自作ドローンX VEINで人命救助を目指すチームROK

震災の被害を目の当たりにし、高専でものづくりを学んだ二人の学生が思い描いた、人命救助を目的とする自作ドローン。その趣旨が周囲の人たちやメーカーを巻き込み、やがてジェネレーティブ デザインを利用した、オープンソースの独創的な自作ドローンとして結実することになりました。


FusionでレンダリングしたX VEIN V2。2016年11月に米国ラスベガスで開催されたAutodesk Universityでも紹介された

[提供: チーム ROK]

X VEIN 自作ドローン

Yasuo Matsunaka

2016年10月10日

分: 読書時間
Team ROK 自作ドローン
チームROKの小笠原佑樹 (左)、粂田瞭 (右) 両氏。全日本学生室内飛行ロボットコンテストへエントリーした青いドローンはInventorでデザインされた。

甚大な被害をもたらした2011年3月11日の東日本大震災は、多くの人が「自分たちに何ができるか」を自問するきっかけともなった。その災害を15歳で目の当たりにした二人の学生は、後に独創的な自作ドローンの開発をスタートさせる。

「Maker Faire」は世界各地で開催されるサンフランシスコ発、世界最大級のDIYイベントで、メイカームーブメントを牽引する存在だ。2016年8月に東京ビッグサイトで開催された「Maker Faire Tokyo 2016」には、個人から企業まで実に400組もの出展者が集った。

その会場で発表されたX VEINは、二人の学生の開発による、人命救助を目的としたドローン。震災などの災害現場や遭難者を探索する山岳地などでの活動のため、強固なフレームとプロペラガードで墜落を防ぎながらも連続飛行時間を長くできるよう、最先端のデザイン テクノロジーを採用したユニークな形状が目を引く。

現在は埼玉大学の電気電子システム工学科に在籍する小笠原佑樹氏と、情報通信インフラ会社へ勤務する粂田瞭氏は、高等専門学校時代の学友同士だ。高専時代にはスマホで動かせるロボットアームで「全国高等専門学校プログラミングコンテスト (通称プロコン)」全国大会の敢闘賞を獲得したほか、二人で結成したROKというチームで「ロボカップジュニアジャパンオープン2015」のレスキュー部門全国7位、特別賞獲得など目覚ましい活躍をしている。

中学3年で東日本大震災を体験し、その惨事を目の当たりにした二人は、人命救助や災害支援に貢献したいという思いを強く持っていたという。そして、ドローンが注目されるやいなや、その用途へ活用することを考え始めた。2012年からマルチコプターの開発を進め、そのノウハウを積み重ねて2015年には「全日本学生室内飛行ロボットコンテスト」のマルチコプター部門で優勝するなど、ドローン制作のスキルを着実にアップさせている。

ジェネレーティブ デザインの採用

Team ROK 自作ドローン
ラティスを組み込んだところ [提供: チームROK]

活動拠点としているDMM.make AKIBAで行われたイベントで、二人はオートデスクの最新テクノロジーに触れる機会を持つ。そして人命救助用ドローンの制作に際して、機体強度、軽量性、撮影能力、安全性の全てをクリアするデザインを実現するにはジェネレーティブ デザインの採用が不可欠だと考えるにいたった。

「一般的な形のドローンが災害用として使われてないのは、安全性やサイズ、重量の問題もあるし、カスタマイズ性が低いという理由もあると思います」と語る、メカ設計担当の小笠原氏。現在市販されているARF (Almost Ready to Fly) やRTF (Ready to Fly) と呼ばれるドローンへ、災害地での応用のために手を加えるのは難しいと言う。

「カスタマイズ性が高く、フレームとプロペラガード、ランディングギアを持ち、なおかつ強度のあるドローンを実現するには、体積的にも重量的にもジェネレーティブ デザインが不可欠だと考えました。ドローンを空間内に静止させるには自重と浮力を完全に一致させる必要があり、機体重量のたった5%違うだけでも操縦者の感覚が変わってしまう。重量を軽くすることは、とても重要なんです」

ラティスを組み込んだところ
ラティスを組み込んだところ [提供: チーム ROK]

ジェネレーティブ デザインは要件を満たす最適な設計や構造解析をコンピューターで自動的に行う手法であり、3Dプリンターを活用することで、従来の製造方法や構造にとらわれない軽量なデザインも実現できる。さらに、ドローンの機体の大部分に3Dプリントによるパーツを使えば、修理パーツを現地調達できるというメリットも生む。X VEINのデザインでは、解析のスキルを持つオートデスクのエンジニアがジェネレーティブ デザインのサポートを提供し、本機体の特徴であるプロペラガードやモーターマウント、ランディングギアの機能を備える流線的な機体フレームを、強度を確保しつつ軽量化できるようラティス化が行われた。

プロジェクトの発展

opensourcedrone-ipad-1
DMM.make AKIBAでの設計作業 [提供: チームROK]

X VEIN全体のデザインは今年初めからスタートし、小笠原氏がインターンとして参加しているイクシー株式会社のCCOデザイナー、小西哲哉氏より、X VEINのコンセプトを元にしたデザインスケッチが4月に完成。一般ユーザーが自作やカスタマイズを簡単に行えるようオープンソース化を念頭に置き、人命救助以外の用途にも使えるように形状が決められた。その後、ジェネレーティブ デザインによるラティスが組み込まれて、現在の設計になっている。

モーターやバッテリーなど電装系を担当する粂田氏は「大体のスケッチができたらサイズを決めていって、そこから部品を選定しました。モーターやプロペラを決めたら、どれくらいの推力が必要なのかが決まって、そこからどれくらいのバッテリーが必要か、というようにコンポーネントを設定していきました」と語る。また、機体のモデリングについて小笠原氏は「今回のデザインは、とても自由曲面が多く、デザイナーの思い描く滑らかな機体形状を再現するのが困難でした。そこで、デザイナーとデザインに関するやり取りを円滑に進めるために、ワコムさんから液晶ペンタブレットCintiqを機材協力いただいて、CADモデルへ線を描き込んだり、スケッチをFusionに取り込んでモデリングを行ったりしました」と述べている。

「コントロールには2.4 GHzの電波を使っていて、コントロール距離は遮蔽物がない場所でおよそ500 m。 (改正航空法により) 目視外飛行はできないので、実際に使用できるのは100 m程度までだと思います」と、粂田氏。カメラはジンバル上にマウントされており、機体の揺れや傾きを補正して、常に安定した映像撮影が可能となっている。また、リアルタイムで手元のスマートフォンなどに映像を送ることもできる。これにより、例えば土砂崩れの後の場所などでも、不整地にとらわれない機動性を持ったドローンを、二次被害を避けながら救助隊員が行けないところへ飛ばして確認を行うなどの用途も考えられるという。その際、カメラだけでなくサーモグラフィや赤外線カメラを使えば、被災者の発見能力の向上も期待できる。

「誰かの“嬉しい”を作れる専門技術者になりたい」と小笠原氏が語るように、人のために役立つものづくりをしたいと願ってきた彼らのX VEINプロジェクトは、株式会社アイジェットの3Dプリント協力、WacomやDMM.make AKIBAの機材協力など、さまざまな協賛を得た。このドローンがさらに改良を重ねて実用化できれば、人命救助の現場での活躍はもちろん、救助用途のヘリコプターの代用として使われることでコストを抑えるなど、さまざまなメリットの実現が考えられる。

X VEINはX型のデザインと、従来のドローンのイメージを一新する、昆虫の翅脈 (しみゃく) を思わせるようなジェネレーティブ デザインによるラティス構造からネーミングされている。二人はこの機体をベースに、より長時間の飛行を可能とすべく、ラティスの変更や全体的な軽量化を図ったアップデート版をデザイン。2016年11月に米国ラスベガスで開催された「AU LAS VEGAS」でも紹介され、大きな注目を集めた。

Yasuo Matsunaka

Yasuo Matsunaka について

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

おすすめ記事