GD&T

設計・製造における公差設計と幾何公差(GD&T)

GD&T は、業界標準的な設計用の記号言語です。注記記号によって、パーツ製造の設計意図や、互換性・適合性・形状・機能などの適切な情報を伝達することができます。

パーツ設計のイラスト

公差設計と幾何公差(GD&T)とは

公差設計と幾何公差(GD&T または GDT)とは、パーツの形状/サイズについての説明と、計測値に基づいた製造可能な変動値の情報を組み合わせた注記を、パーツ設計に組み込むことができる記号システムです。従来は 2D の技術図面で使用されてきましたが、最新の GD&T ソフトウェアでは、設計に広く使用されてきた 2D の技術図面の代わりに、3D CAD モデルに情報を直接組み込むことができます。

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GD&T と製造

GD&T の標準化されたシステムは、米国機械学会(ASME)(英語)および国際標準化機構(ISO)(英語)の貿易機関によって策定されました。現代の製造では、製品の寸法の背景にある機能的な理由を効果的に伝達することができるため、設計者、製造者、検査者の間で広く使用されています。GD&T を適切に使用することで、エラーや手戻りを削減し、製品化を加速させることができます。また、パーツ フィーチャの許容可能な公差を特定できるため、検査回数やパーツ不良率、生産コストの削減につながります。

 

GD&T 規格は、長さ寸法や、設計に書き込まれる長文の注記のみに依存していた従来の方法よりも効果的です。設計意図と検査要件の両方を、旧来の座標測定システムよりも優れた方法で定義することができます。プロセスの関係者全員が必要に応じて GD&T をエンコードおよび解釈する方法を理解していれば、専門分野やチームの枠を越えてシンプルかつ明確にコミュニケーションできます。

 

1940 年、海軍エンジニアのスタンレー・パーカー氏は、座標測定とプラス/マイナス公差を使用してパーツのフィーチャを指定する従来の方法よりも信頼性が高く、コスト効率が高い GD&T システムのプロトタイプ開発に着手しました。その結果開発された GD&T は、軍の規格として確立されただけでなく、今では世界中のメーカーが準拠する標準的な規格となりました。最近では 2010 年代後半に更新されています。

 

最新の GD&T は、GD&T ソフトウェアによって 3D モデルに埋め込まれた情報の形式にも対応します。規格に準拠した GD&T には必ず「セマンティック」公差を含める必要があります。これは、ASME および ISO 規格の論理に準拠することを意味します。ただし、GD&T ソフトウェアでは一般的に、セマンティック GD&T は強制されません。そのため、設計者が設計に最適な方法で注釈付けをする責任を負います。

 

ジェネレーティブ デザインで設計された有機的なパーツ ジオメトリに GD&T を適用することは不可能に見えるかもしれませんが、部分的に利用することはできます。その場合は、GD&T を使用して他のパーツに接続されるフィーチャを作成し、標準のジオメトリ形状を使用してこのフィーチャ定義し、従来から定義されたデータムを追加することができます。

 

CAD モデルでは理論的に完全な幾何学的寸法が生成されますが、物理的に生成されるパーツは決して完璧にはなりません。GD&T では、すべてのパーツ フィーチャに対して許容公差範囲が定義されるため、パーツがアセンブリと適合し、正しく機能します。厳格な公差に準拠できず追加コストが発生するようなことはありません。GD&T の簡潔な記号言語を適切に使用することで、製品化までの時間とコストを削減し、設計者・機械オペレーター、QA 担当者のコラボレーションを強化することができます。

GD&T が使用される業種

埠頭に展示された未来的な自動車

自動車

GD&T は、数千社ものサプライヤーと取り引きしながら数百万個もの複雑な部品を製造している大規模な自動車 OEM に欠かせません。規格に準拠し、検査に合格するために役立ちます。

 


設計された製品を手にとって調べている人

コンシューマー製品

製品の機能とデザイン、人間工学の間で最適なバランスを調整するための設計プロトタイピングにおけるイテレーション プロセスが、GD&T を使用すると円滑になります。

 


複雑な電子機器のイラスト

電子設計

機械設計(英語)、電子設計およびPCB 設計には、複雑な電子設計要素が含まれます。GD&T を使用することで、サプライヤーとエンジニアが認識を共有できます。

 


産業機械のクローズアップ

産業機械

大型の機械には、過酷な条件下で機能する小さなパーツが多数必要となるため、GD&T で設計と製造のプロセスを連携させることが不可欠となります。

 


工場の中の車輪付きロボット

ロボティクス

ロボティクスによる機械パーツの製造では、非常に反復的で高精度な動作を多数の複雑なパーツで実現するために、正確な GD&T が較正・検証・検査で必要となります。

 


木工作業中にラップトップで設計を確認する男性

木工・家具設計

量産家具でもカスタムメイドのデザイナー家具でも、木工用の GD&T を使用することで、廃棄物や手戻りを低減できます。

 


GD&T を使用するメリット

GD&T を効果的に使用することで、コスト効率が上がり、製造プロセスが迅速になり、ミスや廃棄物が低減し、信頼性の高いパーツを製造できるなど、さまざまなメリットが得られます。

標準化された設計言語

GD&T を使用すると、長さ寸法より優れた方法でパーツの公差を記述できます。製造者はこれを使用することで、コストのかかるプロトタイプを多数作成することなく設計意図を実現できます。

 

プロセス コントロール

GD&T を適切に使用することで、アセンブリの質が向上し、品質コントロールが迅速になるなど、部門間で並行して作業をスムーズに進めることができるようになります。

 

信頼性の高いアセンブリを実現

GD&T は、アセンブリに正確に適合する、品質基準を満たすパーツを低不良率で製造する上で役立ちます。

 

非常に明確なコミュニケーション

GD&T は記号システムのため、異なる言語の人々でも正確に理解できます。そのため、GD&T はグローバルなプロジェクトで非常に大きな効果を発揮します。

 

ビジネスに有益な公差

設定する公差が厳しすぎると、新しい工具への投資が必要になったり、不良率が無駄に高くなってしまうなど、製造にかかるコストや時間の増加につながります。GD&T を使用することで、低コストで機能を維持できる許容可能な公差を特定できます。

 

簡単に繰り返し可能なプロセス

信頼性と精度の高い GD&T ドキュメントがあれば、製造・検査プロセスの大部分に効果的に再利用できます。また、監査証跡で収集したデータを基に、検査プロセスをデジタル化および自動化できます。

 

GD&T 対応のオートデスク ソフトウェア

Inventor、AutoCAD Plus (AutoCAD including specialized toolsets)、Autodesk Fusion など、製品開発と製造計画のためのプロフェッショナル レベルのツールを網羅したコレクション


製品設計のためのクラウドベースの 3D CAD/CAM/CAE/PCB ソフトウェア。


公差設計と幾何公差の関連リソース

プロジェクトの関係者全員が、完成後のパーツ外観について同じ認識を共有できることがなぜ重要なのか、その理由を解説する他、GD&T を使用して同じ認識を共有する方法を説明します。

 

穴のパターンに GD&T を追加することで、検査で不合格となるパーツが減ります。その仕組みをご覧ください。

 

CAD データが製品エンジニアリングや CAM システムでどのように使用されているかをご紹介します。また、製造用の CAD データには中心公差モデルが最適とされている理由を解説します。

 

GD&T に関するよくある質問(FAQ)

公差とは何ですか?

ISO によると、GD&T における公差とは「既定量における許容可能な変動値を、許容最大値と許容最小値の差として示すもの」のことです。GD&T 記号には 5 つの公差カテゴリ(形状、輪郭、方向、位置、振れ)があります。GD&T 公差には、パーツの形状、機能、適合性に関連するさまざまな種類のものがあります。

データムとは何ですか?

ISO では、データムを「値という概念を指定するもの」と定義しています。たとえば、データムは、点、線分、または平面である場合もあれば、GD&T ドキュメントの 3D データム参照フレーム(DRF)内の要素の組み合わせである場合もあります。グラフ上のデータムは理論的には完全ですが、データム フィーチャは製造パーツの物理的なスロットや穴、面などのフィーチャであるため、計測値が GD&T の許容公差の理論的な数値とは異なる可能性があります。

GD&T の履歴とは何ですか?

GD&T が普及するまで、エンジニアは座標測定、プラス/マイナスの公差、X/Y 領域などのツールを使用して製造用パーツ フィーチャを指定していました。その後、1940 年に海軍エンジニアのスタンレー・パーカー氏が、公差設計と幾何公差に関する初期の研究を発表しました。彼はその後、第二次世界大戦中にコンポーネント製造に携わっていた多くの製造業者のために、エラーを防ぎ、信頼性とコスト効率を高めるために、「真位置」という概念を用いて GD&T のプロトタイピングを行いました。

 

MIL-STD-8 文書は GD&T の軍規格となりましたが、後に取り消されることとなりました。それでも、GD&T は現在に至るまで広く利用されています。現在の米国 GD&T 規格は、米国機械技術者協会の ASME Y14.5-2018(英語) です。世界中の他の国では、ISO 1101:2017(英語) が適用されます。

GD&T はどのような用途に使用されますか?

GD&T では、パーツのジオメトリだけでなく設計意図の説明も加えることができ、製品の設計者から開発者、組み立て作業者、検査作業員まで、関係者間で情報を共有できます。長さ寸法だけでなく、パーツの製造可能性や機能について、より詳細に伝達できます。

 

製品設計を取り扱う各部門の関係者が、GD&T を適切に使用し、明示的な記号言語を共有することで、パーツの公差を定義し、パーツの廃棄物や手戻りなどのミスを防ぎ、各パーツに最適な、コスト効果が最も高い工具や加工方法を特定することができます。

GDT はなぜ重要なのですか?

  • GDT は、パーツの外観と機能を詳細に伝達するために重要です。設計者やエンジニアから機械オペレーター、そして品質エンジニアまで、関係者全体で情報を明確に共有できます。パーツをアセンブリに正確に適合させるためには、旧式のジオメトリ寸法と幾何公差の方法では限界があります。
  • GDT では、ジオメトリおよび許容可能な変動値に関する指示が統一されていて、明確であるため、パーツに関する詳細情報の伝達や、品質監査および検査が容易になります。また、GD&T では、計測時のパーツ配置方法の説明も含めることができます。 
  • 設計者は GD&T ソフトウェアを使用すると、業界標準に準拠した公差設計と幾何公差の情報を入力でき、さまざまなメリットを得ることができます。

GD&T 記号の 5 つのカテゴリは何ですか?

GD&T 記号の 5 つのカテゴリは、形状、輪郭、方向、位置、振れの公差コントロールです。

  1. 形状コントロールでは、真円度、円筒度、真直度、平坦度などのフィーチャ形状の説明が含まれます。
  2. 輪郭のコントロールでは、サーフェスの 3D 公差域を定義します。
  3. 方向のコントロールでは、角度寸法(直角度、並行度、傾斜度)の処理を行います。
  4. 位置、同心度、対称性などの場所のコントロールでは、フィーチャの場所を示すために長さ寸法が使用されます。
  5. 振れコントロール(円周振れと全振れなど)では、サーフェスの同軸度(フィーチャ軸とデータム軸の差)を考慮します。 

GD&T における 3D 注記の具体的なメリットは何ですか?

CNC プログラマーがたとえば Autodesk Inventor の 3D 注記形式の GD&T を使用すると、パーツのプログラミング中に GD&T を参照し、公差検査のプログラムを CNC コードに組み込むことができます。たとえば、加工中に切削工具が磨耗して、切削精度が低下する可能性があります。プログラム内の検査によってこれが検出されると、プログラムが停止し、切削工具を交換してプログラムを再起動できるようになります。 

 

機械加工の後にパーツを手動で検査するために使用される計測機器でも、Autodesk Fusion の GD&T から公差を自動的に取得できるため、データを繰り返し入力する手間を省くことができます。その後、Autodesk Fusion で検査の結果をレポートに組み込み、PDM や PLM システムに保存して、今後参照できるようにすることができます。

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