ロボットと建築を融合した MRAAD が変革する建物の未来
紙とペンと定規からモデリング用粘土、スキャナー、熱線カッターへ。建築家のツールセットは、長い年月をかけて進化を遂げてきた。ツールやプロセスの多くが変わっているが、ひとつだけ変わっていないことがある。それは最終的な成果物を作り上げる前に作り上げる、デザインの物理モデルだ。
作成したデジタル デザインを、必要なツール全てを備えた小型のロボット アームに伝送して、それを物理モデルとして結実させられるとしたら? Perkins and Will の研究者が生み出した MRAAD (Mobile Robotic Assistant for Architectural Design: 建築デザイン用移動型ロボット アシスタント) は、まさにそうしたロボットだ。この建築家向けの革新的なロボット アームの詳細を、ビデオで紹介しよう。
[ビデオ字幕]
ハキーム・ハサン (Architectural Roboticist, Perkins and Will): 心から夢中になれることに取り組むことができています。それにより、この世界にポジティブな影響を与えられています。学校の勉強は得意ではありませんでしたね。高校で製図を学ぶまでは。製図には心の底から興味を抱きました。頭の中にあるアイデアを実現する方法でしたから。私はロボット工学を建築の実践に取り込む研究をしています。MRAAD は 建築デザイン用の移動型ロボット アシスタントで、2 セットのツールを装備しています。ひとつは、このオフィスで建築家が使っているような、熱線カッターやレーザーカッターなど一般的なツールです。もうひとつは、ロボット工学を応用した建設プロセスへの移行の際にデザイナーを支援するツールです。
ニック・キャメロン (Director of Digital Practice, Perkins and Will): Perkins and Will は他の事務所とは異なり、こうしたテクノロジーへの投資に積極的です。ロボットで何をしようとしているのか、理解していませんでした。ハキームに出会って、このプログラムを始めるまでは。
ハサン: MRAAD は、ロボットを用いたプロセスの仕組みと、それを建設の設計プロセスへどう組み込めるかを、建築家が理解できるよう支援するツールとして作られています。
キャメロン: 建築家の仕事はとてもフィジカルなものであり、常にアナログからデジタルへの移行を話題にしている一方で、建築家の最終アウトプットは極めてアナログです。我々は病院や学校など人が働く場所を作っています。そのどれもが重要な場所です。設計者はこれまで何百年も図面で指示書を作り、それを施工者に渡してきました。今後は、もっとマシンやロボットが使われるようになるでしょう。そうしたマシンが設計意図をできるだけ純粋に履行できるような指示の方法を見出す必要があります。
ハサン: デジタルモデルからシームレスなスレッドを維持して、その情報をロボットアームへダイレクトに伝送できます。そこでデジタル情報が理解され 物理環境に作用します。つまり伝達による情報のロスが存在しないのです。単にモデルの作成が速くなるだけでなく、接合部と組み合わされる各要素の構造の理解を可能とする方法なのです。コンピューターで設計できても それを物理世界で組み立てる際、材料の振る舞いの理解が問題になる場合があります。デジタル世界では理解が難しい場合がありますが、MRAAD はそのギャップを埋めようとしています。
リック・ランデル (Senior Director, Autodesk Technology Centers): それらは建築家が日々行なっている業務なのですが、いまやそれをロボットで行う方法を学んでいます。異論はあるかもしれませんが 、より効果的です。デザインを、より頻繁に反復できます。そして同時に、未来の建設方法の理解も進んでいます。この分野でデザインがどのような影響を受けるのか、デザインがどう実現されるのかを理解することは、デザイナーとしての考え方に変化をもたらします
私が率いているテクノロジーセンターには、ものづくりの未来を調査する機関が存在しており、デジタル情報が物理的な製造にどう使えるのかを検討しています。私にとっての大成功は、ここを訪問した人が去り際に「想像もしなかったことを経験できた」と話してくれることです。
キャメロン: 我々はボストンの Autodesk Technology Center で作業した初めての建築デザイン事務所でした。それが 3 年後に、ハキームがレジデンスとしてロボット工学プログラムへ参加することにつながりました。
ハサン: ここは MRAAD の物理面、デジタル面の両方で不可欠な存在で、物理プラットフォームとコンポーネント全てが製造されています。
ランデル: 私がこのテクノロジーセンターに望んでいるのは、未来がもたらす可能性に対して我々のマインドをオープンに保ってくれることです。想像力を広げて今後のプランニングに影響をもたらし、未来の姿を業界全体が理解できるよう支援していきます。
キャメロン: 自社名を冠した製品が建築に使用されているのは、本当にうれしいことです。今は次のステップを考えています。クライアントから学んだことを どう活用するかを。
ハサン: 私の日々のモチベーションは、次に登場するテクノロジーが、どんなものなのか知りたいということです。また、世界に存在する多数の問題をロボットが解決することで、より良い未来をデザインする支援を行う目標の実現のための、絶えることのない好奇心でもあります。
[敬称略]