ESGとは? ESG投資が地球とビジネスの両方にプラスである5つの理由
- ESG (環境、社会、ガバナンス) が、投資家にとって重要な指標となっている。
- 「ESGとは何か」を問い、より持続可能な活動へとシフトする企業が増えている。
- ESG評価により、企業がリスクの軽減へどう取り組んでいるのかが明らかになる。
- AECと製造業界はCO2排出量の60%を占めており、ESGイニシアチブを優先すべきだ。
気候変動はますます深刻化しているが、人類がCO2排出量を抑制するため行動を一切行わなくとも、地球はこれまで通りに回り続ける。私のサンフランシスコの自宅の隣にある公園では、生物多様性の減少や市民の不安、不平等の拡大にも動じることなく、ウサギやモグラが跳ね回ったりトンネルをくぐったりし続けるだろう。だが、地球に住む79億6,000万人 (この数は今後ますます増え続ける) もの人類は、それほど順調に暮らしてはいけないだろうし、それには科学文献も同意している。
人々は気候変動の影響を感じており、種の絶滅を嘆き、不正義に対する抗議を行っている。ほぼ全ての人がこのシナリオに寄与し続けると同時に、その軽減にも大きな役割を果たすことができる。ESG (環境、社会、ガバナンス) 投資は、人と地球の持続可能な未来を確かなものにする方法のひとつだ。
ESGとは?
ESG投資は、投資家が企業の非財務的課題を測定し、事業活動に関連した外部への影響をどう管理しているかを理解するためのツールとなっている。ESGイニシアチブとは、企業がより持続可能かつ倫理的な方法で環境 (Environment)、社会的 (Society)、ガバナンス (Governance) に影響を与え、その挑戦をリードするためにとる行動を指す。
ESGの3本柱
2005年、世界の有力金融機関が集結して、企業が利益と目的をどう結びつけるかの模索を行った。その報告書「Who Cares Wins: Connecting Financial Markets to a Changing World (関心を示す者が勝つ: 金融市場を変化する世界とつなぐ) 」でESGの概念が紹介され、この動向における3つの柱が定義されている。
E: 環境
「環境」は、企業が自然界に与える影響をどう軽減できるのかを表している。世界経済は、生産手段を化石燃料に依存したエネルギーシステムの上に構成されてきた。このシステムは驚異的な経済成長という大きな利益をもたらした一方で、大きな犠牲も生んでいる。そのひとつが気候変動だ。環境イニシアチブは、再生可能エネルギーの利用、持続可能な原材料の調達、廃棄物の削減、環境に配慮したサプライチェーンの実現など、持続可能な事業モデルの導入を企業に促す。こうした取り組みにより、経済成長に関連したCO2排出量を削減できる。
S: 社会
企業活動は、企業内や世界全体で不均衡と不平等をもたらし、所得と機会の大きな格差を生み出してきた。「社会的」投資は、労働者、コミュニティ、サプライチェーンの上流・下流の人々への権限付与など人権に焦点を当てるものであり、そこには多様性への取り組み、公正な労働慣行、職場の健康と安全、給与の公平性、労働者教育、消費者保護、データプライバシーなどが含まれる。
G: ガバナンス
「ガバナンス」は、企業行動に焦点を当てるものだ。ガバナンスの不備は、2015年のフォルクスワーゲンの排ガス不正問題 (歴史あるブランドへの投資リスクを増大させた) のように、管理不行き届きや不正につながることもある。投資家は企業財務の説明責任と透明性、従業員と役員の報酬、取締役会の構成と多様性、リスク管理などの観点からガバナンスを評価する。
ESG投資を自社に活用する方法
ESGの目的は、事業価値を生み出しつつ、社会的・環境的な持続可能性を実現することにある。ESG投資は単なる流行に留まらず、2025年までに7,000兆円以上の規模に達すると予想されている。
ESG投資の原動力とは?
企業は通常、コンプライアンス上の理由からESGの道を歩み始めるが、それは単に「有害度の低いことをする」ために過ぎない。一定の条件をクリアするため、カーボンオフセットや、多様性への取り組みを始めたりする。だがコンプライアンスは、社会が順調でなければビジネスは順調にいかないという認識と対をなす、本来のESGと「より良いことをする」ためのゲートウェイドラッグだ。これがオートデスクとそのクライアントの現在地であり、より良い社会的成果をもたらすためにリスクを測定し、管理を行っている。
最近提案されたSEC規則案による、排出量開示がスコープ3に拡大される予定だ。このスコープ3には、従来は定量化が最も困難であった、上流ベンダーの排出量と顧客からの下流排出量が含まれる。この規則により企業には、ESGに配慮した提携者との連携がより重要になる。企業にはCDPやDow Jones Sustainability Index (DJSI) といった報告機関を通じて環境に関する取り組みを開示し、サプライヤーが環境に配慮していることを顧客が証明可能であることが、これまで以上に求められるようになっている。もはや企業単体が何を行っているのかだけでなく、その企業が活動するエコシステムの中で何が行われているかが重要になっている。全ての事業が、お互いのスコープ3排出量の一部なのだ。
ESGはどう評価されるのか?
ESG評価とは、企業の方針と実践に基づき、その企業に関連するリスクを測定したものだ。評価は企業の長期的な財務見通しの判断に役立ち、投資家にとって重要な指標となる。
ESGスコアカードはさまざまな評価機関が作成しており、その透明性もさまざまだ。Sustainalytics、MSCI、DJSIなどは業界固有の基準を用い、同業他社に対する企業のランクを決定している。例えばMSCIは、アルファベットを使用したレターグレードシステムを作り上げた。企業はリーダー (AAA、AA) 、平均 (A、BBB、BB)、ラガード (B、CCC) に分けられる。数値によるスコアを使用する組織もある。
だが、ある分野に強い企業が良い評価を得られるとは限らない。テスラはEの分野では高評価だが、SとGの問題により総合評価は低い。これは他の自動車会社との相対的な採点であり、民間部門に特化したものではない。テスラがESGリーダーボードに入らず、シェルのように持続可能性はないがスコアの高い企業 (同業他社との比較で評価される) がより高いスコアを獲得する可能性があるのはこのためだ。スコアを歪めるグリーンウォッシングも一部にはあるが、SECが気候変動リスクに関する新たな開示義務を課したことで、この制度の不正操作は難しくなるだろう。
企業がESGイニシアチブを導入する方法
現時点でESGイニシアチブに参加していない企業、とりわけAEC (建築・建設、エンジニアリング) や製造分野の企業は、時流に乗り遅れていると言える。
- AECと製造業界は、世界のCO2排出量の60%に関与している
- 労働力不足と複雑なサプライチェーンにより、そのリスクは高まる。
- AECと製造業界は他業界と比較すると多様性で遅れをとっている.
企業がESG戦略を実践には、以下のような方法がある。
1. ESGロードマップの作成について、投資家、株主、役員と話を相談する。
2. ESG評価者へ定期的に報告し、活動についての透明性を確保する。オートデスクの場合は毎年「インパクトレポート」を発行し、進捗状況を公開している。
3. ESG投資は、目標をサポートし、企業や使命の中核となり、顧客や業界に貢献するものとする。
4. AECと製造業界の企業は、ESGをビジネスモデルにどう組み込むかを熟考し、サプライチェーン全体を含むライフサイクル思考を適用する必要がある (つまり、ESGは追加事項であってはならない) 。
5. ESGイニシアチブを支援するためにテクノロジーを活用する。テクノロジーは従業員に力を与える。例えばBIMによりトラッキングや報告を容易にするデータが提供され、デジタル在庫管理により廃棄物を30%削減できる。
ESGへの反発は?
米国では、ESG投資の台頭に一定の抵抗があり、ジャーナリストや政治家は、ESG投資だけでは気候変動や社会的不公平の解決にならないと指摘している。確かにその通りだ。 だが、ESGの長期的展望は堅調だ。投資家は常にリスク管理に努めており、気候変動と不平等は管理すべき大きなリスクになっている。変動性と不確実性が高まり続ける世界において、CO2排出量、多様性の指標、ガバナンス基準の開示において、今後企業への圧力が弱まることはないだろう。ESGは進化と変化を重ねており、今後も普及していくことは間違いない。
ESG投資の5つのメリット
ESGイニシアチブには財政投資が必要だが、長期的には、そのコストをはるかに上回る効果が期待できる。
1. ESG投資は地球のためになる
ESGを取り入れる企業が増えれば、平等性が高まり、二酸化炭素排出量が減り、結果的に社会と地球にとって良いことになる。SECの新規則はそのプロセスを加速させるだろう。 企業は国連のRace to ZeroキャンペーンやThe Climate Pledgeなどの運動へ参加するようになっており、またオートデスク同様、再生可能エネルギーやカーボンオフセットの購入といった方法でカーボンニュートラルの実現に取り組んでいる。各企業がそれぞれの役割を果たすことで、世界はより良いものとなる。
2. ESGはリスク管理に役立つ
ブラックロックのラリー・フィンクCEOが2020年の書簡で述べたように、「気候リスクとビジネスリスクはもはや切り離せない」。SECの新規則は、企業が気候変動リスクをより適切に管理し、それを企業の評価に反映させることを求めている。外部性を管理し、リスク緩和のための適切なガバナンスを導入しなければ、企業は市場からの影響に直面することになる。
今後のESGでは、企業がいかに不平等を解消し、産業界の脱炭素化に貢献するかが問われる。オートデスクはサステナビリティへ積極的に取り組んでおり、ESG運営委員会を設立し、3部構成のインパクト戦略 (企業として何をするか、顧客のために何をするか、業界の低炭素化・回復力強化・公平化をどう実現するか) を策定している。
3. ESGはビジネスにも良い影響を与える
ニューヨーク大学経営大学院スターン・スクールの研究では、ESG報告に参加している企業の長期的評価が向上することが示されている。公平性を支え、CO2排出量を削減し、顧客のプライバシーを確保し、イノベーションを可能にする多様性を育むESGリスクの管理は、収益の最大化を可能にする。スターン・スクールの調査では、ESGを優先する企業は社会的、経済的危機でのレジリエンスが高まることが示されており、特にCOVID-19パンデミックの教訓を考慮すると、これは投資家にとって魅力的だと言える。
単にチェックリストの項目を消化するのでなく「より良いことをする」ことにフォーカスすることで、良心的であることが示されESG投資が優れたリターンをもたらし、さらに多くのビジネスがもたらされる。また今日の労働市場ではメリットとなる、人材の確保と定着も実現する。こうしたスマートなガバナンスは投資家からの高い関心を導き、それがより高い利益につながる。
4. 次世代投資家
現在の投資家世代は、新たな基準で針を動かしている。彼らは社会全体の利益により強い関心を持ち、気候変動や不平等のリスクを大きな問題と捉え、それらに対処しない方がコスト高になると考えている。企業もそれに呼応しつつある。2019年、有力な業界団体であるビジネスラウンドテーブルは、企業の存在理由を、株主のみに重点を置いたものから、顧客、従業員、地域社会を含むものに再定義した。
5. ESG基準の登場
ESG評価は、何万もの企業によるリスク軽減への取り組みを明らかにする。格付けが進化と拡大を続け、サイバーセキュリティや地政学的なリスクまで含まれるようになった一方で、この評価は企業が競合他社と比較してどのような評価を受けているか、どうすればより良い結果を出せるかを知るための基準を定めている。また公共部門、特にEUや米国では、二酸化炭素排出量や社会問題に対する報告要件の標準化が始まっている。やるべきことはまだあるが、特定のESG要件を満たすために企業が報告すべき内容は、より明確になってきている。
人や地球にとって良いことは、短期的な金銭的利益や利回りよりも、長期的な成長の観点から価値があることを、企業は習得し始めている。もちろん、現在も利益は最優先事項だ。 だが社会的責任や環境に配慮した活動は、利益の増大に役立つ。またこれは従業員、顧客、投資家にとって重要だ。ESGを導入する企業は、長い目で見れば必ず勝ちを収めることになるのだ。
この記事は、2020年6月に掲載された原稿をアップデートしたものです。