーボンによる影響を測定することは、AEC業界が計画・設計フェーズの建物やその他の建造環境による環境への影響を、建設のずっと前の段階で推定・定量化する手法のひとつとなる。
その利点に、設計上の意思決定に伴うエンボディド カーボンとオペレーショナル カーボンを比較し、十分な情報に基づいて妥協点を見つけられることが挙げられる。例えば新築建造物の設計の際に、窓の種類の違いによる総二酸化炭素量を比較するとしよう。高性能な三重窓と、その取り付けに必要となる、より多くのガラスや他の原材料の使用で増えるエンボディド カーボンをもとに二重窓と三重窓のトレードオフを評価し、長期的な運用エネルギーと二酸化炭素削減効果を比較できる。場合によっては、建物の推定耐用年数での高性能窓によるエネルギー節約が、窓そのもののエンボディド カーボンを相殺できないこともあるだろう。エンボディド カーボン、オペレーショナル カーボン両方の二酸化炭素の影響を設計段階で評価できれば、GHG排出に対する潜在的な寄与を最適化して削減できる。
ホールライフカーボン (耐用年数での二酸化炭素排出量)
ホールライフカーボンは、トータルカーボンの概念を発展させたものだ。これにはエンボディド カーボンに加えて、資産の使用段階における活動 (年間エネルギー消費、メンテナンス、修理)、資産の耐用年数終了段階での改修、解体、建材の回収、再利用、取り壊し活動における年間のGHG排出の影響が含まれる。このライフサイクル全体のアセスメントは環境への全影響が累計されるため「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる。
AEC業界が温室効果ガス排出量に占める割合
建造環境には建物、道路、橋、交通/物流システム (公共施設など) からなる生活、仕事、レクリエーションの場が含まれ、こうした人間が作り出したシステムの日々の運用が地球の生態系に影響を与え、気候変動の原因ともなっている。AEC業界は建造環境の計画、設計、建設、運用に大きな影響力を持っており、特に重要なのは、建築分野が地球温暖化の原因となるGHG排出の最大の要因のひとつである点だ。こうした影響力を持つAEC業界は、より持続可能な手法を採用し、部門横断的な脱炭素化の取り組みを主導して気候変動への影響を緩和する必要がある。
AEC業界がGHG排出に与えている影響を十分に理解するため、まずは建物など建造資産のライフサイクルの段階と、それぞれに関連した活動について検討しておこう。
- 計画・設計: まず建物は目的に沿って計画、設計される必要がある。
- 建設: 建設段階は、アイデアから実現まで、資材調達や建設現場への輸送から組み立てまでを含めた建物の建設を指す。
- 運用: 最も長い段階で、電気を使って行われる日常業務に相当するが、建物はその目的を何十年、場合によっては何世紀にもわたって果たす必要がある。
- 改修: 建物の耐用年数を延ばす。リニューアルや改修を行って運用段階を延長し、最終段階では取り壊す。
温室効果ガスは、主に建物の建設と運用の段階で排出される。一般的には、原材料の採取プロセス (鉄鋼を作るための鉄鉱石の採掘など)、建築材料や製品、システムの製造と輸送、現場での建設活動などの燃料を燃焼させる活動が原因となる。
運用開始後は、GHGは建物の冷暖房の副産物として排出される。これらの建設活動により、亜酸化窒素 (N2O) 、二酸化炭素 (CO2) 、フッ素系ガスなどさまざまなガスが排出され、これらのガスの累積が温室効果を増大させる。その大半はCO2だが、他のガスも地球温暖化係数(異なるガスの気候への影響を測定する一手法) をもとにCO2関連の影響の一部として扱われる。両者の影響の累積が二酸化炭素換算値 (CO2e) となる。
政府やAEC企業がエンボディド カーボン削減に寄与するには
世界の人口は2050年には98億人に達すると予想されており、その成長に合わせて当然ながら住宅、インフラ、サービスなどの建設も増加する。世界の建造物の総床面積は、2060年までに倍増すると予想されている。そうした建設量の増加に伴い、AEC業界に起因する世界のGHG排出量も増加するだろう。
政府の取り組みと規制
気候変動を緩和し、パリ協定で提示された平均気温上昇を摂氏1.5度未満に抑えるという気候目標を達成するには、2040年までに建造環境からのCO2排出をゼロにする必要がある。 これには、全政府とその他のステークホルダーによる国内および国際的な連携での協調努力と、企業の有意義なコミットメントと行動の拡大が必要だ。
世界中の政府がネットゼロエミッションなどの環境目標を掲げており、その責務を果たすべく、AEC分野のプロフェッショナルに建造環境の設計、建設、改修に関連した二酸化炭素の影響に関する行動や報告を求めるプログラムや規制を制定している。
例えばカナダ政府は2050年までのネットゼロエミッション達成に取り組んでいるが、これは政府が所有する不動産の運用、モビリティ、その他のプログラムを脱炭素化するための政策の整備を意味する。デンマークの場合は、建築物のエンボディド カーボンとオペレーショナル カーボンを削減し、段階的なエンボディド カーボン目標を実現するための一連の政策を打ち出している。また建設に低炭素コンクリートの要件遵守を規定しているカリフォルニア州マリン郡のように、脱炭素化のための独自規制を制定している自治体もある。こうした例は、AEC業界の脱炭素化に向けて世界の規制機関や政府組織が進めている取り組みの高まりの、ほんの一部に過ぎない。
インフレ抑制法
米国で大きな影響をもたらすとされる政策にインフレ抑制法 (IRA: Inflation Reduction Act) がある。これは気候変動に対する米国史上最大の連邦政府投資で、2022年8月16日にジョー・バイデン大統領の署名により成立した。IRAの気候変動とクリーンエネルギーへの投資により、米国内のGHG排出量は2030年までに2005年比で最大40%削減される可能性がある。これと各州の取り組みや今後の連邦政府の規制との相乗効果によって、2030年までの排出量50%-52%削減というパリ協定での米国の公約も現実的なものとなる。特筆すべきは、IRAでは建設資材に含まれるエンボディド カーボンの測定、公共インフラや連邦政府建物への低炭素製品の導入に45億ドル近い予算が計上されている点だ。
AEC業界がエンボディド カーボンの削減に貢献する5つの方法
AEC業界がGHGの排出に影響しているのは紛れもない事実だが、より環境に配慮した建築手法を重視するようになった。この転換において、イノベーションが重要な役割を担っている。企業は適切な設計戦略を優先し、より持続可能な建設手法を採用することで、善意を積極的な行動へ繋ぐことが可能だ。
1. データの透明性を高める
建造環境におけるエンボディド カーボンの役割をよりよく理解するには、上流工程で使用される全ての材料とプロセスが環境へ与える影響を透明化することが重要だ。環境への影響を測定・検証した透明性の高いデータの提供によって、AEC業界のプロフェッショナルには、何をどのように建設するか、より良い決定を行える機会が得られる。例えばエンボディド カーボンの削減のために建設製品のデータを比較し、よりエンボディド カーボンの低い製品や炭素隔離材料の選択が可能だ。さらに、メーカーに対して環境負荷の測定基準や測定値の報告などデータの透明性の向上を求めるようになれば、これが変化の推進力となり、業界の変革が促進されて、最終的にはAEC業界の脱炭素化が加速する可能性がある。
2. 設計最適化ツールの導入
AEC分野のプロフェッショナルが十分な情報に基づいた意思決定を支援するため、建材の環境への影響の理解、材料のデータソースの比較を行えるリソースが数多く用意されている。また、材料データに特化した設計最適化ツールが、建築材料の調査、比較、選択を支援する。これらのツールは入手可能なデータの意味を理解するのに役立ち、建築製品や材料に関連するさまざまな環境要因を、性能、耐久性、メンテナンス、美観など他の設計基準に対する総合評価の一部として評価するために使用可能だ。最適化ツールは材料データの透明性を活用し、設計者のツールキットの一部として情報に基づいた設計上の意志決定を可能にするため、AEC業界がデザインビルドプロセスの一環として持続可能性を考慮することを推進する。
例えば設計者や施工会社は材料データを比較することで、よりエンボディド カーボンの低いコンクリートミックス、よりサステナブルに製造された鉄鋼、木材などのリサイクル/炭素隔離材料など、より持続可能な材料をプロジェクトに選択できる。設計最適化ツールの多くは、このプロセスを材料や製品のCO2eの数量化で可能にしている。
これらの機能をBIM (ビルディング インフォメーション モデリング) ワークフローに統合することで、AECの専門家はこうした探索プロセスを合理化できる。Building Transparencyは米国に拠点を置く組織で、材料の体積炭素データに関する堅牢で増大するデータセットを管理するだけでなく、持続可能な建築材料の設計最適化を可能にするため、AEC専門家が使用するツールボックスを変革するBIM接続ソリューションの開発を支援。以下に、具体的な炭素排出量を削減するための設計最適化を可能にするソフトウェアソリューションの一部を紹介する。
Carbon Insights
現在 Revit のテクノロジープレビューとして提供されている Autodesk Insight の Carbon Insights 機能は、建築家が建物の外壁の初期段階の炭素含有量分析を行うための機能を提供する。このCarbon Insights は、Building Transparency の Embodied Carbon in Construction Calculator (EC3) データセットの材料体積炭素データを活用したクラウドベースのサービスだ。
EC3 (建設におけるエンボディド カーボンを計算)
EC3とはEmbodied Carbon in Construction Calculatorの略で、建築資材に含まれ、二酸化炭素排出量へ隠れた影響を及ぼすエンボディド カーボンを測定する、無料かつフリーアクセスのツールだ。このクラウドベースのツールには何千という建築製品が収められた検索可能なグローバルデータベースが搭載され、環境製品宣言 (EPD) から第三者に検証されたデータを取り込んでいる。このデータベースを活用することで、EC3は建築見積やBIMモデルから建築資材量のエンボディド カーボンの評価、ベンチマークが行える。建築家、エンジニア、施工会社はプロジェクト固有のデータを入力し、利用可能な材料の二酸化炭素排出係数を比較できる。オープンで透明性の高いこのデータベースは、Building TransparencyとEC3ユーザーの両方によって継続的にEPDがデータセットに追加され、継続的に改善される。AEC分野のプロフェッショナルは、EC3データを活用することで、より多くの情報を得た上で、より環境負荷の低い材料を選択できる。
TallyLCA
Autodesk Revit用プラグインのTallyLCAは、建築家によるBIMデータのライフサイクルアセスメント (LCA: 製品やサービスのライフサイクル全体における潜在的な環境影響の分析) を実施可能にする。建築システムの設計を決定する初期段階での利用を想定して開発されたTallyでは、カスタマイズされたデータセットに基づきカテゴリーやシステムを横断したLCA比較が可能だ。これにより、建築家は設計・計画段階における建築システムの重要な決定のためにLCAを実施でき、また後の調達段階では、EC3を用いてカテゴリーやシステムの特定の製品を比較した上でシステムのエンボディド カーボンを最適化できる。TallyLCAが建築システムのホールライフカーボンを評価するのに対し、EC3は特定の製品に関連するエンボディド カーボンの影響を計算するもので、判断は後の調達段階で行うことができる。
TallyCAT
現在ベータ版として公開されているTally Climate Action Toolは、RevitモデルとEC3ツール間のリアルタイムデータ接続を可能にするRevitプラグインだ。これにより、BIMでの設計時に建築材料・製品のエンボディド カーボン評価が実現し、調達時に低カーボン材料を指定できるよう支援が行われる。
3. 環境製品宣言 (EPD) の活用
製品や材料のデータは、必ずしも同じではない。そのため、2種類の材料の品質を公平に比較するには科学的根拠に基づき、世界的に認められた方法で審査された第三者による検証済みデータを参照することが重要だ。EPDは、国際標準化機構 (ISO) 14040およびISO 14044に準拠して独立に検証された、各材料のLCAに基づく環境データを報告するものだ。ISOはAEC業界だけでなくすべての材料データについて、EPDデータの国際基準とベンチマークを制定している。
EPDは、材料・製品の製造、場合によっては使用に関連する環境への影響に関するついて透明性のあるデータを提供する。材料のEPDは、影響を理解し、選択するという点で、食品の成分や健康への影響を表示する食品の栄養表示と似ている。この情報は、設計にその材料を使用するかどうかの判断材料として利用できる。
4. デザインコラボレーションとデータアクセスの確保
初期の計画から詳細設計、調達までの連携や共通データの利用を容易にすることは、AEC業界によるエンボディド カーボン排出量の削減にも役立つ。例えば全関係者がクラウド上で作業し、BIMなどのツールをプロジェクトに使用するようになれば、全員が同じ情報にアクセスでき、同じ情報を基に作業できるようになる。建築材料や製品に関連するエンボディド カーボンはデータ形態のひとつであり、データはBIMに統合して意思決定プロセスに情報を提供できる。関係者が調達前に製品や材料の選定を評価、比較し、環境に最適な建築手法や材料を決定すれば、それはより持続可能な結果につながる。
5. 既存の建物の再利用、転用、改修
既存の建物は、既にエンボディド カーボン排出量が埋め込まれ、長年固定されているため、重要な資源になっている。追加の原材料や資源の使用を避けることも解決策のひとつだ。 既存の建物の転用や再利用の機会を模索することで、埋め立てごみの発生や新たな資源の需要を最小限に抑えることができる。これにより、新たな建物の建設により発生するエンボディド カーボンを削減できる。
建造環境でのエンボディド カーボン削減の2つの実例
二酸化炭素排出量の削減に取り組むAEC企業は世界中で増加しているが、その取り組みは設計と建築の手法から始まる。さまざまな方法で建物の脱炭素化に取り組む企業は、エンボディド カーボンが重要な指標であり、その測定、削減が必要な理由を理解している。
サンフランシスコでクリエイティブ マルチユースを実現するマス ティンバー
1 De Haroはサンフランシスコで初めてCLT (直交集成板) を採用した建物で、カリフォルニア州初の多層建築物だ。この約12,500平米のプロジェクトは、マス ティンバー構造である点が特徴だ。グローバルなデザイン事務所Perkins&Willは、CLTとGLT (接着集成板) を組み合わせ、鉄骨とコンクリートを使用した従来の建物よりも軽量かつサステナブルで、景観の優れたビルを実現した。
Perkins&WillはTallyLCAを使用してエンボディド カーボンを測定し、CLTシステムがコンクリートと鉄骨でできた同等の建物に比べてCO2を大幅に削減できることを発見。その差は3,500t以上だ。プレファブ工法のマス ティンバーを使用することで、この構造体に隔離されたエンボディド カーボンは、15年から20年に及ぶ運用エネルギーの使用量を相殺するものとなっている。
ワシントン州レドモンドにおけるマイクロソフトのフットプリント削減
マイクロソフトは、ワシントン州レドモンドの約2㎢の本社再開発の際、建物のエネルギー効率を高めるため設計の枠を超えた取り組みを行い、建築資材ひとつひとつのカーボン フットプリントを削減する方法を模索した。同社は新たな建造物の建設に隠された環境負荷である、エンボディド カーボンを認識していたのだ。
この新しい建物17棟と約232,000平米もの新しいワークスペースを含むプロジェクトの関係者は、マイクロソフトが掲げる環境目標の達成にはエンボディド カーボンの削減が重要であることを理解していた。そしてEC3ツールを活用することで、エンボディド カーボンを30%削減。新たな建材によりエンボディド カーボン排出量が高くなる主要なエリアで、削減を優先することができた。
AEC業界とエンボディド カーボンの未来
AEC業界にパラダイムシフトが起きている。設計者は、気候変動への取り組みを優先し、建造環境でプロジェクトが地球に与える影響により大きな責任を負うという、新たな役割を担うことになった。
幸いなことに、建築家と設計者はより多くのデータと設計最適化ツールを利用し、建物やインフラに使用される材料や製品の十分な情報を得た上で意思決定ができる。現在AEC業界は、これまで以上に環境に配慮した建築材料を評価、選択できるようになっている。こうした新しい業務手法と共通データへのアクセスにより、AEC分野のプロフェッショナルは、製品の透明性を最も高く示す製品を優先するなど、取引するメーカーや材料の選定をより見極めることができるようになる。
製品の環境影響を開示している企業と連携することにより、設計者はエンボディド カーボンの削減や他の環境への配慮に役立つ適切な選択が行える。透明性の高いデータを通じて、建築製品が環境とどう関わっているのかをより深く理解することで、有害な物質や実践をすべて排除して、一歩前進することができる。早期の計画と、エンボディド カーボンなどの環境属性に関する材料の評価は、サステナビリティ向上への大きな推進力となる。
エンボディド カーボン削減を支援するべく、世界各国の政府がインセンティブを設けたり、建築規制を実施し始めたりしている。AEC業界のプロフェッショナルや企業も、建造環境におけるカーボン フットプリント削減へ、より強力なコミットメントを開始しつつある。気候変動の影響は、地球上のすべての人とものに及ぶため、より持続可能でクリーンな未来への動きが活発化している。データは建造環境におけるエンボディド カーボンの影響を理解する鍵となるが、それは単にデータを集めるということではない。データが何を意味し、すべての構造体や製品にどのような影響を与えるのかを理解することが重要だ。
こうした変化の力を受けて、AEC業界はエンボディド カーボンに関する材料や製品のデータと、BIMなどのオーサリングツールのデータの標準化と紐付けを行う必要がある。こうして建造環境データを組み合わせることで、十分な情報を得た上でデザイン決定を行い、より持続可能な材料を選択する力を得ることができる。
テクノロジーは、既に気候変動の緩和を可能にする重要な要素となっているが、適切に活用されることで地球をネットゼロ経済に導く力を持つ。そして、それは予想以上に早く実現するかもしれない。適切かつパワフルなツールと、建築におけるエンボディド カーボンに対する意識の高まりがあれば、より持続可能な未来は十分に手の届くところにあるのだ。