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Fusion 360 の樹脂流動解析で量産化までのトライ回数を 25% 削減でき、コスト効率の改善を実現しました。
「創造と破壊」を企業スローガンに掲げ、新しい知識を吸収しながらチャレンジを恐れずに、変革と進化を続ける川合樹脂工業株式会社。同社は、自動車部品などのプラスチック射出成形品の製造加工を中心に、「良いモノ、良い製品を通して、常にお客様から高い満足と信頼を得る。」事業を展開している。同社の技術課では、プラスチック製品の射出成形におけるショートショットやウェルドラインなどの発生を未然に防ぐために、Fusion 360 の Simulation Extension を導入し、樹脂流動解析を活用したことで平均 4 回は実施していた試し打ちの回数を約 25% 削減することに成功した。
プラスチック射出成形のショートショットを防ぐ取り組み
川合樹脂工業株式会社の技術課で、Fusion 360 の Simulation Extension による射出成形シミュレーションに取り組んできた佐藤孔一 氏は、その経緯を次のように振り返る。
「当社はプラスチック製品を中心に、設計から量産まで一貫した生産に取り組んでいます。その中で、一番の問題がプラスチック製品の量産化におけるショートショットの発生です。もし、ショートショットが発生して、樹脂が 100% に満たない状態で出荷されてしまうと、納品先での再検品や不足分の追加製造など、生産コストの増加になってしまいます。ショートショットが発生する原因はいくつかありますが、金型の設計段階で検討する箇所は、溶融樹脂を注入する最終充填部と、袋小路のガス(空気)溜まりです。新しい金型を設計するときには、ショートショットが発生しないように、最終充填部の位置には注意していますが、確認するためには最低でも 4 回ほど実際の生産ラインを使って試し打ちを行います。その試し打ちの結果確認や修正などに時間を要するので、一つの金型を完成させるためには、約 1 年の期間がかかります」。
同社の生産プロセスでは、金型の設計と製造を社外の協力会社に依頼するケースが多く、設計段階での微調整は難しく、実際に金型が作られてから試し打ちを通して問題を修正する対応が多かった。佐藤氏は「取引先からも、試し打ちだけではなく設計段階のシミュレーションなどを活用して、より早期に高い精度でショートショットが発生しない金型を設計できないか、と要望されるケースもありました。当社としても、試し打ちの回数を削減できれば、設計コストの低減にもつながるので、よい対策はないか検討することにしました」と検討に至った背景を語る。
体験版で Fusion 360 の Simulation Extension を試用し、機能や使い勝手を評価
Fusion 360 の Simulation Extension で、樹脂流動解析による金型設計の効率化や精度向上を実現できないか検討した理由について、佐藤氏は「周りの人たちが Fusion 360 を使っていて、良いソフトウェアだと聞いたのがきっかけです。それで、Fusion 360 の Simulation Extension の体験版を使ってみようと思いました」と話し、「別の部署で利用している 3D CAD ソフトウェアにも、組み合わせて使用できる別売の流動解析ソフトウェアはあったのですが、射出成形シミュレーションで利用するには、オーバースペック過ぎるのと、コストも高かったので、そこまでの機能を使わなくても Fusion 360 の Simulation Extension で十分な検証ができれば幸いと考えました」と補足する。
体験版の利用に関して佐藤氏は「Fusion 360 の試用期間が 30 日で、Simulation Extension は14日でしたが、十分にテストできました。過去の金型データを使って、射出成形シミュレーションによる樹脂流動解析の効果を確認できました。Fusion 360 は、他社の 3D CAD ファイルをデータ変換せずに読み込んで解析に利用できることもあり、これならば今後の設計に活かせると判断して導入を決めました」と選定の理由を説明する。
樹脂流動解析の活用で試し打ちの回数を削減し約 25% の改善効果を実現
Fusion 360 の Simulation Extension による射出成形シミュレーションの効果について、佐藤氏は「金型の試し打ちの回数を平均で 25% 削減できました。試し打ちでは、実際の生産ラインを 4 時間ほど停止して作業するので、25% の削減効果は大きいです。年間で約 30 製品は新規に設計しているので、1 回の試し打ちを削減できるだけでも、年間で約 120 時間の時間短縮につながります」と評価する。
Fusion 360 の射出成形シミュレーション スタディでは、プラスチック成形品を成形できるかどうか、特定の外観不良が発生するかどうか、どの程度反るかなどを判断できる。シミュレーションに利用する材料データは、同じオートデスク製品である Moldflow と共通で、11,774 グレードと豊富に用意されている。そのおかげで、材料データ収集に時間をかける必要がなく、国内で生産されるプラスチックの射出成形では、ほとんどの材料に対応したシミュレーションを実施できる。Fusion 360 の Simulation Extension で、材料データによる流動解析や充填状況のシミュレーションに反りなどの判断ができる点も便利だ。更に詳細な検証が必要な時は、Moldflowを使うという手もある。
佐藤氏は「プラスチックの射出成形では、200 度ぐらいの温度で樹脂を溶かして、金型の中へ液体にして流し、それを冷やして硬化していくのですが、金型の中は見えません。見えないのでどういう流れで、どういうところに問題が発生してるのかを可視化し辛い点が大きな問題点でした。その課題が流動解析を通して、可視化できるようになって、その問題がなくなりました」と導入の効果を語る。
Fusion 360 の射出成形シミュレーション スタディでは、成形不良の可能性が赤や黄色のアニメーションで表示される。金型の設計データと充填する材料データ、射出時間などを指定するだけで、製造されるプラスチック部品が、正しく成形されるか視覚的に確認できる。
可視化の効果についても「実際の射出成形では、だいたい 1 秒 2 秒ぐらいで液状になったプラスチックが金型の中に入っていきます。そのときに、金型内の空気がちゃんと抜けていく設計になっていなければ、ショートショットや部品が欠けたりしてしまいます。その問題を流動解析で事前にシミュレーションを実施するだけで、金型の設計にフィードバックできるようになりました。これによって、試し打ちの時間やコストをかけなくて済むようになりました。特に、樹脂を流し込む最終充填部に空気が詰まる傾向が高く、取引先からもその対策を重点的に確認するように要望されていましたが、Fusion 360 の Simulation Extension を導入して検証できるようになった結果、その点を解消できました。さらに、射出成形シミュレーション結果のアニメーションを取引先に提供することで、金型の設計段階での対策について、納得してもらえるようになりました」と話し「取引先からの評価だけではなく、金型の設計精度も改善されました。従来、流動解析が可視化できなかったときには、過去の知見などの経験値で調整するしかありませんでした。それが Simulation Extension で可視化できたので、細かいポイントまで絞って、最終充填部の位置を調節できるようになりました」と佐藤氏は補足する。
治具の設計や金型設計とのデータ連携などさらなる Fusion 360 の活用を目指す
今後に向けた取り組みについて、佐藤氏は「現在のメインは、ショートショットを予防するための流動解析と最終充填部の調整ですが、これからは、ウェルド ラインやエアー トラップなども解析して、金型設計にフィードバックしていきたいと考えています。また、外部の協力会社とはメールを中心にしたやり取りなので、将来的にはクラウドを活用したデータ連携により、作業の効率化も図っていきたいです」と話す。
それに加えて、「樹脂の流動解析だけではなく、Fusion 360 をもっと色々と活用して、自社内での 3D CAD 設計や加工にも挑戦していきたいです。技術課では、生産したプラスチック製品に対する評価も行っています。その評価で、指示通りに寸法が仕上がっているか測定するので、そのための治具を自作するときに、Fusion 360 を使ってモデルを設計するために、もっと使い方を覚えていきたいと思います」と佐藤氏はさらなる活用に向けた意気込みを語る。