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3Dプリントの素材の次なるフロンティアは金属、コンクリート、木材

3Dプリンタで作られた住宅
メイン大学は2022年末、木質繊維とバイオ樹脂を使用した床、壁、屋根などバイオ材料だけを用いた55.7㎡の3Dプリント製住宅を発表した [提供: The University of Maine]
  • プラスチックは現在も3Dプリント材料の主流だが、他の材料もそれに追いつきつつある。
  • 3Dプリント市場の価値が高まるにつれて、使用できる材料の種類も増える。
  • 金属、炭素繊維、さらには木材といった原材料が3Dプリントに使用されるようになっているが、現時点ではプロシューマーおよびコンシューマー市場ではほとんどがポリマーに限定されている。

3Dプリントの分野には複雑な要素も多いが、この技術の背景となる理論はエレガントでシンプルなものだ。大きな素材からその一部を除去して成形するという、人類がものづくりに何千年間も応用してきた手法に対して、3Dプリントは製造のベースへ材料を付加していくことから、アディティブ マニュファクチャリング (付加製造) という専門用語が与えらた。

そして素材の革新によって、この静かなる革命が、想像を絶する高みへと押し上げられようとしている。

3Dプリントのテクノロジーが本当の意味で主流となるには、まだ多くの問題が残されている。だが、そのメリットは素材とともに進化する。3Dプリントにはポリマーが使われるイメージがあるが、これは2010年代に高まった消費者の関心の名残に過ぎない。

その歴史と応用、使われる材料は、実際にはずっと幅広いものだ。他の素材がアディティブ マニュファクチャリングに対応することで、ものづくりはより低コスト、迅速、安全で持続可能なものとなるだろう。

アディティブマニュファクチャリング(積層造形)と3Dプリンティングで作られたカスタム自動車部品
モータースポーツ向けアフターマーケット企業のBBI Autosportは金属アディティブ マニュファクチャリングと3DプリントをAutodesk Fusion 360ソフトウェアと連携して活用し、自社の自動車向けカスタムパーツの一部を製造している

プラスチック: 最も一般的な3Dプリント材料

ポリマープラスチックは現時点では3Dプリント用として最も普及している素材だが、その用途を凝った形状のチェスの駒やキュートな模型程度だと考えているなら、実際の対応力に驚かされるかもしれない。

3Dプリント用ポリマーは、フィラメントまたはレジンの形で使われる。その名が示す通り、フィラメントは長い糸状になっており、押出機を通過する際に加熱され、それが前層の上に重ねられて成形される。

レジンはSLA (ステレオリソグラフィー) やDLP (デジタルライトプロセッシング) 方式で使用され、液体樹脂タンクの材料が光に曝されて硬化し、前層の上に重ねられる。

どちらがベストなのだろうか? 一般的に、フィラメントは強度が必要な大きな作品に、レジンは後加工が少なくて済む小さな作品に適している。

だが製造工程そのものに内在する素材の特性を除けば、従来の製造で使用される基準を広く適用可能だ。では、その材料で重要な接合部に十分な強度を持たせられるだろうか? 耐荷重面は、物体の他の部分の質量に耐えられるだろうか? その用途へ柔軟に対応できるのだろうか?

フィラメントの種類

PLA

最も普及している3Dプリント素材であるPLA (ポリ乳酸) は、トウモロコシのデンプンなど再生可能な資源から作られる生分解性プラスチックだ。軽量でコンシューマーの使用に最適な低融点など、PLAにはさまざまな利点がある。また強度が高く、熱を加えても他の材料ほど膨張せず、他の材料との接着性も良好だ。

PLAは使い捨てのカトラリーや家電や電子機器の部品、食品包装などの「つぶせる」プラスチック、釣り糸、おむつ、女性用衛生用品など家庭や職場のいたるところで使われており、その存在に気づかないほど非常に用途の広い製造材料だ。

ABS

ABS (アクリロニトリルブタジエンスチレン) は、レゴブロックなど、強度と柔軟性が必要な用途に適している。耐久性に優れ、安価かつ軽量で、3Dプリントのヘッドから簡単に押し出すことができる。

ABSは低価格ながら強靭で剛性が高く、他のポリマーよりも耐衝撃性や衝撃吸収性に優れているため、自転車のヘルメットやゴルフクラブのヘッドなどの製品に適している。

射出成形も可能であり、クラリネットやオーボエのような複雑な内部構造を持つ楽器、車のバンパー、双眼鏡など少し特殊な形状にも対応できる。

PETG

その名前から分かるように、これは水やジュースのボトルに使用されるPET (ポリエチレンテレフタレート) に関連したプラスチックだが、グリコールで変性されているため「G」が加えられている。強度と柔軟性に優れ、より広範に使われているPLAと比較すると耐熱性を有している。

PETGは頑丈かつ滑らかで、過度の収縮が起こりにくい用途に適している。接着性は抜群だが「粘着性」が高いため、他のポリマーより押出機のノズル詰まりが問題になることがある。

殺菌可能なため、食品包装に最適なプラスチックとされている。

レジンの種類

レジンによる3Dプリントには多くの種類があるが、小さなタンクから液状の材料を供給し、加熱または硬化させて乾燥させるプロセス全般は「バット重合」(またはバット光重合)とも呼ばれる。 液状レジンは光を当てると反応/硬化する感光性樹脂で、いくつかの種類がある。

クリアレジン

クリア樹脂は、非常に精密な表面や仕上げが必要な小物類に使用される。無色透明、シースルー、軽量、滑らか、耐水性ありと、後工程で研磨や塗装を行う製品に最適だ。

水洗いレジン

レジンで3Dプリントした部品のほとんどは、バリ取りや余分な被覆物の除去のため、アルコール溶液を使用した洗浄が必要となる。水洗いレジンは、そうした化学処理を必要とせず、水で後処理することで滑らかな仕上がりが得られる。

フレキシブルレジン

曲げたり圧縮したりしても元の形状に戻る特性を必要とする製品に使用される弾性のあるレジンで、ハンドル、ショックアブソーバー、継続的なひねりや曲げ伸ばしに耐え得る部品のプロトタイプ作成に最適だ。

レジン使用時の造形法

レジンは美観を重視した部品や機能する必要のないプロトタイプに最適で、その作成に使用される光重合の種類は主に3つある。

SLA (ステレオリソグラフィー)

ミラーを使用してプリンターのベッド上のレジンに1本または数本のレーザービームを照射し、新しい層を重ねるごとに硬化させる。

DLP (デジタルライトプロセッシング)

アレイ状に並べられた極小のミラーでビルド面に光を照射し、層全体を一度に硬化させる。

MSLA (マスクドステレオリソグラフィー)

SLAとほぼ同じだが、ある一層を隠す (マスクする) LCDスクリーンを通じて光源が照射されるため、各工程でその層だけを硬化させることができる。

3Dプリンタで作られた木材
Desktop Metalは3Dプリントして充填後、他の木材製品同様に、やすりがけ研磨、染色、塗装、再仕上げが可能な木質3DプリントプロセスForustを開発した [提供: Business Wire]

未来の3Dプリント素材

現在、3Dプリントの話題は既にポリマーの枠を大きく超えたものとなっているが、実はアディティブ マニュファクチャリングの歴史そのものがそうだったとも言える。このテーマにおける最初の動きは、金属加工に関係するものだった。

従来の製造方法でしか使用されていなかった素材の多くに対して、現在は3Dプリント向けの開発が活発に行われている。

木材

3Dプリントの持つスーパーパワーのひとつが複合材料だ。複合材料は大理石やセラミック、木材などの素材の模倣に使用できる (加熱した木材パルプを瞬時に硬化させるなど、未来のミステリアスなプロセスを想像するのも、それほどの飛躍ではないだろう) 。

3Dプリント用の木質フィラメントは、約70%がPLA、残り30%がおがくずなどの木質繊維からできている。

最終製品でプラスチックというより木のような見た目と手触り、さらには匂いを表現できる点は明確なメリットだ。審美的用途に適しており、またPLA樹脂単体よりも割れにくい。

カーボン

従来の製造でそうであったように、炭素繊維は強度が極めて優れているが同性能の材料より圧倒的に軽いため、自動車、航空、宇宙、レース業界にとっては天恵と言える。

カーボンは3600℃程度にならないと融解しないため、コンシューマーやプロシューマー市場の手が届かないところにある。冷却後も収縮せず、出来上がる層は最終出力により近いものとなる。炭素繊維フィラメントには、より特殊な処理が必要となるが、鉄鋼や鉄のサプライチェーンへ破壊的変化をもたらす手段となり得る。

金属

金属は扱いづらく、より高温で加熱したり、粉末状の材料をより強い力で3Dプリンターの押出機から押し出したりする必要がある。しかし巨大かつ高温で汚く、臭くて危険な溶鉱炉に比べれば、工場の作業員や環境にはずっと健康的だ。

それは、このプロセスをより低コストで民主化されたものにしようという流れであり、シリコン型のように大きなインフラや燃えるように熱い溶鉄を扱わず、少量生産品や特注品向けの迅速な設備の再構成が可能となる。

また、コストやボリュームの削減も可能だ。たとえば、NASAはアディティブ マニュファクチャリングを用いて、ロケットの燃料ポンプを従来の約半分の部品で製作した。

ヘルスケア分野においては、体内の腐食作用に耐え得る金属は、骨や関節の代替物として理想の材料だ。また装飾においても、3Dプリントされた金属を使用することで、デザイナーや顧客は1点もののユニークなジュエリーを作成できる。

コンクリート

新世代の3Dプリント素材として、最も緊急性が高いのは建材かもしれない。

3Dプリント製住宅を建設する技術 (ボストンのある企業がロシアで24時間以内かつ11,000ドル以下で実現) には、従来の建築技術に比べて明確なメリットがあるが、それだけではない。

世界的に見ると、建設は大気汚染の23%、飲料水汚染の40%、埋め立てごみの50%、温室効果ガス排出の40%の原因となっている。.

3Dプリント製住宅はコストと時間の削減が可能であり、より良いローコスト住宅や応急仮設住宅の建設を実現する。また現場への資材運搬や廃棄物の搬出も大幅に削減できるため、建設の持続可能性をさらに高めることにもなる。

実際、現地でのアディティブ建設は、惑星外の探査や入植へ向けた最も可能性の高い方法だと提唱されている。

3Dプリンターで作られた壁
3Dプリント製住宅建設会社Apis Corは官公庁における3Dプリント製コンクリート壁の受容の先導役を担っている [提供: Apis Cor]

3Dプリントの利点

多くの技術には限りない可能性があり、そこに向かう道のりは社会へ漸進的な利益をもたらす。それは3Dプリントも同様だ。

それは材料科学が完全に発達した世界における、サブトラクティブ マニュファクチャリング (機械加工) の終焉を意味するものかもしれない。アディティブ マニュファクチャリング技術は、卓上ユニットから航空機格納庫サイズの巨大なものにまで展開できる。世界の業界全体で製造率が1:1になり、必要な材料が使用する材料を上回ることがなくなって、製造の廃棄物が存在しなくなることを想像してみよう。

現在のリサイクルシステムは完璧からはほど遠く、副産物の輸送は二酸化炭素排出の負担を増やすだけだ。それが生み出される場所で取り除くことができれば、その方がずっと良い。

それは、はるかにコスト効率の優れたプロトタイピングにもつながる。デジタルモデルを微調整して3Dプリンターに新しいバージョンを1,000回送信することは、1つのテストピースを完成させるためだけに実生産のワークフロー全体を回すより、ずっと迅速かつ低コストだ。

さらにカスタマイズやオンデマンドプリントなど、消費者へ全く新しいパラダイムを実現し、大胆、奇抜で革新的な新形状を生み出すことができる。

旋盤やフライス盤によるサブトラクティブ マニュファクチャリングは、比較的シンプルな形状のものを大量作成するのに適している。だが、ラピッド プロトタイピング同様、3Dプリントでは幾度となくデザインを変更し、1つのオブジェクトを1万個のオブジェクトとほぼ同じ単価で作成できる。

また、3Dプリントは材料を除去するのではなく付加するため無限に変更が可能で、最も精密なCNCツールでも実現不可能な独特の形状を作成できる。ジェネレーティブ デザインのような概念が加わることで、その傾向はさらに強くなる。ジェネレーティブ デザインは、デザインに必要な計算という重労働の多くを、人間の手から解き放つことができる。

そして、大規模な生産環境よりもはるかに反応の迅速な小さなスタジオでのプロトタイプの作成や、自然災害で家を失った家族を助けるための快適な住居の数日での建設など、市場投入までの時間を大幅に短縮できる。

日本工学院八王子専門学校の学生はFusion 360を使用した金属アディティブCAM (コンピューター支援製造) などの先端製造分野に取り組んでいる
日本工学院八王子専門学校の学生はFusion 360を使用した金属アディティブCAM (コンピューター支援製造) などの先端製造分野に取り組んでいる

3Dプリントは世界をどう変えるのか

素材の性能と進歩により、3Dプリントは既にいくつかの業界を完全に変貌させている。

製造における問題は、サブトラクティブとアディティブのどちらを使用するのかという二者択一ではない。ロンドンのあるデザイン会社は、既に従来型の工場に大規模なアディティブ マニュファクチャリングツールを配備したハイブリッドモデルを構築している。

また作成可能なものの範囲も広がっている。ヘルスケア分野はその好例で、アディティブ技術で製造された皮膚、チタン製の骨や関節、さらには血管などのイノベーションが積み重ねられている。

建設のイノベーションはさらなる進化を遂げており、業界を変える大きな可能性を秘めている。アディティブの実践は、この分野で最新の関連建築基準法による適切な規制を要請するほど、確立されたものとなっている。

社会的利益を得るには、住宅は高価であるという事実から着手してみてもいいだろう。住宅に全く手が届かない人も多いが、そこそこの中古車1台分の費用で、1日で家を建てることができれば、何千万人もの人々を貧困から救える可能性がある。

また3Dプリントには、通常の建築では提供できない効率性がある。住宅は通常、骨組みを作り、レンガを積み、屋根のトラスを組み、ガラス工や配管工が後で作業できるよう準備をする、というリニアな工程で建設される。

だが既に2016年の時点で、複数の材料を使用する独自アディティブ方式により、3Dプリントの可能性が拡張しつつあった。あらゆる素材に対応可能となったプリンターで家の壁を、電気配線、エアコン配管、窓ガラス、塗装などが仕上がった状態で一気に製造できる未来を想像してみよう。

未来は想像以上に早く訪れる

3Dプリントに未来的なイメージを持つ人は現在も多いが、愛用しているものの多くで既に3Dプリント技術が使用されていることを知ったら驚くだろう。しかも、それはアディティブ マニュファクチャリングが効果的に応用できれば、家庭にも大規模に導入される可能性がある最先端材料について論じる前の話だ。

これまで先駆者たちが何世代にもわたって木材、金属やその他の材料でアディティブ マニュファクチャリングの新しい道を切り開いてきたように、今日もどこかのガレージで、エアロゲル、グラフェン、カーボンナノチューブ、電子機器を内蔵した布地、あるいは今後何年かのうちには当たり前になるであろう他の物質を使用して、同じようなことに取り組んでいる人がいるのだ。

本記事は2014年11月に掲載された原稿をアップデートしたものです。ジェフ・ヨーダースの貢献に感謝します。

著者プロフィール

成長の過程で世界を変えたいと考えていたドリュー・ターニーは、やがて他の人がどう世界を変えているかについて書くほうが簡単だと理解しました。現在はテクノロジーや映画、科学、書籍などの著述を行なっています。

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