ビルディング インフォメーション モデリング (BIM) とは
- ビルディング インフォメーション モデリング (BIM) 技術はAECO業界のイノベーションにおいて極めて重要な役割を果たし、設計施工データを整理することで断片化と非効率に対処する。
- BIMは共有され継続的に更新される3Dモデルの提供により視覚化と意思決定、全プロジェクトフェーズにわたるリソース管理を向上し、コラボレーションとコミュニケーションを強化する。
- スケジュール、コスト、持続可能性、メンテナンスに対処するさまざまな側面を統合することで、BIM技術はリスクの軽減、手戻りの減少、プロジェクト成果の向上を実現する。
- IoTセンサーからのリアルタイムBIMデータは建物の運用とメンテナンスを最適化し、持続可能性の向上とライフサイクルコストの削減に貢献する。
- 相互運用性の課題や業界内でのカルチャーの変化もかかわらず、新興技術の採用と手順の標準化がBIMの機能を拡大している。
ビルディング インフォメーション モデリング (BIM) はデジタルプラットフォーム、視覚化ツールであり、そして最も重要なことに、設計施工の予測不可能かつダイナミックな作業をデータに変換し、それを整理する、AECO (建築、エンジニアリング、建設、運用) 業界における業務手法である。設計と建設の世界における技術革新基盤の最前線であり、それを切実に必要としている経済分野において、業界全体のあらゆる技術革新と密接に結びつくものだ。マッキンゼーによると、大規模な建設プロジェクトは平均で工期が20%、予算は80%の超過となることが多い。建設分野の生産性は1990年代から低下の一途を辿っており、また農業と狩猟に次いでデジタル化が最も遅れている経済分野でもある。
この状況は、AECO業界が極端に細分化および断片化された結果だ。AECO業界は地域や地方企業のネットワークとして組織され、各企業が現地の条件や規制に対応しながら、さまざまな地域で多種多様なプロジェクトに取り組んでいる。新築されるビルそれぞれがサイロ化された施工者や設計者に作られるプロトタイプであり、標準化や均一化はほとんどなされていない。そのため、製造業など標準化の進んだ業界で行われている、生産を合理化できるようなデータの取得や共有、活用は難しい。
AECO業界のBIMは、建築事務所の設計者やエンジニア、建設会社の施工者、運用・保守の専門家、ビルオーナー自身が利用する。建物の構想から運用まで、あらゆる段階でBIMの恩恵を受けられる。建物のプロパティ (材料、寸法、空間関係、エネルギー性能など) を定義するデータを組み込んだ建物の3Dモデルをチーム全体がクラウド上で共有することで、BIMはプロセス全体の絶大なコントロールを提供する。
ビルディング インフォメーション モデリングの10の利点
BIMは、コラボレーションの合理化から成果の向上まで、建設ライフサイクル全体にわたって包括的なメリットを提供する。
1. コラボレーションとコミュニケーションの向上
オーナーから協力会社までプロジェクトチーム全体でBIMが共有されると、全員が継続的に更新されるSSOT (信頼できる唯一の情報源) から業務を実行できるため、冗長なRFIや行き交う電子メールの必要性が劇的に減少する。同僚のハードディスクに匿名で埋もれているデータセットではなく、モデル自体が質問に答える場となる。自動化が進めば、BIM連携技術によりレポートや評価指標の生成や、それを関連するチームメンバーへの配布することも可能となる。
2. 視覚化の強化
BIMは基本的にモデリングツールであり、建物を3Dオブジェクトとして描画する必要がある。そのため、建築家が設計を練り直したり、費用を負担するオーナーに提案したりする際の優れた視覚化ツールとなる。同様に、施工者やエンジニアはこの視覚化機能を使用して、鉄やコンクリートを使用する前に構造やファサード内部を確認し、厄介かつ複雑な問題を良く理解することができる。多様なコミュニティからの幅広い賛同を必要とする公共プロジェクトは、あらゆる建物の計画と機能を正確に伝えるのに必要な、きめ細かな詳細が提供されるBIMの視覚化機能から計り知れない恩恵を受ける。
3. リソース管理の強化
BIMによるデジタルトランスフォーメーションの目的は、あらゆる場面における効率化とリソースの巧みな配分の推進にある。BIMは建築工程をデータ化するため、建築部材の評価や予算編成の非常に有益な助けとなり、数量拾いの工程を手作業よりずっと正確に自動化できることが多い。
4. リスクの緩和
工事の安全からコスト超過や遅延まで、建設現場で問題が生じる可能性は高い(そして実際に起きている)。だがBIMでは、こうした問題それぞれに新たなセキュリティレイヤーを追加できる。チームメンバー全員が動的に更新される統合モデル内で作業することで、コストのかかる問題になる前に干渉やミスを簡単に発見できる。例えば北京のChina Zun Towerのエンジニアたちは干渉チェックを利用することで、変更指示を同様のプロジェクトより80%削減した。しかもBIM内で操作可能なAIツールは、画像を使って工事の安全性、遅延、コスト超過などの観点からリスクを自動評価する手段を学んでいる。
5. プロジェクト成果の向上
BIMを使用すれば、プロジェクトはより迅速に、より少ない費用で、より質の高い結果をもたらす。Building Smart Internationalの国際調査で、BIMのような共通データ環境が大量の情報を共有する最良の方法だと77%の企業が考えていることが明らかになった。企業の2/3が、BIMは干渉や品質の問題をより迅速に解決し、コラボレーティブなプロジェクト環境を促進して設計の意思決定の理解と可視性を向上させる方法だと回答している。
6. 運用と保守の最適化
BIMの役割は引き渡しのテープカットで終わるわけではない。MEPやHVACシステムからエネルギー使用量、太陽熱性能まで、建物の日々の機能について重要な知見を提供する。これは建物の運用と保守にとって欠くことのできない測定であり、建物のライフサイクルコスト (建物のエネルギーと労力の支出の大部分) を削減する鍵でもある。BIMモデルをIoTセンサーに接続することで、オーナーは建物の状態に関するデータストリームをリアルタイムに得られる。
7. サステナビリティの向上
BIMをパッシブ&アクティブなサステナビリティシステムに接続することで、建物が消費・生産しているエネルギーと資源を隅々まで確認できる。オーナーは、ソーラーパネルや風力タービンで発電された電力の利用や外気温への対応、雨水の敷地内での管理など、建物がどう機能しているかを研究し、それに応じて性能を微調整できる。AIを統合すれば、これらのパターンが自動的にエネルギー消費を最小化するよう形成できる。
8. 手戻りの削減
パワフルかつきめ細かな建設プロセスの可視化により、現実世界で修正が必要になる前にモデル内でミスを発見できる。BIMにより、チームはモデルのどこに問題が起こりそうかを予測し、問題とそれに対処するために必要な建設作業の順序を紐解くことができる。
9. プレコンストラクションプロトタイピング
2022年時点における建築事務所の売上は、その大半が新築でなく改築案件によるものだ。建築家や施工者の業務対象が更地でも、より複雑な既存の歴史的建造物でも、BIMはその敷地の状況を評価し、デジタル設計プロセスを開始するための重要なツールとなっている。リアリティキャプチャ技術や、現場の画像を建物のモデルと統合するフォトグラメトリと組み合わせることで、BIMは敷地の寸法や都市背景、交通機関の接続状況など、プロジェクトチームがこれから建物を建設するエリアの状況を正確に理解するのに役立つ。
10. データ管理
デジタルネイティブ環境での構築とは、印刷文書とデジタル文書の間を行き来する必要が減り、文書やデータの管理が厄介で面倒なプロセスでなくなることを意味する。平面図、断面図、施工図、詳細図は関連するチームメンバー用に自動作成でき、基礎データはExcelシートを扱うような容易さで分類・並べ替えができる。BIMでは全ドキュメントが一元管理されるだけでなく、バージョン管理ツールやアクセス管理ツール、文書検索機能も完備されている。
BIMコンポーネントへのディープダイブ
BIMは、3Dモデリングプラットフォームとしてのベースラインへ新たな「次元」が加わって、その機能を拡張し続けている。例えば4D BIMは一般的にプロジェクトのスケジューリングとシーケンシングを統合するものと定義されており、施工者は建設中の各要素と計画全体との整合性を確認し、正確かつ順序立ててインストールされていることをリアルタイムで検証できる。5D BIMはコストに関連するおので、個々の要素に金額を割り当て、建設現場での変更に応じて予算を更新する。その上の次元は詳細までは定義されていないが、6D BIMは建築要素のサステナビリティとカーボンフットプリントの管理、7D BIMは保守、管理、運用データを組み込み、保守スケジュール、保証、検査などを管理することとされている。
こうした機能は、Autodesk Revitなど多くのソフトウェアツールに広がっている。BIMソフトウェアは、特定の業界 (建築、エンジニアリング、建設) や、MEPや構造システムなどの個々の建築システムに対応できる。その他のソフトウェアモジュールは、プロジェクトのスケジューリング、シーケンス、コラボレーションに重点を置いている。
BIMプラットフォームの乱立により、賛同を受ける一連の標準と手順が必要とされている。英国で開発された1192規格は、BIM規格の先駆けだった。この規格は2018年に19650へと進化したが、これは最初の規格が実質的に国際化され、グローバルに適用可能な規格となったものだ。この規格はBIMを使用したベストプラクティスを規定し、役割と責任、マイルストーンと期限の構成、情報共有方法、グラフィック規格、入札書類などを定義している。
BIMの導入とROIの算定
BIMを効果的に実施するには、管理組織と人事面での穏やかな忍耐の両方が必要だ。BIMを実施する計画はBEP (BIM実行計画) と呼ばれることもある) と呼ばれることもあり、建築チーム全体で構築する必要がある。クライアント、建築家、施工者、エンジニア、そして種々の協力会社からなる全メンバーの、役割と責任を定義することが必要だ。どのBIMソフトウェアプラットフォームを採用するかは重要だ。そしてプロジェクトの成果物とスケジュール、チームメンバーがいつ、どのように情報を共有するかの略図を描くパラメーター、主要なプロジェクトマイルストーン、全体的なスケジュールなども決定する必要がある (この多くはBIM標準とも重なるだろう)。BEPのより詳細な要素として、モデルの視覚的忠実度と埋め込みデータ、会議スケジュール、必要な建設公差、ファイルの命名規則、品質管理手順、BIMのイテレーションとバージョン管理手順、データ転送管理が含まれる場合もある。
BIMのROIを算定するための確立された基準はなく、それは困難な作業である。多くの場合、BIMの利点はネガティブな結果 (こちらの方が発生時の定量化が簡単) の発生を防ぐことにあるからだ。同様に、チーム内の単一のグループに生じる投資利益率は計算しやすいかもしれないが、BIMのメリットは多様かつ独特にチーム全体に広がっており、その定量化がさらに難しいこともある。
しかし、これらのBIMのメリットを享受するためには、すべてのシナリオにおいて取り組むべき、時間とお金の一貫したコスト (または投資) がある。まず、企業においてBIMを稼働させるための立ち上げコストがある。ここには、コンピューターのハードウェアやソフトウェアだけでなく、ツールに関するトレーニングも含まれる。次に、BIMのカスタマイズ性を考慮すると、特定のプロジェクトに合わせてBIMを変更するためのコストを含む、さらなる立ち上げフェーズが存在する。最後に、定量化が困難な内部プロセスの変更を含む、BIMに関連する長期的な費用支出というより不明確なレイヤーがある。BIMモデルは、従来のワークフローとは異なるタイミングで、異なる量と種類のデータを取り込むことによる恩恵を受ける可能性がある。
同様に、BIM採用者にはいくつかのレベルでのリターンが期待できる。最も基本的なレベルでは、プロジェクト自体から会社にもたらされるROIがあるだろう。より迅速かつより少ない費用でより高品質のプロジェクトを完了し、AECOチームの高評価とリピーターを獲得する。また、算定が難しいリターンや、会社全体に拡散するリターンもある。これらは、スタッフの能力向上、技術設備、ひいては労働力の繋ぎ止めにつながる可能性がある。BIMによって、企業は新しいサービスを提供し、全体的な生産性を向上させることができる。
BIMの実際の活用例
ムンバイのサイエンスパーク
現在建設中のHiten Sethi & Associatesによるコイル状の鉄とガラス製のドーム構造は、パラメトリックモデリングにより開発された半透明の覆いで部分的に包まれている。建築現場の3DモデルはAutodesk ReCap Pro、その複雑で繊細な形状はAutodesk RevitとBIM Collaborate Proで生成され、製造と材料選択のパラメーターを提供した。未来の世代に環境保護の大切さを伝えたいという思いが込められ、最先端のサステナビリティテクノロジーを採用したこの建物は、2023年度のAutodesk Design and Make Awardを受賞している。
シドニーのキークォーター タワー
この2022年に完成したアダプティブユース プロジェクトは、45階建ての高層ビルを「アップサイクル」したものだ。エンジニアリング会社BG&EはBIMを活用し、その建設資材の70%が古い建物から回収されて、アダプティブユースされるようにした。これは12,000tのエンボディド カーボンの削減、13カ月の工期短縮を意味する。解体を最小限に抑えるため、BIMデジタルツインを使用して既存材料の有効性を検証。チームメンバーが英国、中東、オーストラリアに分散しているBG&Eは、BIM 360のクラウドコラボレーション機能を活用し、就業日であれば常に作業を進められるようにした。チームは干渉チェックにAutodesk Navisworksを使用。Revitの精密さにより、この遺産登録された建物の歴史が残されるようにした。
バーゼルのロシュタワー2
ヘルツォーク&ド・ムーロン設計によるロシュタワー2は、スイスで最も高いビルだ。建築家たちは、ステークホルダーにバーチャルリアリティゴーグルを装着して建設中のBIMモデル内を見学させ、クライアントであるバイオテクノロジー企業ロシュから、この野心的な計画の承認を勝ち取った。Autodesk RevitとBIM 360で作成されたこのデジタルツインには、個々のコンセントの位置など、非常に細かな情報を含むメタデータが豊富に含まれている。エレベーターシステムは自動診断を実行し、デジタルツインはエネルギーと飲料水の消費量を監視する。
AECOプロジェクトにおけるBIMの影響
BIM技術は、プロジェクトのすべてのライフサイクルフェーズに適用できる。初期のプロジェクトプランニングにおいて、特に複雑で建物が密集する都市部の場合には、現場モデルの作成は建物自体の正確なモデルを作成することと同様に重要だ。リアリティキャプチャ技術をBIMに導入することで、現場の寸法や状況を追跡できる。このツールを使用すれば、チームは材料の搬入や設置のための点呼場所や足場、建設現場内の循環ルートを協力して計画できる。プロジェクトのフェーズとスケジュールを整理するBIMの機能は、ドキュメントの整理、レポートの作成、平面図、断面図、詳細図を推定する機能同様、建設前の計画段階で輝く。
BIMがAECO業界に広く導入されたきっかけとなったのは、自由自在に形を視覚化し洗練させることができるBIMの能力を活用した建築家たちだった。BIMはこれまでも、建築家がモデルを共有し協力してディテールを変更することを可能にする優れた設計ツールだった。パラメトリックモデリングアプリケーションは、設計者が選別できる指定のパラメーターセットの範囲で何千ものバリエーション形状を生成できるが、BIMに統合が可能であり、抽象的な実験形状を詳細な3Dモデルに即座に統合してモデルに埋め込まれた厳密に定義された機能要件の中でバリエーションが機能するかどうかを確認できる。BIMのコラボレーティブな性質は、指定の計画の建設可能性を構造または土木技師チームのメンバーが迅速かつ効率的に検証できることを意味する。
プロジェクトの建設フェーズは、BIMの機能のうち最先端のものが主役となる場面だ。BIMと建設は連携し、プロジェクトにおいて最もダイナミックであり、時として混沌としたこのフェーズを調整する。BIMでは、建設中の建物のデジタルモデルをリアリティキャプチャ技術で継続的に更新できるため、ミスや干渉を即座に発見でき、安全上のリスクを評価してフラグを立てることができる。例えばGAMMA ARのようなリアリティキャプチャプラットフォームを使用すれば、施工者は (タブレットやスマートフォン上で) 実際の建設現場に重ねる形でデジタルモデルのレイヤーを剥がすことができ、構造部材、水道管、ガス管、空調ダクトの図面を検査できる。埋め込まれたメタデータ (測定値、材料、特性) は統合され、各要素はオーディオクリップ、テキスト、画像でラベル付けできる。この種の詳細な文書化と、建物の個々の要素が互いにどう関連しているのか (ファサードパネルの構造体への設置手法、壁は床に接していなければならないこと、ドアは異なるが関連する機能を持つ2つの部屋の間の開口部であること) に関するBIMの基本的な理解との組み合わせは、BIM技術が誤りの発見に積極的に機能することを意味する。建設現場の安全性については、Newmetrix Construction CloudやオートデスクのConstruction IQなどのプラットフォームが日々の建設スケジュールを読み取り、建設現場での作業が変更されるたびに安全リスクのランキングを変更できる。
IoTセンサーに接続すれば、BIM技術は建設中や完成後の建物に何が起きているかをリアルタイムで把握できる。運用におけるBIMは、MEPやHVACシステムからエネルギー使用量、太陽熱性能に至るまで、建物の日々の機能について比類ない知見を提供する。適切なセンサーと併用することで建物のリアルタイム管理における貴重な指針となり、また建物の生涯コストの70-80%は完成後に生じるため、膨大な建物のライフサイクルコストを削減するカギとなる。データリッチな3Dモデル内で問題を即座に特定することで、BIMは学祭的なチームが迅速に介入できるよう準備を整える。
BIMにより、オーナーは標準的な運用を微調整し、メンテナンス方針を洗練させることができるが、オーナーにとってのBIMのメリットはそれだけにとどまらない。このデータは、改修、増築、遡ってのコミッショニングにおいても同様に重要だ。オーナーが建物に改良を加えたいと考える場合、その大小を問わず、BIMによって既存の建物の生きたダイナミックモデルがあることは有益だ。新しいソーラーパネルは既存のシステムにどのように統合されるのか? 病院に追加される新棟により、施設の水需要はどれほど増加するのか? 新しいファサードパネルは既存の構造に適合するのか? 最新の状態のデジタルツインは、こうした疑問に迅速かつ明確に答えることができる。さらに遠くの未来について検討するなら、BIMデータへのアクセスは、まだ発明すらされていない新しいデジタル建設技術にも役立つだろう。
新たなBIM技術
デジタルツインはBIMの極致である:建物の竣工時 (または「運用時」) の状態をリアルタイムで反映するダイナミックモデルなのだ。しかし、数々の新技術が、BIMの機能性と使いやすさを拡張するより繊細かつ複雑な方法でBIMに統合されつつある。
AIと機械学習は、BIMに進出しつつある幅広い技術分野だ。AIは建設現場とそのBIMデジタルツインにおける安全リスクを検知および予測し、建設スケジュールを監視して遅延のフラグを立てることができる技術プラットフォームを駆動する。AIはIoTネットワークを調整し、ドローンを操縦し、BIMモデルに埋め込むメタデータの新しいレイヤーを推定できる。そのほとんどにおいて、これらのAIアルゴリズムは時間とコストの効率化、二酸化炭素排出量を最小限に抑える方法の模索を行う。製品分類調達プラットフォームBimmatchはAIを使って特定のプロジェクトに最適な材料や部材を選択し、それをコスト、カーボンフットプリントなどで評価。このプラットフォーム (Autodesk Revitプラグインとして機能する) は部品表を自動生成でき、材料や部品の手作業による検索時間を75%削減する。
建設フェーズのスケジュールを整理するBIMの機能を前提とし、一部の互換プラットフォームはプロジェクトを構築する無数の手法と、手順を生成するパラメトリックプロセスを使用している。ユーザーはこれらの制約を進行中に再設定し、不測の事態を事前にモデル化できる。同社によれば、工期の短縮に加えて、このレベルの詳細な管理によって、さらに正確な工事入札が可能になるという。
ジェネレーティブ デザインを用いることで、AIはフォームの生成にも使用できる。建物やオブジェクトの規模で、(Revitと統合された) ジェネレーティブ デザインは指定のパラメーターの範囲内で形状のバリエーションを作り出し、多くの場合に、人間の直感では決して見つけられないような方法で問題を解決して目標を達成する。これらのツールは、家具を配置するだけで賃貸可能な面積の最大化や材料の使用量の最小化、日当たりの最適化や循環ルートの微調整ができる。
建設フェーズ以降のBIMの可能性の多くは、正確なデータをデジタルツインモデルに送り込むのに必要なIoT技術にある。こういったセンサーは、環境温度や湿度、スタッフや訪問者の位置や経路、エネルギー消費レベルなどを検知できるが、これらはすべてビルの運用を微調整するのに不可欠だ。
VR、そして特にARはBIMへより深いレベルの没入感を加えるが、これは共同作業ツールとしての役割にとってカギとなっている。ARは (ゴーグルやタブレット、スマートフォンを通して確認できる) BIMモデルのビジュアルレイヤーを既存の工事現場に重ねるのに使用され、これにより現場内を行き交う施工者は、設置前の空調ダクトの経路や、まだクレーンで吊り上げられた状態の構造支持材を確認できる。FologramやTwinbuildのような一部のプラットフォームは、ARを使用してレンガや屋根板の位置をひとつひとつ示すステップバイステップのワイヤフレーム建設ガイドを追加している。完全にインタラクティブで視覚的に豊かなVRやメタバースと呼ばれる完全没入型のデジタル環境は、設計や施工においてもより大きな役割を果たすようになりつつあり、空間シミュレーションや内覧の可能性に新たな高みを提供している。
BIMと新興技術の課題と検討事項
BIMの導入や、これまでとは根本的に異なる作業方法の採用に関する文化的変化と不安にうまく対処することは、このプロセスにおいて非常に重要だ。BIM内での共同作業はAECO業界に染み付いたヒエラルキーを平準化する傾向があるため、ある業界や専門職による他の業界の縄張りへの侵入だと認識され、緊張を引き起こす可能性がある。プロセスのごく初期段階で、指導者は草の根レベルの賛同を得ることに注力し、各チームメンバーの役割を規定して曖昧になりがちな部分を明確にするすべきだと、専門家はアドバイスする。
トレーニングに関しては、社内でのBIMの活用を管理する上で主導的な役割を果たすのに最適なスタッフを特定することが重要だ。トップレベルの管理者には、新しいシステム内で運用の役割を担うための時間や技術的な能力がないこともある。また有能な部下が、より優秀なBIM管理者になることもある。
新規プロジェクトは遅延や中止の可能性が高いため、チームが編成され、BIMの準備が整ったら、既に開始しているプロジェクトに導入するのがベストだ。プロジェクトが進行中の場合、既に設計者は、新しい設計プロセスを学ぶ際の不安を解消し、従来の手法で苦労していた問題の解決にBIMが役立つことをチームに理解してもらうのに必要な、基礎レベルの知識を持っている。BIMへの移行は、従来の設計プロセスでの問題点を尋ね、それをBIMがどう緩和できるかを説明することから始まることもある。
オールデジタルのワークフローへの移行に伴い、BIMを導入する企業は、スタッフトレーニング、データ管理、セキュリティ対策への投資も必要となる。また、関連するセキュリティツールは存在するものの、それらはまだBIM特有のセキュリティ上の課題や手順に十分に適合していない。とはいえ、暗号化とブロックチェーンに基づく技術はどちらもBIMに役立つ可能性を持っている。
BIMが解決を願うAECO業界の分断は、BIMアプリケーションの使用にもその名残が存在している。ツール間の相互運用性の欠如は大きな課題だ。アメリカ国立標準技術研究所の最近の調査で、設備管理における相互運用性の欠如が、ビルオーナーに年間158億ドルの損失をもたらしていることが明らかになった。これは1平方フィート当たり年間23セントに相当する。BIMはこのギャップに対処する上で大きな役割を果たすが、すべてのBIMツールがうまく連携するという保証はない。しかし、ユーザーを特定のプロプライエタリプラットフォームに制限しないopenBIMプラットフォームの利用が可能になってきている。
BIMの未来
一部の国では公共プロジェクトにBIMが義務付けられるようになっており、またUnreal Engineのようなビデオゲーム設計ソフトウェアの採用によりツールの視覚化能力は強化されている。AIはBIMプロセスにますます大きな自動化をもたらし、ロボットに搭載された、あるいはスマートフォンの写真から抽出されたリアリティキャプチャツールはより多くのデータをモデルに流し込んでいる。年を重ねるごとに、BIMは建設現場を流れる電力の電子のひとつひとつやハンマーの一振り一振りを追跡できる存在に近づいている。
やがて、BIMが個別のツールや設計施工プロセスの一部でなくなる日が来るだろう。いずれ、BIMは設計と施工そのものを包含するまでに成長し、プロセスの手順のひとつひとつを取り込んで洗練させ、プロセスと同義の存在となるだろう。多くの長期にわたる技術革新がそうであるように、BIMもまた、その頂点に達したのちにその存在感は薄まり、その結果として変貌したAECO業界だけが残ることになるのだろう。
本記事は2018年8月に掲載された原稿をアップデートしたものです。